岩沼高等学園ソフトボール部は、知的障がい者ソフトボール大会「ハンズホールディングスCUP 2024東日本大会」に、宮城県代表として出場する高校生のチームです。選手たちは真夏の太陽の下、大舞台に備えて練習を重ねています。
「ハンズホールディングスCUP 2024東日本大会」(以下ハンズホールディングスカップ)の開催概要は下記のとおりです。
主催:日本知的障がい者ソフトボール連盟
主管:ハンズホールディングス株式会社
日程・会場:9月15日・シェルコムせんだい
9月16日・楽天イーグルス利府球場(利府町中央公園野球場)
参加チーム:8団体
今回の記事では、岩沼高等学園主幹教諭の相澤晴朗(せいろう)先生、ソフトボール部顧問の藤波暁(あきら)先生にお話を伺いました。
「僕たちも部活動をやりたい」思いを受けた教師の奮闘
岩沼高等学園は2001年、軽度の知的障がいを持つ高校生の社会的自立を目的として開校しました。現在では、部活動が盛んな特別支援学校として知られています。相澤先生が設立に尽力したソフトボール部は、この学校で真っ先に立ち上がった本格的な部活動です。
開校当時、中学校で部活動を経験した生徒はほとんどいませんでした。理由はさまざまですが、本人の意思とは別のところで部活動ができないケースもあったようです。やがて相澤先生は、生徒たちの心に「部活動をやりたい」という強い思いがあることに気づきます。
「ちょうどその頃、宮城県で第1回「全国障害者スポーツ大会」が開催されました。その話を生徒たちにしたところ、みんなが『僕たちもそういう大会で全国を目指してみたい』と目を輝かせたんです。僕は何とかして彼らの思いを叶えようと、関係者を説得しました」(相澤先生)
しかし岩沼高等学園のもっとも大きな目標は、生徒たちが就職して社会的に自立すること。支援学校の生徒たちは、就職のために何度も企業へ職場実習に行きます。
関係者のなかには、大会と職場実習の時期が重なることや想定外の影響を危惧し、部活動に反対する人もいたそうです。また、道具の購入や大会遠征にかかる活動費も問題になりました。
「でも僕は、生徒たちが社会に出る前に、勝つ喜びや負ける悔しさを味わってほしかった」と、相澤先生は当時を振り返ります。
学生にとって部活動は、勝ち負けや仲間との切磋琢磨、チームワークなどを経験する特別な場所です。だからこそ相澤先生は、生徒たちに部活動をしてほしかったと話します。その経験はやがて、生徒たちが困難に立ち向かうための糧になるはずだと。
相澤先生は粘り強く関係者の説得を続け、半年もの時間をかけて、部活動設立の承認を得たのです。
その後、岩沼高等学園ソフトボール部は急成長。設立後わずか4年で、憧れていた「全国障害者スポーツ大会」の北海道・東北ブロック予選を勝ち抜き、全国大会へ出場しました。
生徒たちを見守る先生の思い
岩沼高等学園ソフトボール部では、部員たちが顧問の先生4人と一緒にグラウンドに立ち、ルールを学びながら練習に励みます。授業以外に職場実習や地域活動も行う生徒たちは、練習に参加できない時期もありますが、ソフトボールへの思いは常にまっすぐ。顧問の藤波先生は「生徒たちが自分自身の上達に驚く瞬間がある」と目を細めます。
たとえば打ったボールが思いのほか遠くまで飛んだり、以前は届かなかった難しいボールをキャッチしたり。過去一番のプレーができたとき、生徒たちは「こんなことができた!」と驚きの表情を浮かべます。これは日常生活ではなかなか得られない、部活動ならではの貴重な実感。生徒たちはソフトボールを通して、やりたいことができる幸せと上達する喜び、そして青春のひとときを思いきり楽しんでいます。
生徒たちの成長を間近で見守る藤波先生は、ハンズホールディングスカップを「身の引き締まる経験ができる場所」だと言います。
「大会は生徒たちが自分の力で考え、チーム一丸となって勝負して、勝敗という結果を目の当たりにするかけがえのない機会です。チャンスの直後にピンチを迎えることもあるし、大差がついても最後まで頑張らなければならない。こんな素晴らしい経験は、普段の学校生活ではなかなかできません。だからこそ僕は、生徒たちが悔いだけは残さないよう、全力で彼らをバックアップしようと思っています」(藤波先生)
岩沼高等学園ソフトボール部にとって、ハンズホールディングスカップは「自分自身の力」でぶつかる勝負の場です。一生懸命戦って勝利をもぎ取った、あるいは頑張ったけれど勝てなかった体験は、生徒たちを確実に成長させます。藤波先生は生徒たちに「大会を通して、社会に貢献できる力を身につけてほしい」と願っているそうです。
誰もがスポーツで世界を広げられる時代へ
前述のとおり、岩沼高等学園のもっとも大きな目的は、軽度の知的障がいがある生徒たちが社会的に自立することです。藤波先生は「言い換えれば、卒業した生徒たちが社会に出て、しっかりと幸せに暮らしていくこと。スポーツはその可能性を広げてくれる」と話します。
「僕は教員として生徒と接し、顧問として部活を一緒にやっていくなかで、障がいを意識することはほとんどありません。だから生徒たちに対しても、その子の個性に対して必要な支援をしている感覚でいます。スポーツはさまざまな個性を持つ選手たちが一つになって、協力しながら活動する貴重な機会なんです」(藤波先生)
個性や多様性の大切さは、現代社会において広く認識されるようになりました。藤波先生は「将来的には障がいの有無に関わらず、誰もがスポーツを通して世界を広げられる時代が来るだろう」と考えています。障がい者スポーツはあらゆる個性を輝かせ、多様性あふれる社会を実現する一翼を担っていくのでしょう。
クラウドファンディング「希望のバットを振れ!」
ハンズホールディングスカップは、知的障がい者スポーツの認知度向上と魅力発信を目指して開催されます。出場する8チームは、それぞれ「応援サポーター」企業1社のバックアップを受け、大会に臨みます。
日本知的障がい者ソフトボール連盟は今大会の開催に合わせ、クラウドファンディング「希望のバットを振れ!」を立ち上げました。
これはハンズホールディングスカップを成功させ、知的障がい者スポーツの未来を切り拓くクラウドファンディング。この大会を皮切りに、知的障がい者ソフトボールの未来を発展させるためのプロジェクトです。
クラウドファンディングでいただいたご支援は、下記の目的に活用する予定です。
・「ハンズホールディングスCUP 2024東日本大会」の運営費
・知的障がい者の余暇活動の充実
・自費で大会に参加している指導者への支援
・将来の西日本大会、全国大会開催の実現
皆様のご支援は知的障がい者スポーツの未来を創造し、選手たちの希望の光となります。
クラウドファンディング「希望のバットを振れ!」へご支援をいただけましたら幸いです。
https://camp-fire.jp/projects/772041/
〔画像提供:岩沼高等学園ソフトボール部〕