皆さん、日本の灯台は何基あるかご存知ですか。現在約3,200基あるそうです。船の道標として存在する“灯台”ですが、GPSの発達により、その役割・存在意義が薄れてきているのだとか。
島国日本が、海を考える上でも欠かせない“灯台”を、今後どのように人と繋ぐ存在にするかを考える、日本財団「海と灯台プロジェクト」の一環として、11月3日『海と灯台サミット2024』が開催されました。
灯台を中心に人の集う場所に
このサミットは三部構成で、第一部シンポジウムの最初は『灯台利活用事例発表「灯台で地域活性化」』と題して「地元灯台の利活用を考える団体」の現在の取り組みへの発表が、現地中継も交えありました。
今回5団体の発表でしたが、全体の印象として地元住民だけでなく、地元の小学生や企業などをしっかりと巻き込みながらプロジェクトを行っていることが挙げられます。大人がサポートして高校生が企画・運営するプロジェクトもあり、生き生きと活動報告する姿に期待が高まります。
各灯台の置かれている環境や歴史背景の違う中、その特徴を捉えて「人々の集う場所」を作って行く取り組みのテーマは、教育・観光・グルメなど様々。地方創生を考える一つのヒントになると感じるプレゼンテーションでした。
灯台の魅力を伝える人々
続いて『クロストーク「灯台で〇〇やってみた」』と題し、個性あふれる5名の方が登壇し、活動の様子をクロストークで紹介。
野間埼灯台「現代版 灯台守」仙敷 裕也氏・佐々木 美佳氏は公募で選出され、ウェディングフォト撮影や、キッチンカーの出店をしながら、灯台を中心とした街おこしをしていらっしゃるお二人。
キャンプ好きで有名なお笑いコンビ「バイきんぐ」の西村 瑞樹氏は、灯台の下でキャンプをした経験を紹介。「ただ、デイキャンプしかできていませんが…」と言葉を濁す場面も。どうやら波が荒く断念せざるを得なかったとか?「次回はナイトキャンプリベンジしたいです」とのことなので、いつかその様子を伺いたいですね。
石狩灯台の妖精・石狩灯台お兄さん(石狩市職員:髙木 順平氏)は、市職員でありながら突然石狩灯台の妖精が降臨し、イベントに登場すれば大人気に。本当は石狩灯台近辺にしか降臨しないそうですが、今回は頑張って東京へ。その際小学生の女の子から「東京に行っても頑張ってね」とお便りをもらったという話に、会場から感心する声が漏れていました。
詩人・ラジオDJ・漫画家、映画製作 杉作 J太郎氏は、このサミット数日前に“釣島灯台”でのラジオ放送をリリーフランキー氏と行ったそうですが、その際の島上陸に伴うハプニングなども交えてトークされ、会場を驚きと笑いに包んでいました。
灯台を学術的に考える時間
第一部の最後は『研究発表「海と灯台学」』。
登壇者
北海商科大学 教授 池ノ上 真一氏
東京文化財研究所 無形文化遺産部部長 石村 智氏
株式会社ジオ・ラボ 代表取締役&CEO 栗原 憲一氏
各分野の専門家から、世界・日本・地域を結ぶ灯台を視点に歴史や地理などあらゆる角度から学び、これからの灯台のあり方を探求する時間でした。
また、灯台は海から見るものであるという、当たり前のことを忘れていることに気づかされたり、地域のシンボルでもある灯台は、本来世界を繋ぐ役割を持っていたことを学んだりと、興味深い話に一同頷きながら聞き入っていました。
様々な角度から“灯台”を考える、第一部シンポジウムは、YouTubeにて配信されています。
直木賞作家たちが語る、灯台紀行集『灯台を読む』
当日の受付では、一冊の本が配布されました。タイトルは『灯台を読む』。小説家6人の灯台を巡った際の紀行集です。
第二部はその筆者から4名の直木賞作家が集まり、司会者からのお題に沿って話すトークショー。
出演は
門井 慶喜氏(『銀河鉄道の父』で第158回直木賞)
川越 宗一氏(『熱源』で第162回 直木賞)
澤田 瞳子氏(『星落ちて、なお』で第165回 直木賞)
永井 紗耶子氏(『木挽町のあだ討ち』で第169回直木賞)
といった、そうそうたるメンバー。
そんな作家の皆さんに、干し芋食べ比べ産地当てクイズや「ご自身が灯台をデザインするならどんな灯台に?」というお題で絵を描いてもらうといった無茶振りが行われ、「自分絵を描くのが苦手だから、作家になったのですが」と言いながら、しっかり描いてくださるというサービス満点のトークショー。
“灯台”の活用方法の話では、なぜか「居酒屋を作る」案で一同が盛り上がる一幕も。
紀行文に描かれた灯台のエピソードと共に、小説家の皆さんの意外な一面を見ることができた、貴重な時間でした。
小説家ならではの表現で書かれた紀行集『灯台を読む』は文藝春秋から発刊されています。
絵本『灯台守のたび』作者灯台を語る
今回の取材中、以前取材をさせていただいた『灯台守のたび』作者で、全国の“登れる灯台”を制覇した絵本作家の『みかみなつ』さんに会い、第三部の情報交換会でお話を伺いました。
「灯台の魅力は、物語性があること。灯台は本来旅の目印であって目的地ではない。そのアンバランスさが、物語を書きたいと思わせてくれる力を感じます」
そう語るみかみなつさんの作品『灯台守のたび』での“灯台”は「日常の美しさと尊さ」の象徴として描かれているのだとか。
「私たちの繰り返す当たり前の日常も、美しい景色があるかもしれませんし、誰かにとっての大切な灯りになっているのかもしれません」とみかみさん。
情報交換会では、この作品に魅了された方が続出。「その絵本はどこで買えますか?」と声をかけてくる方もいらっしゃいました。灯台ファンには見逃せない1冊となっているようです。
前回のみかみなつさんの記事はこちら
“関係者のみ”参加の情報交換会では、報道関係者、出版社の方々が多くいらっしゃいましたが、「個人的に参加しています」という方が多かったのも、灯台への感心の高さが伺えました。
海を照らし、船の安全と人々の交流を見守ってきた“灯台“。
可能性を秘めたシンボルとして、これからどのように人々との関わりを見せるのか、楽しみです。
日本財団『海と灯台プロジェクト』
『海と灯台サミット2024』特設サイト