商業施設や住宅街が多く立ち並ぶ東京都町田市に、宿場町の風情を残す一角があるのをご存じでしょうか。
その名は小野路町(おのじまち)。江戸時代の町割と里山が残る、のどかな場所です。
今回は、そんな小野路町でコミュニティ事業を営む「ヨリドコ小野路宿」の施設長・古賀ひろしさんに伺った町の魅力と、「ヨリドコ小野路宿」の活動をご紹介します。

小野路町ってどんなところ?
東京都町田市の北部、多摩丘陵のなだらかな起伏の中に位置する小野路町。
周辺にはニュータウンとして開発されたエリアが広がっていますが、小野路町には今も豊かな自然が多く残っています。
かつては養蚕業が盛んで、今も農業や畜産業が行われている小野路町。人の営みと自然が共存するこの地域は、東京都で唯一「にほんの里100選」にも選ばれています。

町の中心部から少し脇道にそれると畑や牧場が広がる一方、小高い丘陵の頂上に登ると遠くの横浜ランドマークタワーが目に入ります。
都会も自然も身近に感じられる立地が、小野路町の魅力のひとつです。
宿場町として栄えた歴史
1958年の市制施行により現在は町田市の一部となっている小野路町ですが、古くから交通の要所として知られ、近隣の村をまとめる行政の中心地だった歴史もあります。
古代には武蔵国と相模国の国府を結ぶ道が、鎌倉時代には武士たちが行き交う軍用道路が今の小野路町を通りました。

また、庶民の間で大山詣り(神奈川県の大山阿夫利神社への参拝)が流行した江戸時代には、埼玉や府中方面からの参拝客の中継地として大いに賑わい、登記所や高札場などの公的施設が置かれる宿場町として繁栄しました。
そして幕末には、後に新選組の主力となる近藤勇や土方歳三が、武術修行のために布田道を通り小野路へ訪れたという記録も残されています。
平成に入ってから道路や建物は新しく整備されましたが、宿場町特有の短冊型の町割は江戸時代からさほど大きくは変わっていません。

ヨリドコ小野路宿とは?
そんな歴史ある小野路町に新しい風を吹き込んだのが「ヨリドコ小野路宿」です。
ヨリドコ小野路宿(以下、ヨリドコ)は、療養型病院や障害者支援施設を展開する一般財団法人ひふみ会が2021年に設立した、小野路町の新たなランドマークとなりつつある複合施設です。
施設内には訪問看護ステーションや居宅介護支援事業所のほか、誰でも入れるカフェや地域に開放されている集会場、子どもたちの遊び場となる竹林があります。

「孤独感や寂しさといった心の問題にも寄り添える環境をつくりたい」と話す施設長の古賀さんは、医療従事者と利用者である地域住民との間に壁を作らないことを大切にし、「医療っぽくない」空間作りを心がけています。
木の香りに包まれる有機質な集会所やカフェは、目的がなくてもふらっと立ち寄りたくなる明るい雰囲気です。
自然と人が集まり、個人と個人の世間話の延長で健康相談が始まる。日常に医療が溶け込んだ空間を実現させたヨリドコは、先進的な地域包括ケアシステムの成功例としても注目されています。

やってみたいを形にする
オープンな雰囲気が多くの人を惹きつけるヨリドコは、新しいイベントやコミュニティが生まれる創造の場でもあります。
地域の方々の「こんなことをやってみたい!」という声を積極的に取り入れ、これまでに食育プログラムやマルシェ、竹林篠笛コンサート、流しそうめん、タケノコ掘りなど、さまざまなイベントを開催してきました。
おもしろいアイデアは何でも取り入れるヨリドコですが、イベントの主体はあくまでも提案者である地域の方々。場所と機会は存分に提供し、あとは自由に活動してもらうというスタンスを大切にしています。

今は綺麗に整備されている施設内の古民家や竹林も、地域の方々の協力によって完成したものです。
すべてを完璧に揃えてから始めるのではなく、みんなで創り上げていく。ヨリドコに人が集まりたくなるのは、そんな風土があるからだと感じました。
日替わりカフェ「kitchenとまりぎ」
ヨリドコには、日によってお店(店長)が変わるカフェ「kitchenとまりぎ」があります。
日替わりでさまざまなご飯やドリンクが楽しめますが、共通しているのは「からだに優しい」こと。特に、新鮮な野菜を使用したメニューが豊富です。
私が訪れた日は「ラミータコーヒー」さんが出店されていました。この日は初夏のような気候だったのでアイスコーヒーを注文。

もともとブラックコーヒーが苦手だったという店長イチオシの「アームズコーヒー®︎」を楽しむことができました。
欠点豆や防カビ防虫剤の除去といった工程を経て丁寧につくられたアームズコーヒー®︎は、「コーヒーを飲むとお腹が痛くなる」「雑味が気になる」という方にもおすすめできる、からだに優しいコーヒーです。
食事メニューからは、オリジナルのバターチキンカレーを選択。スパイスと野菜の甘味が絶妙にマッチしたカレーはもちろん、付け合わせも絶品でした。

サラダにかかっているドレッシングには、ヨリドコのすぐ裏山で採れた柑橘が使用されています。地産地消の取り組みも感じられる、心温まる一皿でした。
小野路町の観光スポット
小野路町の魅力はヨリドコだけに留まりません。周辺にもすてきな施設や名所が点在しているので、ぜひ足を運んでみてください。
小野路宿里山交流館
江戸時代、宿場町であった小野路には旅籠(はたご)が6軒存在しました。そのうちのひとつ、旧「角屋」を改修してできたのが「小野路宿里山交流館」です。

敷地内には当時の面影を色濃く残す味噌蔵や土蔵、長屋門が残されています。
地元の食材を使った料理が楽しめる物産販売コーナーや食事処もあるので、お昼の時間に立ち寄るのがおすすめです。

関屋の切り通し
町の中心を通る道から一本入ったところにある「関屋の切り通し」も小野路町の見どころのひとつです。
切り通しとは、山や丘などの地形を切り開いて人や馬が通れるように整備した道路のことで、トンネル掘削技術が発達していなかった明治時代以前によく用いられた手法です。

大きく切り開かれ露出した赤土と道沿いに茂る青々とした竹のコントラストが、歴史のロマンを感じさせてくれます。
六地蔵
町外れの静かな場所にひっそりと佇む「六地蔵」。
よく数えてみると、六地蔵と呼ばれているにも関わらず、七体のお地蔵さまが並んでいます。

その理由は…訪れてみてのお楽しみです。六地蔵のまわりをよく観察してみると、何かしらのヒントが見つかるかもしれません。ぜひご自身で謎解きを楽しんでみてください。
おわりに
どこか懐かしい風景と、人のあたたかさに触れられる小野路町。ふらっと訪れてみると、都会のすぐそばにこんな場所があったのかと、きっと驚くはずです。
ぜひ次の休日に、ゆったりと流れる時間を味わいに出かけてみてはいかがでしょうか。
ヨリドコ小野路宿の情報
▼住所
東京都町田市小野路町892-1
▼アクセス
【小田急線「鶴川駅」から】
駅北口6番乗り場から小野路経由多摩センター駅行き(鶴32系統)、または町田バスセンター行き(町36系統)のバスで所要時間13分、「小野神社前」下車、徒歩2分
【小田急線・京王線・多摩モノレール「多摩センター駅」から】
駅南口10番乗り場から小野路経由鶴川駅行き(鶴32系統)のバスで所要時間12分、「小野神社前」下車、徒歩1分
【小田急線・JR 横浜線「町田駅」から】
町田バスセンター14番乗り場から図師・五反田経由鶴川駅行き(町36系統)のバスで所要時間約30分、「小野神社前」下車、徒歩1分
▼詳細
公式ホームページ
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