嘉成さんは、物心ついた時から、ご両親と共に動物園に通い、その中ではライオンが一番好きだったと言います。これは映画のパンフレットにもなった「青いライオン」です。
現在、兵庫県立美術館で開催されている「石村嘉成展」は連日、大盛況。その制作の秘密に迫ります。
嘉成さんの作品にはすべて、ストーリーがある
兵庫県立美術館では多くの作品が展示されていますが、何よりも目玉は「Animal History」です。
これはプールよりも長い26mもの壮大なスケールで描かれた「古代の恐竜から現代の動物までの命のつながり」を表しています。
嘉成さんは描く時「生き物の気持ちを考えます。その生き物になってみてイメージで描く」そうです。
(ぜひ会場でご覧ください)
自ら、解説してくれました。「この亀はお腹から描きました。友達の亀に会いに行くため、必死に泳いでいる写真です」
お腹から描いたとは驚きです。このウミガメの目は穏やかですが、「友達に会いたい」という目的をもって泳いでいる両手の動きに躍動感があり、観る者をワクワクさせます。
僕が動物を描く理由
嘉成さんが動物にこだわるのはなんでしょう?
「好きだからです、それだけ」ニコニコと答えてくれました。描き始めると8時間くらい集中するそうです。
和徳さんは言います。「嘉成は動物が好き、絵が好き。野生の厳しい自然の中でたくましく生きている姿。決闘したり、狩りをする生存競争。その反面、動物たちが仲間と親しく遊んでる姿も好き。犬や猫、いわゆるペットには興味ないですね」
厳しい生存競争の中で仲間と親しく過ごす野生の動物。それは嘉成さんの理想の姿なのかもしれません。
実際、嘉成さんは高校卒業後の進路で初めて挫折を味わいました。どこにも受け入れてもらえなかったそうです。
「消去法で、高3の時に出会った版画の先生に見てもらうことにしたんです。版画って彫刻刀で彫るでしょう?集中しないといけない。だからいつも独り言を言ってる嘉成も黙るんですよ。自閉症の子は意識レベルを下げさせたらいけないんです。ぼーっとしてしまう。常に何かを考えさせておきたい。版画はそういう意味でも嘉成に合ったんでしょう」
自閉症の子どもは他人に興味がある
絵の解説をしてくれた嘉成さんは臆することなく、どこまでもサービス精神旺盛で、いろいろと話してくれます。最初からこのような性格だったのでしょうか。和徳さんは大きく手を横に振りながら言いました。
「皆さん、自閉症の子って、物にこだわりがあっても、人に興味がないと思っているし、一般的にそう認識されている。でもね、嘉成を見てください。ファンの人との交流が大好きだし、サイン会やドローイングも自分からやりますよ」
しかし最初から今のようなサービス精神あふれる嘉成さんではありませんでした。20歳で初めて新居浜市立郷土美術館で個展を開いた時は、何をしていいのか分からないので、版木を持って行き、彫っていたそうです。
「するとね、人が寄ってくる。褒めてくれる、認めてくれる。自己肯定感が上がりました。人はこれがあるとね、どんどん自分をアピールしたくなる。喜んでもらいたくなる。それが嘉成の場合、サービス精神なんですよ」
なるほど、前編でもおっしゃっていた通り、自閉症が理由ではありません。どの子育てにも、どんな人にも通じるのが有希子さんと和徳さんがなさってきた教育なのです。
「嘉成は人への接し方が分からなかった。だから人に興味がないように見えていた。だけど、人に喜んでもらうことを知り、サービス精神が生まれた。障がいの有無にかかわらず、世の中の人も、人に喜んでもらう方法を知ることができれば、世の中が平和になるのではないでしょうか」
子どもは皆、宝箱を持っている
最後に和徳さんはとても良い言葉をくださいました。「子どもはね、皆、心の中に宝箱を持っているんですよ」
その宝箱を開けないまま、大人になる人もいる。その間に、世の中の嫌な部分を知り、要領の良さも得る。それを成長と言うのだけど。しかし大概の人は、成長の過程で鍵の在り処を忘れてしまうという和徳さん。
「しかし、この子たちは違います。そういう成長を身に付けないまま純粋に育ったから、いつでも宝箱の蓋を開けられるんです」
あなたの心の中にある宝箱、その鍵を、あなたは今も持っていますか?いつでも開けられますか?
これからの子どもたちに、鍵を無くさずに成長してほしい、ひとりの親としてそう願ってやみません。
掲載情報
兵庫県立美術館 https://www.artm.pref.hyogo.jp/ (ギャラリー棟3階)
アクセス情報 https://www.artm.pref.hyogo.jp/access_m/
映画とドキュメンタリーの融合作品「新居浜ひかり物語 青いライオン」ぜひ、劇場にてご覧ください。
石村嘉成さん 公式サイト https://i-yoshinari.jp/
「青いライオン」特設サイト https://www.rsk.co.jp/cinema/