はじめに
FGN(Fukuoka Growth Next)は、福岡市のスタートアップシーンの中心的存在として、地方創生に大きな役割を果たしています。これまでに蓄積されたノウハウと豊富な人脈を活かし、多岐にわたるサポートを提供し、多くの起業家や投資家を惹きつけています。FGNの活躍は、地方発の未来創生の可能性を示すものであり、今後もその発展が期待されます。
1. FGNとは? 〜福岡市のスタートアップ支援の拠点
FGNとは?
FGN(Fukuoka Growth Next)は、福岡から将来のユニコーン企業を生み出すことをミッションに、2017年に設立された、旧大名小学校跡を活用した官民共働型スタートアップ支援施設です。FGNでは、起業・創業支援、ビジネスに役立つイベントやセミナー、インキュベーションプログラムなど、スタートアップに関わる幅広いサポートを行っています。FGNは、福岡の多種多様なスタートアップをはじめ、支援者や投資家、地元の企業など、スタートアップに関わる人たちが集い、交流する、いわば「福岡スタートアップエコシステムの中心」です。
福岡市のスタートアップ支援の変遷
福岡市が行政としてスタートアップ支援を始めたのは2012年。この元になったのが、2011年からスタートした「明星和楽」です。これはエンジニアやデザイナー、クリエイターが、SXSW(サウス・バイ・サウスウエスト)をヒントにスタートしたイベントです。2012年に開催された第2回「明星和楽」にて「スタートアップ都市ふくおか」が宣言されました。このように、各地で行政主導のスタートアップ支援は行われていますが、福岡市の場合は民間主導のイベントに行政が協力することから始まりました。
FGN(Fukuoka Growth Next)が開設されたのは2017年ですが、福岡市のスタートアップ支援は2012年から始まっています。2014年には福岡市は国家戦略特区「グローバル創業・雇用創出特区」に選定されており、創業相談窓口「スタートアップカフェ」も開設されていました。福岡市のスタートアップ支援は、12年間にわたり取り組まれているのです。
福岡市のスタートアップ支援のきっかけ
背景には、1990年代のバブル崩壊、2008年のリーマンショックがあります。このとき地方の拠点、地方に置いている大企業の支店などが撤退し、福岡市も大きな打撃を受けました。そこで、福岡市に地場産業、本店を置く企業が欲しいと考えました。
また、福岡市長がシアトルに視察に行き、都市特性が福岡市に似ていることに気づいたことがきっかけとなりました。シアトルには、コストコ、Microsoft、Amazon、スターバックスなどの本社があります。人口規模は福岡市の半分程度で、住みやすいコンパクトシティであること、そして大学もあるという点も似ていました。そこで、福岡市もシアトルのように、地場に本店を置く世界的な企業を作ろうと、スタートアップ都市を目指すようになったといいます。
2. FGNのビジョンと役割
FGNのミッションとビジョン
2017年から開設された FGN。当時は、APAMAN、福岡地所、さくらインターネットの民間3社と福岡市でスタートアップ支援を行うことになりました。時限プロジェクトとして、現在の旧大名小学校校舎を利用して始まったのです
2019年から第2期がスタート(5年間)。民間の運営事業者には、FGNのある大名地区で創業したGMOペパボが加わりました。第2期では、雇用創出や地域経済の発展に貢献し、独自のスタートアップ支援システムによって、スタートアップ企業や中小企業の第二創業をサポートすることをミッションにしていました。そして、「未来のユニコーン企業」を100社生み出すことを目指し、「企業価値10億円程度のスタートアップを福岡市に100社創出する」というビジョンを掲げました。
そして2024年から第3期がスタート。体制も福岡地所、さくらインターネット、GMOペパボ、フォーススタートアップスの民間4社と福岡市で運営。また第3期からミッション・ビジョンが大きく変わりました。第2期で育てた「10億100社」をどう育てるのかが鍵であり、福岡市を「シアトル」のような「世界に伍するスタートアップ都市」にすることを目標に掲げます。
FGNの事業体制
第3期からは、創業初期の企業のみならず、ミドル・レイター期の課題解決に向けた体制を整え、成長フェーズに応じた支援を行います。
事業体制は「福岡市スタートアップ支援施設運営委員会」という有限責任事業組合を作っています(民間4社と福岡市行政の計5社)。各社も投資を行い、かつ運営するメンバーも各社から出向ではなく、会社の事業の一環としてFGNで勤務しています。すなわち、FGNの業務は各社の本業として位置づけられていることが重要な点です。加えて、協力企業としてZero-Ten ParkやABBALab、ボーダレス・ジャパンなどが運営に入っています。
さらに福岡市とスタートアップ支援で連携協定を結んでいるみずほ銀行も事務局員を1名派遣しています。
スポンサーは今年度36社(記事執筆時。https://growth-next.com/about)。1業種1社に限定せず、支援の目的を明確にした上で、スポンサーとして参画されています。
3. FGNが運営する施設とイベント
運営施設 ~STARTUP CAFE
STARTUP CAFE
10:00~22:00、年中無休(年末年始のみ休み)。これから起業を始めようとする方から、創業から一定程度時間が経った方まで含めて、創業相談やサポートをしています。
専門家・士業相談窓口、人材マッチングセンター、福岡市雇用労働センター、開業ワンストップセンター、グローバルビジネスサポートなど、さまざまなサポートが用意されています。
インキュベーションスペース
福岡に本社機能を置くスタートアップ向けの個室オフィス「チームルーム」をはじめ、シェアオフィス、コワーキングスペースなどの、ワークスタイルに合わせたオフィスと交流が生まれるインキュベーションスペースを持っています。
FGNが開催する実践型イベント
Growth Pitch
2017年より開始された、FGNを代表するピッチイベント。大企業や中小企業、ベンチャーキャピタル、メディアを対象とした、スタートアップによるピッチイベントになっています。毎月テーマを設定し、そのテーマに沿ったスタートアップが事業のピッチを行います。
その分野に興味のあるオーディエンス達が集まり、事業提携先を探します。
STARTUP ELITE Bootcamp
サービスの設計・検証・改善のプロセスを高速に回すことを通じて、世の中に必要とされるサービスをより正確に、より早くリリースすることを目指す集中プログラムです。
FUKUOKA SOCIAL START UP ACADEMY
ソーシャルビジネスを世界各地で展開する株式会社ボーダレス・ジャパンとタッグを組み、4ヶ月間で社会課題解決につながるビジネスアイデアのベースを作る社会起業プログラムです。
この他にも専門人材育成プログラムや年次カンファレンスなど、さまざまなイベントが行われています。
※今期から、株式会社しくみデザインも入居しています!小学校の校舎の雰囲気がそのまま残った味わいのある施設です。
4. リニューアルされたFGNの姿とは?
2024年4月からリニューアルされたFGN。新たに展開される施策をいくつかご紹介します。
FGN入居企業の枠を超えた支援をスタート
2023年度まではFGNに入居している企業を支援していましたが、今後は、福岡市に本社・本店があり、成長のポテンシャルのあるスタートアップに対して集中的な支援を提供します。
プッシュ型の支援からプル型の支援へアップデート
従来行ってきたアプローチ型支援から、これまで蓄積されたノウハウ・人脈を活かした支援内容やメンターなどをメニュー化し、会社が必要なタイミングで必要な支援を提供するオンデマンド型支援に。
バックオフィス業務をサポート
創業時において、バックオフィス業務を担える人材を揃えることは難しく、本業に集中できません。そこで、成長が見込まれるスタートアップを選抜し、バックオフィス業務に対するリソースを提供。核となる事業に集中できる環境作りの提供を行います。
awabar fukuoka
今年度からリニューアルしたawabar fukuoka。各国のおいしい泡物をグラス一杯から飲める、スタンディングバーです。FGNはスタートアップのコミュニティではなく、コミュニティの”ハブ”。FGNはコミュニティとコミュニティをつなげる役割を果たします。
そして、今年度から新たに展開する選抜型スタートアップ集中支援プログラム「High Growth Program」の採択企業として、7社を決定しました。このプログラムは、FGNに加入しているスタートアップの中から厳選された企業(例えば、チャリチャリ株式会社)を対象とし、彼らの成長を加速させるためにカスタマイズされた支援を提供します。同プログラムでは、販路拡大や人材支援、バックオフィス支援など、各企業が直面する課題に応じた具体的なサポートが行われます。このような集中支援により、選抜された企業は福岡市のスタートアップシーンをリードする存在となることが期待されています。
おわりに
福岡市におけるスタートアップ支援とFGN(Fukuoka Growth Next)は、同市の経済発展において重要な意味を持っています。福岡市は長年、大企業の支店が立地するいわば”支店経済”に頼っており、いざリーマンショックのような国内外の経済危機が発生すれば不安定な経済構造になっています。そこで、FGNには、地元福岡の経済を支える、本店を構える企業を増やすことが期待されています。これは福岡市にとって、地域経済の独立性と強化を図る重要なステップであり、”本店経済都市”への転換の契機となる可能性があります。
また、民間企業にとってもFGNの存在は、CSR(企業の社会的責任)と利益の両面から大きな意味を持ちます。例えば、不動産業やインターネットサービス企業は、スタートアップ支援を通じて未来の潜在顧客を育てられるだけでなく、投資やオープンイノベーションの推進などを通じて自社の収益に繋がる事業を実施できるという利点があります。
さらに、福岡市は政令市中人口増加率1位を誇る「住みたい場所」として多くの人に選ばれています。そして今後は「働きたい場所」としても魅力を高める必要があるといいます。特に新産業育成のためには、スタートアップで働く人を増やすことが不可欠です。スタートアップがキャリアとして選ばれるようになるためには、ロールモデルとなる企業の存在が必要となります。FGNを中心に、こうしたロールモデル企業が育成されることで、福岡市のスタートアップシーンがさらに活性化することが期待されています。
福岡市のスタートアップ支援は地域経済の安定と発展に欠かせない要素となっており、FGNの存在はその中核を担っています。スタートアップが福岡市に根付き、持続可能な経済基盤を築くことで、地域全体がさらに活気づくでしょう。「スタートアップ都市ふくおか」の「高みを目指して」、リニューアルされたFGNの活躍が見逃せません。
FGN(Fukuoka Growth Next)
FGN(Fukuoka Growth Next)
〒810-0041 福岡県福岡市中央区大名 2-6-11
contact@growth-next.com
受付時間 10:00~22:00(年末年始 休館)