2024年8月8日に岐阜県庁で開催された「第8回東アジア農業遺産学会」。翌9日には日中韓の参加者が岐阜県の世界農業遺産「清流長良川の鮎」関連施設を視察しました。
後編では「清流長良川の鮎」関連施設への視察に同行し、取材した内容を紹介します。
■岐阜県の世界農業遺産「清流長良川の鮎」
清流長良川あゆパーク
清流長良川あゆパークは、「清流長良川の鮎」が世界農業遺産に登録されてから「長良川の鮎」を漁業関係者だけでなく、地域の小中学生や観光客に広くPRする目的で建てられました。
長良川の鮎の伝統漁業は鵜飼だけでなく「友釣り」「夜網漁」など多岐にわたります。
あゆパークではこれらの鮎漁業をもっと身近に感じてもらうため、友釣り*に必要な道具を貸し出し、デモンストレーションを実施し、観光客でも気軽に体験できる取り組みを進めています。
*友釣り:縄張り意識の高い鮎の特性を利用した漁法。囮となる鮎(種鮎)を釣り糸の先につけて天然鮎を刺激し、攻撃してきたところを釣り上げる。
網を投げて鮎を大量に捕まえる投網の体験やデモンストレーションも実施しています。
投網漁は鮎が寝静まった夜間に実施すると、一晩に200匹も取れるほど大量捕獲が可能な漁法。
そのため、鮎を取りすぎないよう友釣りが解禁される6月上旬より遅れて8月上旬に解禁されます。
*投網漁はあゆパークでの体験以外では、漁業組合に加入することで行えます。
また、あゆパークでは観光客向けに長良川の鮎に「触れて、食べて、遊んで、楽しめる」よう、鮎の掴み取りや釣り堀での釣り体験、釣った鮎の調理体験といったイベントを実施しています。
世界農業遺産に登録されて「清流長良川の鮎」の知名度が上がったこともあり、インバウンド向けのイベントやプログラムも取り入れています。
岐阜県魚苗センター
清流長良川の鮎資源を確保するための鍵となる施設が岐阜県魚苗センター。
センターでは産卵期の秋に遡上してくる鮎を捕まえ、採卵・人工孵化させた稚魚を半年育成し、春に長良川に放流することで鮎資源の安定確保に貢献。
毎年70万トンの稚魚を育成して放流しています。
一部の鮎は成魚になるまで飼育され、展示や掴み取り、釣り体験用として3000匹ほどあゆパークに運ばれ、鮎のPRの一翼を担っています。
魚苗センターの視察では、学会参加者から大量に孵化させ稚魚を育てるシステムや放流させるための取り組み、病気対策などについての質問が多く飛び交いました。
郡上八幡の伝統工芸
長良川流域では昔から川を綺麗に保つ取り組みがされており、鮎漁業だけでなく長良川の水で育まれる農業品や工芸品も数多くあります。
岐阜県は鮎資源だけでなく、長良川流域の農業や工芸品を守るため、人の生活や水環境、漁業資源が連関する「長良川システム」を立ち上げ、川を作る森の保全や流域の文化の保存に努めています。
郡上八幡の歴史的な町並みの中には、藍染めや和紙造りなど長良川の清涼な水を利用した伝統工芸品を扱う店が並んでいます。
これらの工芸品は観光客でも買うことができ、中国・韓国からの学会参加者が興味深そうに散策していました。
「清流長良川の鮎」を世界に広め、持続可能な漁法へ
岐阜県では「清流長良川の鮎」が世界農業遺産に登録されてから「長良川システム」を立ち上げ、「持続可能な漁業」として守る取り組みをしました。
この結果、川の水質が向上して天魚や鰻などといった鮎以外の川魚の個体数も増加。長良川独自の生態系が甦りつつあります。
長良川システムに力を入れていることで、大量の鮎を獲れる伝統農業の梁漁*を現代に受け継いでも鮎資源が耐えることなく、今でも岐阜の夏の風物詩として親しまれています。
*梁漁:木や竹で組んだ簗で川の流れを堰き止め、流れ込む魚を大量に獲る漁法
また、「清流長良川の鮎」の品質向上やブランド化、PRに努めた結果、現在では豊洲市場に長良川の鮎を卸せるようになり、タイやオーストラリアなどの諸外国にも輸出できるようになりました。
長良川の鮎の市場価格は世界農業遺産登録前と比べて1.5倍程度向上し、「持続可能な漁業」として守る活動が軌道に乗り始めています。
「清流長良川の鮎」を「持続可能な漁業」として確立し知名度が上がれば、この取り組みを他県や他国にも流用でき、内陸部で持続可能なタンパク質確保に貢献できます。
このため、岐阜県は東アジアの国々で「鮎の友釣り選手権」を実施して上位者を招待する、各国の農業関係者や実習生を多く受け入れるなどして「清流長良川の鮎」を保全・発信する取り組みを続けています。
清流長良川で採れた鮎や農作物、伝統工芸品を商品化した「清流長良川の恵の逸品」は遠方からでも取り寄せ可能なので、興味のある方はチェックしてみてください。