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もの・こと  |    2024.05.17

楽器のまち・浜松で無料開催!“ちょっと音楽に触れてみたい”を叶える「オルガンミニコンサート」【後編】

前編では、楽器のまち・静岡県浜松市で無料開催されている「オルガンミニコンサート」の様子をレポートしました。

▼前回の記事はこちら

主催している浜松市文化振興財団の青木さんは、

「多くの方に中ホールに足を運んでいただきたい、パイプオルガンの音色を知っていただきたい、という想いでコンサートを開催しています」

と話します。
コンサート終了後にお話を伺いました。

大きくて繊細な楽器・パイプオルガン

アクトシティ浜松の中ホールは、クラシック音楽を聴く上で優れた造りになっています。
その舞台上に鎮座するのが、パイプオルガンです。

正面の幅は10.79m、高さは11.35m。
大小さまざまなパイプがそびえ立っています。

中ホールにあるパイプオルガンのパイプは、全部で4,478本。
表面に見えているのはほんの一部で、大半が裏側に隠れています。
青木さんによると、内部は3階建てになっているそう。

規模が大きい理由は、パイプオルガンの仕組みにあります。
特別に演奏台までお邪魔しました。

1本のパイプで出せるのは1音のみ

見上げてわかる大きさ

パイプオルガンは1本のパイプにつき出せる音がひとつと決められています。
このパイプはド専用、このパイプはソ専用と、1本1音専用です。

パイプに風を送り、空気を振るわせて音を出すパイプオルガンは、リコーダーに似た仕組みになっています。
リコーダーと違うのは、パイプオルガンに指で塞ぐための穴はなく、パイプの長さで音階を変えていること。
細くて短いパイプからは高い音が、太くて長いパイプからは低い音が出ます。

1音につきパイプ1本となれば、鍵盤の数のパイプが必要になりますが、音階だけであれば4,000本以上のパイプは必要ありません。

パイプオルガンの仕組みを知る上で、もうひとつの大切な鍵が「ストップ」です。

音色を変える仕組み「ストップ」

まるで操縦席のような演奏台

複数の音色が出せるパイプオルガンには「ストップ」と呼ばれる音色を変える役割のレバーがあります。
鍵盤の左右についているたくさんの丸いレバーが、ストップです。

トランペットやフルートなどの名前が書かれたストップを引き出せば、同じ鍵盤を押しても音を出すパイプが変わる仕組みになっています。

音色はトランペットなどの管楽器から、ヴィオラといった弦楽器までさまざま。
パイプの素材や形で音色を変化させています。

パイプは1本につき1音専用なので、音色1種類につき音階ごとの専用パイプが必要です。
つまり「音階の数×音色の種類=パイプの数」となります。

中ホールのパイプオルガンはストップが64個…これだけの大きさになるのも納得です。

音色だけじゃない「ストップ」の役割

中ホールのパイプオルガンはフランス製
レバーに書かれた名前もフランス語です

ストップは音色の変化だけでなく、音の表現にも関係しています。

ピアノと異なり、パイプオルガンは鍵盤を押す力で音を大きくしたり小さくしたりといった調整ができません。
そのため重要になるのが、ストップの組み合わせです。

ストップを少なくすれば、静かな場面を表現できます。
多くのストップを組み合わせて、深みのある壮大な音色を演出することも可能です。

64もあるストップの組み合わせを駆使して、表情豊かな音楽を作り上げているのですね。
パイプオルガン演奏におけるストップの重要性がわかります。

鍵盤3段+足鍵盤+ストップ…繊細に生み出される音

中ホールのオルガンには手鍵盤が3段、足鍵盤に加えてストップレバーは左右に64個もあります。
どのように演奏しているのでしょうか。

実は手鍵盤の下にある四角いボタン、コンビネーションボタンでストップの設定をあらかじめ決めているのです。

曲を弾きながらはもちろん、曲と曲の合間に複数のストップを細かく変えようとするのは、演奏者ひとりでは無理があります。
昔は操作を変えるために助手が必要でした。
しかし、現在では電気で制御し、あらかじめ設定したストップをボタンひとつで変えられる仕組みになっています。

それでも今回のコンサートでは、隣に座る助手が曲中に何度もボタンを操作している姿が見られました。
テクノロジーが進化しても、ひとりでは演奏できない楽器…とても壮大ですね。

「同じ曲を弾いてもまったく違う音になるので、ストップの作り方はオルガニストの腕の見せどころでもあります」と青木さん。

「曲の中でストップを減らして静かに奏でる方もいれば、同じところでも音を増やして表現される方もいます。
同じ曲でも個性が出る。そこがコンサートへ行く楽しみでもあるのかな、と思います」

オルガニストは、リハーサルでストップの設定を作ります。
コンサート会場でどの音を組み合わせれば表現したい音色になるか、あれこれ試していれば、調整は1日がかり。
手間も時間もかけて、パイプオルガンの音とコンサートは作られているのです。

「オルガン=パイプオルガン」コンサートの名前に込められた想い

オルガンミニコンサートは、2002年4月に開催が始まり、2024年4月で113回目を数えます。

「“オルガン” ミニコンサートと聞いて、学校の音楽室にあるようなリードオルガンをイメージされる方は多いです」と話す青木さんに、ドキッとしました。
パイプオルガンのコンサートなのに、なぜ “オルガン” と記載されているのかと不思議に思っていたところだったのです。

「日本へ入ってきたのはリードオルガンが先でした。
さらに、学校教育で広く使用されたため、日本でオルガンといえばリードオルガンを思い浮かべます。
しかし、ヨーロッパや音楽業界の方がオルガンと聞いてイメージするのは、パイプオルガンです。
なので、私たちは “パイプオルガン” という言葉を使いません」

“パイプオルガン” と書いてもっとアピールすればいいのでは?とよく言われるそうです。
それでも、オルガンミニコンサートの名前を使い続けています。
コンサート名にもこだわりを持って開催されているのですね。

ちょっとした息抜きに、ふらっと立ち寄れるコンサートを

「昼の休憩時間に足を運んで、少しだけ癒されて帰るような、そんな時間にしたいと思って開催しています」と青木さんは話します。

「アクトシティ浜松の一部がオフィス街になっているのもあり、近隣から仕事の合間に来られる方も多くいらっしゃいます。
お子さん連れのお母さんからも『子育て中だと外出したり、コンサートへ出かけたりする機会が少なくなってしまうけれど、オルガンミニコンサートなら子どもも一緒に気軽に来られるからいい』という声も多くいただいています」

日々忙しく過ごしているからこそ、ほっと一息つける場所を提供したいという想いが強く伝わってきます。
思い出すのは、ラフな格好でコンサートを聴いていた来場者の姿。
お子さんと一緒に気兼ねなく聴きに来られるように親子鑑賞室を準備するなど、配慮が随所に見られました。
どんな方でもふらっと立ち寄れるコンサートを目指して、さまざまな工夫や心配りがなされています。

生演奏を聴く体験を、オルガンミニコンサートから

コンサートへ行く魅力をお伺いすると、青木さんは悩みながら「音を生で聴くこと」と答えてくださいました。

今はサブスクやYouTubeなど、スピーカーを通せば音楽を聴く環境が整っている時代です。
しかし、音楽を生で聴くこと、コンサートに行くことはまったく違う体験だと青木さんは話します。

「耳で聴き、目で演奏者の手元や表情を見て、会場の空気は香りで、雰囲気は肌で感じる。
五感を使った体験は、人間の心を刺激してくれるのではないでしょうか。

アクトシティ浜松では、さまざまなジャンルの音楽コンサートや演奏会を開催しています。
まずオルガンミニコンサートで雰囲気や感覚に慣れて、自分の楽しみを見つけてもらえたら嬉しいです」

世界中には、さまざまな音楽が溢れています。
クラシック音楽も、オーケストラやオペラ、室内楽にピアノなど、ジャンルはひとつではありません。

オルガンミニコンサートは、音楽の新しい扉を開く第一歩にぴったり。
「ハードルが高い」「素人には難しそう」「行きにくい」…そんな壁を取り払って、生演奏の楽しみに触れてみませんか?

パイプオルガンのイベント情報

オルガンミニコンサート

  • 第114回 2024年7月11日(木)12:30~12:50
  • 第115回 2024年8月14日(水)14:00~14:30

アクトシティ浜松30周年記念講座「オルガンにふれてみよう!」
日時:2024年8月予定
対象:鍵盤楽器(ピアノなど)が弾ける方
内容:オルガニストの手を借りて、実際にオルガンで曲を演奏

ワークショップ「オルガンを作ってみよう」
日時:2024年8月予定
内容:紙でオルガンのパイプを作成
   パイプオルガンの近くまで行き、構造を楽しく学ぶ
   子どもから大人まで参加OK
 
※詳細は浜松市文化振興財団のホームページFacebookまたはX(旧Twitter)でご確認ください

アクトシティ浜松

住所:静岡県浜松市中央区板屋町111-1(中ホール)
ホームページ:https://www.actcity.jp/
イベント情報:https://www.actcity.jp/event/

公益財団法人浜松市文化振興財団

住所:静岡県浜松市中央区板屋町111-1(アクトシティ浜松内)
TEL:053-451-1114
FAX:053-451-1123
ホームページ:https://www.hcf.or.jp/

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この記事を書いた人

中村 ことは

パン職人ライター。趣味は旅行・神社仏閣巡り・着物。 歴史が感じられるものや場所、職人の技がきらりと光る工芸品も大好物です。 静岡県西部を中心に、私だからこそ紹介できる魅力を発信していきます。

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