前回、視覚障がい者の方の日常生活での困りごとを、スマートフォン(以下スマホ)教室を主宰している方の講座で聞きました。
もっと具体的なお話を聞くために、早速スマホ教室にも参加させてもらいました。
ブラインドITサポート町田教室は、視覚障がい者同士がスマホの操作方法を教え合う教室です。
代表は田中雅江さん。生まれつき視覚に障がいがあり、病気のためにさらに物が見えづらい状態に。田中さんは、少しでも視力を補うためにスマホを使いこなしたいと指導者を探し、操作を覚えます。その後、視覚障がい者にスマホの使い方を教えるための団体を平成30年12月に立ち上げました。
今回は、スマホ教室のお手伝いをしている勝田さんにお話を伺いました。
中途失明者が多いスマホ教室
スマホ教室では、はじめに出席を取ります。出席の確認方法は、一人ひとりが自分で声を発します。声を出してはじめて、お互いに誰が参加しているかがわかるそうです。
この日の参加者の内訳は、習う人5人に対し、それぞれ1人ずつ付く指導者、ガイドヘルパー(外出の支援をしてくれる人)、教室の運営スタッフなど、あわせて20人ほどでした。
勝田「教室に通うのは、70代以降の高齢の方が多いです。
視覚障がい者といっても、緑内障や糖尿病が原因で失明する人もいるんですよ。途中で失明すると、特に高齢者の場合は、点字を一から学習するのが難しい。スマホのほうが覚えるのが簡単ですし、スマホが使えるようになると生活が便利になります」
スマホの使い方を教えるのは視覚障がい者
スマホの使い方を教える側も教わる側も、どちらも視覚障がい者の方です。
習いたい人それぞれに、1人の指導者がつき、マンツーマンで教えてくれます。
さらに、習いたいものをその人の進度に合わせて、根気強く教えてくれるのが特徴です。
――マンツーマンで一人ひとりの要望に合わせて指導を受けられるのがよいですね
勝田「視覚に障がいがあると、指導者が説明したことを、同時に操作するのは困難です。個人個人で手元の操作がバラバラになるので、確認作業が必要になります。人によって習熟度も違ってくるので、マンツーマンで教える必要があるんです」
――なぜ視覚障がい者同士で教え合うのでしょうか
勝田「高齢者用のスマホの使い方教室は増えていますが、視覚障がい者用は少ないんです。
マンツーマンで教える必要があり手間がかかるので、民間で教室を運営するには、採算的には厳しい現実があります。ですので、指導者を自力で養成しないと教室が続けられません。
さらに、視覚障がい者同士ですと、自分で疑問に思った部分もコツがわかります。
1年ぐらい指導を受けると、教える側になれるんですよ。そうやって指導の輪を広げています」
視覚障がい者のためのスマホの機能
勝田「教室では、スマホはiPhoneを使用します。
Androidだとメーカーやキャリア、OSのバージョンによって操作方法が違ってしまい、指導者も覚えられないんです。
iPhoneはバージョンの違いだけで、そんなに操作方法は変わりません」
――スマホ教室ではどのようなことが習えるのでしょうか
勝田「スマホ教室では、電話のかけ方、メールのやり方、LINEの操作方法などが習えます。
ただ、スマホを初めて使うときは、ガラケーと違ってボタンがないのが不安ですが、慣れると音声ガイダンスによって簡単に操作できるようになります」
アプリを使う際に、スマホの音声機能「VoiceOver」をオンにすると、説明を音声で伝えてくれます。
他にも、視覚障がい者用の便利なアプリがあります。音声読み上げアプリ「Uni-Voice」は音声コードUni-Voice※にスマホをかざすと、音声で情報を読み上げてくれます。
※音声コードUni-Voice:QRコードのような形をしていて、文字情報を二次元コードに変換したもの
東京都の観光情報の冊子を例に取ると、ページの下の右端に音声コードUni-Voiceが付いているのがわかります。
Uni-Voiceが付いている冊子の右脇には、半円の穴が空いているので、ここにコードが付いていると視覚障がいの方が認識できるようになっています。
私たちの身近なものも気を付けて見てみると、封筒や印刷物にUni-Voiceが付いていることに気が付くのではないでしょうか。
スマホ教室の利用者の声
教室を見渡すと、みなさんスマホ画面を横にスワイプし、使いたいアプリの画面上をタップしながら、音声ガイダンスに従ってアプリを操作しています。
教室に通う方にお話を聞いてみました。
――スマホ教室では何を習っているんですか
「はじめに電話、次にLINEを教わって、これからメールを教わるところです」
――LINEを使えるようになって、生活はどのようになりましたか
「友だちや子ども、孫とも会話が楽しめるようになって、世界が広がりましたよ。孫にスタンプも押せるんです。たとえば、アンパンマンのスタンプでは『おはよう』とか、ちびまる子ちゃんのスタンプでは『ほんとうに、ごめんね』などの声が出るんですよ。今ではスマホに有料のスタンプが24個も入っているんです」
と、高齢の女性が嬉しそうに報告してくれました。
隣の視覚障がいの指導者の方も、音声でドラマやラジオを聴けるのが楽しいそうです。
勝田「スマホ教室に参加すると、新しい情報が得られるだけでなく、新しい趣味へ挑戦するきっかけにもなります。卓球やボッチャ、編み物などのサークルに入って楽しんでいる方もいらっしゃいますよ」
視覚障がい者向けスマホ教室を取り巻く問題
勝田さんによると、スマホ教室をやっていくうえでの問題点は大きく3つあるそうです。
- スマホ教室の数が少ない
- スマホを教える指導者が足りない
- ガイドヘルパーの数が少ない
勝田「視覚障がい者向けのスマホ教室は、まだまだ数が少ないんです。身近にあったら、遠くに通わなくてもすみます。教室が少ないのは、元々教える人が少ないからです。マンツーマンで教える必要があるので、効率が悪いんですね。
さらに、ガイドヘルパー※が少ないのも問題です。ガイドヘルパーを1か月前から予約し、希望人数がかぶると出かけられないこともあるんです。
※ガイドヘルパー:視覚障がい者の外出支援をする人。町田市の場合、視覚障がい者は、ガイドヘルパーのサービスを外出の際に利用できます。市に申請すると当事者の方の調査が行われ、視覚障がいの状況によって1か月の上限50時間まで利用できます。
それから、視覚障がい者でガイドヘルパーというサービスを知らない方も大勢いるんです。サービスにつながると、一気に世界が広がるんですけどね」
まとめ
今回は、視覚障がい者同士で教え合うスマホ教室をレポートしました。
中途で失明する方も大勢いる現状では、スマホを習う場所の必要性を感じました。
目が見えない状態だと生活するのも困難だし、楽しみも少なくなってしまいがちです。そんななかで、代表者の田中さん、サポートをしている勝田さんたちは工夫しながらスマホ教室を運営しています。スマホを使えるようになるとできることが増え、新しい世界が広がる様子がよくわかりました。
「スマホ教室は、スマホの操作を覚えられるだけでなく、一種のコミュニティの役割を果たしているんです。
これからも指導者や仲間の輪を広げていきたいですね。そのために、ガイドヘルパーも増やす必要があります」と、代表者の田中さん、勝田さんの言葉です。
ブラインドITサポート町田
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