Mediall(メディアール)

オンリーワン・ナンバーワンをキュレーションする地方創生メディア

もの・こと  |    2023.10.20

団地の真ん中で夢のお店を開店。シェア施設HIBARIDOは「えいやー!」と一歩踏み出せる場所【後編】

山口幸子さん
Yuki’s Tea Roomの店主 山口幸子(やまぐち ゆきこ)さん

東京都西東京市の巨大団地の中に佇むシェア施設「HIBARIDO(ひばりどう)」。前編では、HIBARIDOの利用方法や利用者層などについてご紹介しました。

後編では、HIBARIDOでスコーンと紅茶のお店「Yuki’s Tea Room」を出店中の山口幸子さんからお聞きした、HIBARIDOで出店した経緯や、経験して感じた素直な感想をお届けします。

幸子さんが思う、お店を持つ上で大切な考え方とは…?

Yuki’s Tea Roomとは?

スコーンと紅茶セット
Yuki’s Tea Roomのスコーンと紅茶ソーダ

Yuki’s Tea Roomは、イギリスのコッツウォルズという田舎町にあるティールームをイメージしたお店。

店主の山口幸子さん(以下、幸子さん)は、お母さんが作るような手作りのお菓子を気楽に食べながらお茶を楽しめる場所にすることを目指しています。

メインの商品はスコーンですが、ビクトリアサンドやキャロットケーキなどのように、イギリスの田舎のお母さんが作るような素朴なお菓子を多く販売しています。

「ワクワクしかしてなかった」偶然が重なりHIBARIDOに辿り着くまで

昔からお店を持つ夢があったわけではなかった幸子さん。その都度、自身が「やりたい」と思う気持ちに正直に従い歩んだ結果、HIBARIDOに辿り着いたのだと言います。

イギリス・コッツウォルズとの出会い

コッツウォルズの街並み
出典:写真AC(コッツウォルズの街並み)

幸子さんが初めて働いた場所はディズニーランド。そこで接客の楽しさを知りますが、接客の際に英語の必要性を感じて語学留学を決意したそうです。そこで、留学資金を貯めるため、プリン店の催事部門でアルバイトを始めます。

プリン店でのアルバイトを始めて約半年で100万円を貯め、イギリスでの1ヶ月のホームステイを実現した幸子さん。イギリスの旅行雑誌で観光スポットを探していると、原っぱの中に石造りの可愛らしい家がポツンポツンと並ぶ「コッツウォルズの街並み」が目に留まります。

その時「あーここ、すごく好きだな」と感じた幸子さん。しかし、当時はそう感じた程度で、お店を開く夢は抱かなかったと言います。

催事会場での出会いで開業の夢を抱く

山口幸子さん

帰国後も、催事会場のプリン店で働いていた幸子さん。催事会場で隣同士で出店していたお好み焼き店のスタッフさんと仲良くなり、幸子さんの人生の歯車が回り始めます。

スタッフさんは、全国の催事会場へ一緒に回る人をちょうど探していたそう。幸子さんがお店の味に惚れ込んでいたことも重なり、お好み焼き店で一緒に働くことになったのです。このときに初めて「自分もお店を持ちたいな」と思い始めたのだと言います。

なかなか開業に踏み出せない日々にチャンスが

山口幸子さん

その後、お好み焼き店で5年間働きますが、お店を開くために何をしたらよいかわからず、なかなかお店を開くには至らなかったという幸子さん。とりあえず次のステップへのヒントになればと、食の専門学校に通い、食品店舗の開業について学ぶことにしたそうです。

しかし、半年程のカリキュラムを終えたあとも、なかなか開業へ踏み出せなかったと言います。その理由は、幸子さんには催事の経験しかなく、イートインのお店での経験がなかったからだそう。

そこに、開業に向けて一歩前進するキッカケをくれる人との出会いが。同専門学校の卒業生で飲食店を開業された方がいて、その方のお店で実地研修を兼ねたアルバイトをさせていただくことになったのです。

開業へ踏み出そうとしたタイミングでのコロナ禍が“思考の転換”に

山口幸子さん

お店でアルバイトをする傍ら、開業に向けて出店できる物件を探していた幸子さん。しかし、その矢先にコロナウイルスが流行し始め「このタイミングでお店を出すのってどうなんだろう」と思い留まってしまったそうです。

そのまま2、3年ほど開業時期が延びる中、東京都東久留米市へ引っ越すことになり「そろそろ開業に向けて動こうかな」と思うようになったそうです。

それまでは実店舗での営業のことばかりを考えていた幸子さん。しかし、コロナ禍のリスクも考え「店舗を持つ取っ掛かりとして、もう少し気軽にできるところで開業してもいいのかな」という思いが出てきたと言います。

滑り込みで叶ったHIBARIDO出店

Yuki’s Tea Room

実店舗からのスタートをやめ、レンタルキッチンで、しかも営業許可が取れるところを検索し始めた幸子さん。すると、すぐにHIBARIDOがヒットしたと言います。

HIBARIDOを見つけたその日のうちに色々と調べると、翌日が内覧会の日だったそう。ダメ元で参加したい旨をメールすると、滑り込みで参加できたそうです。

内覧会に参加すると、HIBARIDOの建物とそのコンセプトに一瞬で惹かれたそう。

HIBARIDO
太陽光が差し込むガラス張りの壁面
GOOD DESIGN賞受賞
HIBARIDOは2018年にGOOD DESIGN賞を受賞

「自分の中で、ここでお店を開くイメージしか湧かなくて… ワクワクしかしてなかったです」と、当時を振り返り、にこにこと語ってくださいました。

そして、その直感に従い、2022年の6月からHIBARIDOで出店を開始したと言います。

自分のモットーは「他力本願」だと、おちゃめに笑う幸子さん。実は慎重な性格だと言いますが「条件とかタイミングがバシッと決まったときは、直感で『よし』って動けるような感じです」と言います。

人の手を頼りながら流れに身を任せ、来るべき日に備える姿勢がチャンスを掴む秘訣なのかもしれませんね!

出店して良かったこと

Yuki’s Tea Room
Yuki’s Tea Roomに並ぶスコーン

一番うれしいのはお客さんから「インスタを見て来たんです」と言ってもらえることや、商品を気に入って常連さんになってくれることだと言う幸子さん。

しかしその他にも、HIBARIDOで出店したメリットを感じているそうです。

初期費用が抑えられる

まず答えてくださったのは、実店舗を構えるより初期費用がかなり抑えられること

「実店舗を持ちたい夢がある方はまずHIBARIDOで店舗運営のテストをしてから、できそうだなというタイミングで店舗の物件を探して、本業の仕事を辞めるという流れが良いのかな」とアドバイスしてくださいました。

売り上げが安定するまでは収入が不安定になるため、本業を続けながらHIBARIDOでチャレンジすることが理想のようです。

利用者同士の「助け合い」と「相乗効果」

ひばりどうマルシェ
利用者同士でつくり上げた「ひばりどうマルシェ」

HIBARIDOでは、利用者同士の関係がとても良い効果を生み出しているそう。

「何か困ったことがあっても、HIBARIDOを運営するタウンキッチンさんに相談してなんとかしてもらうというより、利用者さんに『こういうのってどうしてます?』って相談する方がどちらかというと多いかな」と幸子さんは言います。

利用者同士で助け合う中で仲良くなり、互いのお店のコラボ企画も実現しているそう

HIBARIDOの元利用者の方が駅の近くでチャイ専門店を開業され、そのお店で扱ってるスパイスを使ったコラボクッキーを販売することになったそうです。

また、HIBARIDO利用者でギターショップを運営されている方からは、自身のギターブランド名「フィルモア」が入ったコラボケーキを販売したいと声を掛けていただいたそう。10月の半ばからインターネット販売での発送開始を目指していると言います。

お互いのお店のお客さんが、お互いのお店を知ってくれる機会になり、相乗効果を生み出せるのもHIBARIDOの魅力なのかもしれません。

「利用時間」と「売上」との葛藤

良いこともあれば、逆に難しいと感じたこともあるそう。正直な感想について、幸子さんに語っていただきました。

HIBARIDOのキッチンを借りて製造・販売を行う場合、月3万円の利用料で30時間利用できると言います。しかし、30時間以降の利用には、30分につき500円の延長料金を支払う必要があるのです(※)。
※月3万円の料金と延長料金のそれぞれに、消費税10%と共益費20%が加算されます

費用を抑えるため「なるべく30時間以内に抑えるようにしたい」と幸子さんは言います。

ですが、外のマルシェでも販売するようになってからは、その仕込みにもHIBARIDOを使うようになり、利用延長せざるを得ないときもあるのだとか。

延長した分だけ売上が厳しくなる経験をし、改めて、実店舗をちゃんと持ちたいという気持ちになったそうです。

しかし、これも経験したからこそわかったこと。痛い経験も学びとして吸収する幸子さんの姿勢を見習いたいと思いました。

幸子さんが目指す将来の夢

山口幸子さん

来年あたりから、実店舗の開業を考えているという幸子さん。

外観はコッツウォルズ風の石造りっぽいお店にしたいんですけど、お店の副題みたいなかんじで『ゆきちゃん家』ってつけたいんです。『ゆきちゃん家にお茶飲みに行こうよ』みたいな感じで、お友だちの家にお茶しに行くみたいなコンセプトのお店を開きたいなと思っています」と、楽しそうに理想のお店のイメージを語ってくださいました。

今の前向きで明るい幸子さんからは全く想像できませんが、実は、学生時代の幸子さんは鬱気味で部屋から出られなかった時期もあったそう。毎日のように人生を終わらせようと考えていたと言います。しかし「あの頃はつらかったですが、今はすごく楽しいので、諦めなくて良かったと思っています」と清々しいお顔で話してくださいました。

そんな経験があるからこそ、弱い人の気持ちもわかるという幸子さん。だからこそ、そういう人の居場所づくりもお店でできたらと考えているそうです。

今悩んでいる人にも『今ここで諦めなくていいんだよ』と伝えられる人間になりたいです」と涙ながらに伝えてくださいました。

最後に:考えた上で勢いに乗る姿勢が大事

終始にこやかで、柔らかな雰囲気の幸子さん。初めてお会いしましたが、以前から知っていたような居心地の良さを感じました。

決して自分を大きく見せたり、飾ったり執着したりせず、明るくありのままでいる人柄が人やチャンスを引き寄せるのかもしれません。

最後に、自分のお店を持ちたい方へのアドバイスを幸子さんに伺いました。

実際やってみたら思うようにいかないのも当たり前だし、その中でもその時々の状況に合わせてやってみたら意外といい形になると思うんですよね。もちろん、まったく考えなしに無謀に飛び込むのはダメかもしれませんが、考えた上で勢いに乗る姿勢も結構大事なことなのかもしれないです

人との繋がりを大切にし、失敗を学びと捉えて前向きに進む幸子さん。今後も「他力本願」をモットーに人やチャンスを引き寄せ、理想のお店を開業されることでしょう。

施設情報

施設名:HIBARIDO(ひばりどう)
所在地:東京都西東京市ひばりが丘3丁目2番51号(西武池袋線 ひばりヶ丘駅より徒歩17分)
電話:0422-30-5800
営業時間:6:00~23:00(出店日はHP掲載の各店舗Instagramをチェック)
ホームページ:https://hibarido.life/
Instagram:https://www.instagram.com/hibarido_sharedepartment/

店舗名:Yuki’s Tea Room
所在地:HIBARIDO
営業日:火曜日 13:00~18:00(出店日の詳細はお店のInstagramをチェック)
Instagram:https://www.instagram.com/yuki.s_tea_room/

記事をシェアする

この記事を書いた人

髙橋 ユミエ

取材・SEOライティングをする30代フリーライター(2児の母)。雑誌サイゾーのWebメディア『Wezzy』・Webメディア『東京フリーランス』など、数々のメディアで執筆。 結婚と同時に引っ越してきた東京都東久留米市の住み心地の良さに魅了され、実家よりも大好きな土地に。東久留米市を中心に、その周辺地域や家族で訪れた場所の魅力を発信します!

関連記事