飛騨の山々に囲まれた岐阜県高山市の古い町並みに佇む保護猫カフェ「猫の月さくらやま」。2020年のオープン以来”ネコと人をつなぐ架け橋”をコンセプトに、保護猫団体「NPO法人もふっこひだ」の保護猫たちを里親へと繋ぐ活動をしている。
店内にいる全ての猫が譲渡可能で、多くの猫たちが新しい家族を待っている。猫たちとの触れ合いを通じて癒しを提供するだけでなく、猫と人の出会いの場としても機能しているという。
今回お話を伺ったのは、店舗経営未経験から法人を立ち上げたオーナーの家里マヤさん。これまでのキャリアストーリーと保護猫カフェ「猫の月さくらやま」への思いを伺った。
<プロフィール> 家里マヤさん 岐阜県下呂市出身。大学から上京し社会経験を積む。地元飛騨に戻ってから、医療事務の講師を務め、化粧品の代理店業を経て現在の譲渡型保護猫カフェ「猫の月さくらやま」をオープンした。現在は常勤スタッフ2名と猫のお世話スタッフ4名、ご自身を含め7名でカフェ運営に邁進している。 |
店舗経営というチャレンジのきっかけをくれた3匹の保護猫
ーまずは、家里さんのキャリアについてお伺いします。未経験から保護猫カフェ経営を始めようとの思いにいたるまでの経緯について教えていただけますか。
子供のころから動物が好きで、自宅で犬を飼っていました。大学で上京してその後も東京で結婚生活を送り、なかなか動物と暮らせない環境にいましたが、主人を亡くして飛騨に戻りました。子供も成人して手が離れ、これからの人生を考えたときにやっぱり動物と暮らしたいと思ったのです。そして、たまたま行った譲渡会で保護猫3姉妹を自宅に迎えることにしました。
保護猫3姉妹と出会わなければ、保護活動に対してここまで強い思いにはなりませんでしたね。3姉妹を迎えたことで、私自身の生活や考え方が本当に豊かになりました。
ー保護活動のきっかけは、保護猫3姉妹との出会いだったのですね?
3姉妹をきっかけに保護団体とのご縁と活動について知ることができ、ボランティアメンバーとしてお手伝いをするようになりました。野良猫を保護したりミルクボランティアをしたりと、さまざまな経験を繰り返しているうちに、保護猫を預かっている間も里親さんと出会いの機会は作れないかと考えるようになりました。
「お店を作ろう!そうすれば猫と人が出会うチャンスが増え、毎日が譲渡会のようになる!」と、自然に心が決まっていきました。
ーオープンまでの過程で苦労はありましたか?
法人会社を設立して店舗を持つのは初めてでしたが、苦労よりも作り上げる楽しさが勝っていました。とにかく夢中で、時間が経つのが本当に早かったですね。
お店を作ると口にしてから、不思議と出会いのタイミングが重なったように思います。物件のこと、お金のこと、経営のこと、何も知らなかったので、いろいろな人の知恵を借りながらオープンまでこぎつけました。このお店を実現させるために出会ったのかなと思う人たちもたくさんいて、背中を押されるようにお店が出来たことに今でも感謝が絶えません。
本当にやりたいことと出会ったとき、運も出会いも味方してくれる。自分の力では及ばないところを多くの方々に助けていただいたなっていうのを感じています。
ーオープンしてからの反響はいかがでしょうか?
オープンした年はコロナ禍で、観光地なのに誰も歩いていない状態でした。当時は地元のパティシエさんとコラボしたり、猫カフェスペースでヨガ教室を行ったりと試行錯誤しましたね。YouTubeやInstagramを始めて認知度を上げ、現在は猫カフェを目的に来訪してくださる方や外国の方も多くいらっしゃるようになりました。
理念は「猫と人をつなぐ架け橋であり続けること」
ーご自身の生活は変わりましたか?
とにかく猫が中心の人生になりました。お店に出ている猫たちは常時20匹ぐらい。毎日顔や身体をみて体調管理をしています。他にも、デリケートな性格の子や小さな子猫が自宅で暮らしています。
もともと出不精なので、仕事のために出かけなければいけないというストレスがないこの仕事は、私にぴったりだと思っています。旅行などで外出することもなくなりましたが、毎日猫たちに囲まれてとても幸せです。
ー仕事をする中で、一番のやりがいは何ですか?
一番のやりがいは保護猫に里親を見つけることです。会社の理念「猫と人とをつなぐ架け橋であり続ける」ために、私たちがどういう心構えで行動するべきなのか。この会社をどう維持していけば理念を継続できるのかということを一番に考えています。
オープンから4年経過して100匹以上の保護猫が譲渡されました。現在も里親さんと交流があり、様子を知らせてくれたり動画を送ってもらえることがすごく嬉しいです。その様子を多くの人に知ってもらえるようにYouTubeで流しています。
里親が決まってお店を卒業していく猫がいるということは、また次に救える猫が増えるということ。猫にも人にも幸せなサイクルを継続させたいですね。
ー初めてのオーナー経験で大変なことはありますか?
お店の売上で多くの猫のお世話をし、スタッフのお給料を払い、維持していくのはやはり大変ですね。だから、譲渡につなげるだけではなく、カフェを目的として来てくださる方々に気持ち良い時間を提供してリピーターを増やし、売り上げを作っていくことも意識しています。収益性の高いオンラインショップ、YouTubeなどにもチャレンジしています。
言葉にしたことひとつひとつが叶っていく未来が楽しみ
ー「猫の月さくらやま」は11月から5年目を迎えるそうですね。今後の夢や目標はありますか?
このお店をもっともっと多くの人に知っていただきたいです。猫を飼うときに、保護猫の譲渡という制度があることを根付かせていきたい。
また、若い人たちに高山で活躍できる場所があることを知ってもらいたくて「飛騨高山フューチャープロジェクト」へ登録しました。中学生が夏休みにお仕事体験に来ましたよ。このようなかたちで高山市にも貢献していけたら嬉しいです。
いつまでもバリバリやっていく気持ちはあるけれど、後継者を作ることも考えたいです。私の意思を継いでくれる若い世代に、このお店を残していきたいと考えています。
お店を持つことが最初の夢でしたが、今はさらに夢が広がっています。私と同じような志で活動する人が増えれば、それだけ多くの保護猫を救うことができる。猫も人も幸せになれるサイクルをどんどん回していきたいです。
石橋を叩いて渡るタイプだった私が、保護猫カフェを始める決断を口にしてから、不思議なほど出会いとタイミングに恵まれました。これからも言葉にしたことひとつひとつが叶っていくのが楽しみです。
「猫の月さくらやま」
住所:岐阜県高山市大新町1丁目44‐1
休業日:月曜日・猫の体調により不定休有
営業時間:11:00~17:00(最終受付 30分コース16:30 60分コース16:00)
公式サイト:https://nekonotsuki.com/
駐車場:あり
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