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もの・こと  |    2026.06.25

小さな蜘蛛に子どもも大人も夢中。富津で受け継がれる「くも合戦」の熱気を体感してきた

「いけ!」
「ガンバレ!」

境内に響く大勢の声。

大人も子どもも夢中になって見つめているのは、将棋盤ほどの小さな土俵で戦う体長1cmほどの小さな蜘蛛です。

2026年5月4日、千葉県富津市の富津八坂神社で開催された「日本三大くも合戦・第25代横綱決定戦(四半世紀記念大会)」は、想像していた以上に熱く、そして奥深い世界でした。

江戸時代から続く、富津の「フンチ文化」

画像提供:富津フンチ愛好会

富津のくも合戦で使われるのは、「ネコハエトリ」と呼ばれる小さな蜘蛛。

地元では親しみを込めて「フンチ」と呼ばれています。

この文化は、江戸時代に漁師たちの間で広まったといわれており、かつては関東沿岸部を中心に各地で親しまれていたそうです。

しかし、時代の変化とともにその姿は徐々に減少。

昭和40年代頃までは他地域でも行われていたものの、現在まで文化として受け継がれている地域は限られています。

現在、日本三大くも合戦として知られているのは、

・鹿児島県姶良市
・高知県四万十市
・千葉県富津市

の3地域。

鹿児島県と高知県ではコガネグモ、富津ではネコハエトリを使うなど、それぞれ地域ごとに特徴があります。

そんな貴重な文化を守り続けているのが、1999年に発足した「富津フンチ愛好会」です。

20代〜80代の有志約40名から始まった活動は、今では地域を代表するイベントへと成長。

さらに2024年には、日本ユネスコ協会連盟「プロジェクト未来遺産2024」に登録されました。

地域の遊び文化として受け継がれてきた価値が、今あらためて注目されています。

小さな蜘蛛に、会場中が息を呑む

午前中に予選が行われ、午後には白熱の決勝トーナメント。

同級生対決、市内vs市外対決、親子対決など、組み合わせが発表されるたびに会場は大盛り上がりです。

試合前、まず対戦者同士がしっかりと握手を交わします。

まるで相撲の取組前のような空気の中、参加者はケースに入れたフンチを行司へ手渡し、いよいよ勝負が始まります。

富津では古くから、ハマグリやあさりの貝にフンチを入れる風習があったそうですが、現在はプラスチックケースが主流。かわいらしくデコレーションされたケースもありました。

対戦者は直接手を出さず、中央に座る行司が慎重にフンチを向かい合わせ、絶妙な距離感やタイミングを見極めながら勝負を成立させていきます。

実は、フンチをうまく対戦させること自体にも技術が必要なのだそう。

トーナメントが上に進むほど、経験豊富なベテラン行司が担当するという話にも、この文化の奥深さを感じました。

そして、ギャラリーも蜘蛛が組み合うまでは応援禁止。

静まり返った空気の中、将棋盤ほどの小さな土俵へ視線が集まります。

なかなか戦わない時には、メスを見せて闘争本能を刺激することもあるそうです。

向かい合ったフンチたちは、前脚を大きく左右に振りながら相手を威嚇します。

この動きは「サを振る」と呼ばれ、まるで小さな蜘蛛がダンスを踊っているよう。

「この尻の形は強そうだ」
「色がいいな」
「サの振り方が違う」

そんな会話が自然と飛び交い、大人たちも本気そのものです。

フンチの強さは、大きさだけではなく、体の形や色、尻の特徴なども見極めポイントなのだとか。

正直、筆者自身も最初は「蜘蛛は少し苦手」と思っていましたが、このサを振る姿を見ているうちに、不思議と「意外とかわいい」「かっこいい」という感情に変わり、いつの間にか夢中で観戦していました。

そしてフンチが組み合った瞬間、

「ナリ!」
「ギャク!」
「ヨコ!」

と威勢のいい声が飛び、会場の熱気が一気に高まります。

これは、どちらのフンチがどの向きにいるかを表す言葉。

地元の方々による富津弁も飛び交い、ローカル感たっぷりの空気に思わず頬が緩みます。

くも合戦のルールは、“逃げたら負け”と、とてもシンプル。

でも実際に見ていると、そのシンプルさが面白いのです。

一瞬で決着がつくこともあれば、なかなか勝負が動かず、会場中が固唾を飲んで見守る場面も。

子どもたちが自分のフンチの名前を叫びながら応援する姿も印象的でした。

そして勝負が終わると、最後は再び対戦者同士が握手。

礼儀を大切にしながら真剣勝負を楽しむ姿に、この文化が長年地域で愛され、受け継がれてきた理由を感じました。

フンチは育てる楽しさもある

くも合戦の魅力は、当日の勝負だけではありません。

大会へ向けてフンチを採取し、育てる時間も楽しみのひとつです。

「ネコハエトリ」という名の通り、ハエを主食としていますが、蜂や蚊など自分より小さな虫も食べるそうです。

餌だけではなく、水分を与えることも大切なのだとか。

さらに驚いたのが、「調教」という文化。

大会までにフンチ同士を何度も対戦させ、少しずつやる気を引き出していくそうです。

愛好会メンバーの中には、大会までに30戦以上経験を積ませる人もいるのだとか。

一方で、ほとんど調教せず横綱になったフンチもいるそう。

飼育や調教にも、それぞれのスタイルがあるところに、くも合戦の奥深さを感じました。

また、大会後にはフンチを生息地へ戻すなど、生態系への配慮も欠かしません。

文化を残すだけではなく、自然と共存しながら継承していく。その姿勢にも、この活動の魅力を感じました。

大人も子どもも同じ目線で夢中になれる地域文化

イベント当日はキッチンカーや物販も並び、会場はお祭りのような賑わいを見せていました。

でも、その中心にあるのは、やっぱり小さなフンチたちです。

たった1cmほどの蜘蛛を囲みながら、知っている人同士も、初めて出会った人同士も一緒になって盛り上がる。

「いけ!」
「逃げるな!」

そんな声が自然と飛び交う光景は、どこか懐かしく、温かい空気に包まれていました。

印象的だったのは、子どもも大人も同じ熱量、同じ笑顔でフンチを見守っていたこと。年齢も立場も関係なく、ひとつの勝負に夢中になる時間が、そこにはありました。

自然に触れ、生き物に夢中になり、人と人がつながっていく。

富津のくも合戦は、単なる昔ながらの遊びではなく、地域の記憶や風景、人のつながりを未来へ受け継いでいく大切な地域文化なのだと感じました。

「子どもの笑顔が増えたことが一番うれしい」

富津フンチ愛好会の小坂さんに、伝統文化の継承と地域の取り組みである「くも合戦」の今後について伺いました。

「地道な活動のおかげで、時代に逆行するように子どもたちの参加者が増え、地域活性化につながる活動に一歩一歩ですが近付いてきました。

子どもたちの遊び場となり、子どもの笑顔が増えたことが一番の喜びです。

次世代の子どもたちに『くも合戦』の魅力を伝え、また次の世代、そのまた先の世代へと続く文化となるよう、今後も活動していきます」

富津フンチ愛好会が守り続けてきた想いや風景は、これから先も、子どもたちの笑い声とともに受け継がれていくのだと思います。

イベント情報

日本三大くも合戦・横綱決定戦

開催日:毎年5月4日(祝)
会場:富津八坂神社
主催:富津フンチ愛好会
協力:富津キッチンカー協会・富津交通安全協会
後援:富津市・富津市教育委員会

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この記事を書いた人

endang

房総生まれ房総育ちのWEBライター。 ライター名の「endang(えんだん)」とは、大学で専攻していたインドネシア語クラスで名付けられたニックネーム。 国内外問わず旅行やお出かけするのが好きだったおかげで、地元の良さを再発見できました。 生まれ育った場所だからこそわかる、木更津市・君津市エリアの魅力や想いをお届けします!

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