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フード  |    2026.02.16

食でお腹を、絵本で心を。ほっと一息できる「小さな絵本カフェ acero(アチェロ)」|千葉県船橋市

船橋で「小さな絵本カフェ acero」を営む原田蓉子さんは、元保育士。出産とコロナ禍をきっかけに「この働き方のままでいいのか」と立ち止まり、自分の生き方を見直す決断をした。

「人間イライラしてる時って大抵お腹空いてる時。お腹が満たされれば幸せになれる」──そこに絵本を重ね「食でお腹を幸せにして、絵本で心を幸せにする」。この二つをコンセプトに「小さな絵本カフェacero」が生まれた。

お店を開くまでの経緯

蓉子さんは保育士として16年ほど働いてきた。出産前は「子どもが生まれても今まで通り働きたい」と意気込んでいた。けれどその意気込みの奥には、休んだ瞬間に自分の居場所が消えてしまうような怖さがあったという。

振り返れば、その感覚は子どもの頃から身に染みていた。小学生の頃から打ち込んだバレーボール。強豪チームでは努力と根性が当たり前で「休んだら居場所を奪われる」という世界だった。頑張り続けて初めて認められる、その経験が無意識の焦りを作っていた。

その後無事出産を終えるが、蓉子さんの価値観は一気に塗り替えられた。「わが子ってこんなに可愛いのか」。その衝撃は、言葉にしきれないほど大きい。

一方で、現実は甘くなかった。夫の尚弥さんは飲食業で深夜まで働き、ワンオペが当たり前。さらに蓉子さんは両親を亡くしており、頼る人がいない中での育児は過酷で、強がらないと潰れそうだったと語る。それでも可愛いわが子のために、ひたすら育児をしてきた。

そして現場復帰後、子どもを12時間預けなきゃいけない生活に直面する。そこで「子どもの成長は一瞬で、一緒に過ごす時間はとても貴重なはずなのに、このまま頑張り続ける事が自分も子どもにとっても幸せなのだろうか」という疑問を抱え、保育の仕事が大好きな気持ちとの矛盾を感じていた。

保育の仕事は尊いのに、気づけば自分の人生の大事な瞬間を取りこぼしている。その葛藤が、蓉子さんを動かした。

「いま目の前にある子どもの成長と家族の時間の尊さを選ぶ」
そうしてたどり着いたのが「店を出す」という選択だった。

子育てと自営業を両立する中での苦労

独立して店を持つということは、自由を手に入れる代わりに、現実のシビアさもある。夫婦で店を回している以上、ふたりが同時に休めば収入ゼロ。休むことが即座に生活へ響く。そんなプレッシャーが、いつも背中にある。

それでも蓉子さんは、迷わず「子ども」と「家庭」を優先する。土日に子どもの行事があれば、ためらいなく店を閉める。飲食店にとって土曜日を休むのは正直、痛い。けれど蓉子さんは、いま目の前にある時間の尊さを選ぶ。

「私は休みます。だって子どもと一緒にいられる時間は今しかない」

働き方も店のあり方も「こうあるべき」にとらわれるのではなく、自分たちらしい働き方・暮らしを考えながら作っていきたい。子どもと過ごす時間は、先延ばしにできない。だからこそ、蓉子さんは迷いなく休む。いま目の前にある大切な瞬間を、見逃さないために。

お店のコンセプトや大切にされていること

画像:「カステラホットケーキ」1200円 絵本の世界をモチーフにした店の人気メニュー

aceroを語るにあたって、絵本はかかせない。蓉子さんが大切にしているのは、長く読み継がれてきたロングセラー、いわば「成人した絵本」。10年、20年と時代を超えて愛される絵本には、心地のよい日本語やページをめくるたびに広がる想像の余白、そして人の心に残り続ける力がある。

「子どもだけでなく大人にも読んでほしい。絵本は、大人から子どもへ手渡されるものだから」棚に並ぶ絵本を眺めるだけで、蓉子さんの絵本への愛情が伝わってくる。

絵本から飛び出してきたようなメニューもaceroの魅力。香りや彩り、盛り付けが物語の一部みたいで、テーブルの上に小さな魔法がかかったよう。カフェの扉を開ければ、大人も子どもも現実を忘れて物語の世界に浸れる──それがaceroだ。

今後のお店のビジョン

今後のお店のビジョンとして、蓉子さんは「世代の垣根を越えて、地域と一緒に生きていけるお店にしていきたい」と語る。

育児や暮らしを一人で抱え込みやすい時代だからこそ、家以外にも居心地のよい居場所があることが、どれほど人を救うのかを蓉子さんは身をもって知っている。だからこそ目指すのは、誰かが限界を迎える前に立ち寄れる場所が、地域の中にちゃんとあることだ。

そのために蓉子さんは、街そのものを「頼っていい場所」に育てていくことを考えている。近隣のお店とも手を取り合い「子どもたちが何かあった時に駆け込める拠点」を増やしていきたい。

困ったときに、受け止めてもらえる場所が点ではなく線でつながっていたら、子育てはきっと少し楽になる。親や子どもにとって「この街なら大丈夫」と思える感覚が、心の支えになるからだ。

「子育ての孤独を、一人で抱え込まない。共感が生まれる場所をつくり、安心が循環する街にしていく」蓉子さんが目指しているのは、そんなやさしい社会の仕組みそのものなのかもしれない。

子育て世帯に伝えたい「周りを気にせず、自分の道を」

「acero」は、ただコーヒーを飲むためのカフェではない。張り詰めた心をふっとほどき、もう一度前を向くための息継ぎができる場所だ。

蓉子さん自身、家族に寄り添いながら、両親を亡くした喪失感やコロナ禍での孤独、そして子育ての葛藤と真正面から向き合ってきた。その一つひとつを乗り越えてきた人の言葉だからこそ、聞く人の心にまっすぐ届く。

「子育ては今しかない。だから周りを気にせず自分の道を行く」

その言葉は、頑張りすぎている親の肩にそっと手を置くように、静かに背中を押してくれる。

店舗情報

住所:千葉県船橋市前原西5-17-6 ハウスレガロ101号室
TEL:047-407-0652
営業時間:11:00~17:00
定休日:不定休
駐車場:1台
公式サイト:https://chiisana-ehoncafe-acero.com/
公式Instagram:https://www.instagram.com/ehoncafe_acero/

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この記事を書いた人

田畑 幸康

千葉県船橋市で2人の子育てに奮闘中の元保育士ライターです。 我が子の育児はまさに試行錯誤の毎日。「これでいいのかな?」と悩むことも少なくありません。 そんな私のリアルな経験談と保育士目線を交えながら、千葉県に特化した子育て情報を発信します。少しでも皆様のお力になれたら嬉しいです!

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