「今になって思えば、私がひとりになったときに見てねということだったのか、あるいは、いつか誰かの為になると考えてのことだったのか、妻の有希子が書き残していたことには、そんな意味がある気がしています」
愛媛県新居浜で会社経営を行う石村和徳さんの息子、嘉成さんは2024年現在、30歳。2歳の頃、自閉症と診断され、母である有希子さんと共に「知識ある愛」で療育に励みました。しかし、嘉成さんが11歳の時、有希子さんは癌で他界。
その後、和徳さんは有希子さんの残した膨大な療育レポ-トを参考にして、嘉成さんを導いてきました。
今回、その資料の一部を見せて頂きましたが、分厚いA4ファイルが5~6冊ありました。勉強ノートは何百冊もあったそうです。特にレポートは有希子さん自身の「母親成長記録」であったことでしょう。
「ここまでできる人って、なかなかいませんよ」和徳さんが今でも有希子さんを尊敬しているのが分かりました。
有希子さんがどうやって嘉成さんに向き合ったか。「それは障がいの有無に関係ない。どの親子にも言えること」と明言する石村さん親子の軌跡をたどります。
親しかいない
「結局は親です、親しかおりません」オンラインでのインタビューで、画面越しの和徳さんはハッキリと言いました。
「母が育てば子も育つんですよ」
有希子さんは毎日、幼い嘉成さんと家の裏山を1~2時間かけて登っていたそうです。それは体力向上と脳への刺激を目的とした療育の一環でした。
「黙ってモクモクと歩くでしょ。獣道みたいなのがいいらしいんです。自分で次にどの足をどこに出すか、考えて歩きますから頭も使うし、 その中で体のバランスも取らないといけません」
こんな風に毎日、我が子と向き合えるのは、たしかに親しかいません。
思春期の息子と1時間以上かけて自転車登校した高校時代
「自転車の上で季節を感じながら過ごせた嘉成との時間、私は楽しかった。学校に送って、帰宅して、迎えに行って、一緒に自転車で帰宅して毎日、2往復でしたよ」懐かしそうに話す和徳さんです。
嘉成さんは普通の自転車で、和徳さんがスポーツタイプの自転車に乗り、最初は一緒に登校。途中からだんだん離れて行き、和徳さんが先に行って、一生懸命に漕いでくる嘉成さんの様子を歩道橋に上がり隠れて見ていました。その内、嘉成さんは3年かけて学校に一人で行けるようになったそうです。
こうして和徳さんは、裏山を毎日登った有希子さんのやり方を自転車並走という形で踏襲して、嘉成さんに寄り添い続けました。
障がいの有無は関係ない、丁寧に育てること
「自閉症の子たちは発達できないんじゃなくて、手間と時間がかかるだけなんですよ。人の100倍かかるかもしれない。 つまり100倍したらいいわけですよ、ただ単に。子育てを丁寧に時間かけてやってきただけです」
そうは言っても根気が必要です。すべての親ができることではありません。しかし「障がいの有無は関係ない。100倍はかけられなくても、子どもに向き合い丁寧に育てることが困難を乗り越える」と、和徳さんがどの子育てにも通じるヒントを与えてくれました。
人間の智慧はたくさんの病気を克服してきた
2024年11月から公開されている石村さん一家を描いた映画「新居浜ひかり物語 青いライオン」が話題です。和徳さんが映画を引き受けたのには理由がありました。和徳さんは自閉症についてこう考えています。
自閉症は治療法が医学的に確立されていない。しかし天然痘も結核も最初はエビデンスがなかったため、良く分からない不思議な対応をしていたかもしれない。それでも何十年、何百年単位で克服されてきた。自閉症もそのくらいの単位で考えた時、障がいではなく、強みに代えられる療育法が見いだされているかもしれない。
「映画を引き受けたのは、そういう意味もあるんですよ。映画って残るでしょ。100年先にこの『新居浜ひかり物語 青いライオン』を見た人が、当時、こんな先進的な療育があったんだ、と。今は異端派でも、その時はこの療育がスタンダードになっているかもしれません」
映画とドキュメンタリーの融合作品「新居浜ひかり物語 青いライオン」ぜひ、劇場にてご覧ください。
掲載情報
石村嘉成 公式サイト https://i-yoshinari.jp/
「新居浜ひかり物語 青いライオン」特設サイト https://www.rsk.co.jp/cinema/
タイトル:新居浜ひかり物語 青いライオン
出演:石村嘉成 / 小林章子、藤原康典、高原幸之介、中本真維、八木景子、石村和徳、檀ふみ、竹下景子
監督・脚本:三好聡浩 平松咲季
プロデューサー:物部一宏
2024年/日本/80分/カラー/16:9/5.1ch/映倫:G
製作:RSK 山陽放送株式会社
配給:福武観光株式会社
特別協賛:株式会社日光商事グループ
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