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人  |    2025.11.19

高齢者の孤立支援を追求したらいつの間にか「ごちゃまぜ」に!えんがお濱野さんが追及する地域づくりの形とは?

近年の社会問題のひとつに孤独化・孤立化が挙げられます。「内閣府孤独・孤立対策推進室」が令和6年9月に発表した資料によると、約4~5割の人が「孤独であると感じている」と回答しています。インターネットの普及や単身世帯の増加が原因とされ、今後は少子高齢化の進行や地域の衰退などの理由からますます増えるでしょう。

その一方で、政府や民間団体の中には、孤立を防ぐ支援に取り組む動きも見られています。その団体のひとつが、栃木県大田原市で活動している「一般社団法人えんがお」です。

えんがおでは高齢者をはじめ、子どもや障がい者など、さまざまな背景を抱えた人の孤独・孤立の解消を図る取り組みを行っています。今回は、代表の濱野将行(はまのまさゆき)さんに、えんがおを立ち上げた背景と今の取り組みについてお話を伺ってみました。

今回お話を伺った人

濱野将行さん(一般社団法人えんがお 代表理事)

栃木県矢板市出身、作業療法士。地域で活動していく中で、「高齢者の孤立」という現実に直面。一生懸命生きた人生の最期が孤立なら、若者は未来に希望を抱けない、との想いのもと、孤立の予防と解消を目指し2017年5月「一般社団法人えんがお」を設立。
現在、年間延1200人以上の若者を巻き込みながら、徒歩2分圏内に9軒の空き家を活用し、高齢者サロンや学童保育、フリースクール(不登校支援)・地域食堂・シェアハウス・障害者向けグループホーム、放課後等デイサービスなどを運営。

引用元:一般社団法人えんがお公式サイト

活動の原点は東日本大震災の被災者支援で自分の無力さを感じたこと

濱野さんの活動の原点は、学生の頃に携わった東日本大震災で被災した人へのボランティア活動です。栃木県は被災した福島県に隣接していたことから、被災地から避難してきた人が多く、ボランティアに携わる機会があったそうです。「自分も何か協力してあげたい」という想いからボランティアに参加するも、被災者と接する中で無力感を抱いた経験が、えんがおの原点だったと言います。

濱野さん

「被災者の方から聞く『家族が行方不明で』『家を流されてしまった』といった話に対して、どうやってリアクションをすればいいのかわかりませんでした。うなずくことすらできず、その時に『自分って何もできないんだな』と思わされました。本当に悔しかったですね」

被災者支援は濱野さんが大学を卒業し、作業療法士として就職した後も継続しています。

「濱野さんがやらなきゃ誰もやらないよ」後押しされてえんがおを立ち上げ

画像提供:一般社団法人えんがお

濱野さんが被災者支援と作業療法士の仕事を通して気づいたことが、高齢者の方が孤立していることです。特に、濱野さんが行動を起こす決定的な出来事が、仕事中に接していた高齢女性の方が「人と話すのは本当に久しぶりで」と言ったことでした。このときに、高齢者の孤立が社会的問題であることを知ったそうです。

どうにかして解決できないのか、と悩んでいた濱野さんの背中を押したのは、学生時代のボランティア活動の時から関わりのある「NPO法人とちぎユースサポーターズネットワーク」の方でした。

濱野さん

「『濱野さんがやらなきゃ誰もやらないよ』と言ってもらったことで、取り組むことを決意しました。
行政が支援するのは、介護状態になった後になります。つまり、介護状態ではないけれども孤立している人は支援を受けられず、ますます状況が悪化してしまいます。行政が動けないのなら、自分がやるしかない、そう思わされました」

今でこそ全国各地で高齢者の孤立支援を手がけている団体が出てきているものの、当時はそのような動きはほとんどありませんでした。濱野さんは作業療法士の仕事と並行して、地域の高齢者への支援活動を始めます。

目の前に必要な支援があったから!取り組んでいたらいつの間にか「ごちゃまぜ」に

2017年に「一般社団法人えんがお」を立ち上げて以降、今では支援の対象者は高齢者にとどまらず若者や子ども、障がい者など幅広くなっています。当初は構想になかったそうですが「気が付いたらこうなっていた」と、濱野さんは語ります。

濱野さん

「求められたから作った、というのが正直なところです。実際に、孤立化は高齢者に限った問題ではありません。ちょうど今日、中学生の子が1人来ているのですが、彼は学校生活になじめないことを理由に不登校になり、定期的にここへ来ています」

実際に、筆者が訪れたときは高齢者、学生ボランティア、中学生と、世代も立場も全く異なる人たちが集まっていました。濱野さんの言葉では、あらゆる世代・立場の人が集まることを「ごちゃまぜ」と表現し、その現象こそが誰もが社会へ関わるために重要だと話します。

一方で、これだけさまざまな背景を持つ人が集まる以上、トラブルは日常茶飯事だと言います。

濱野さん

「トラブルは毎日のように起きていますよ(笑)。もう、日常に溶け込んでいるので、どのようなトラブルが起きたのか覚えていないくらいに。
ただ、私たちはトラブルが起きることは全く悲観していなくて『あって当たり前のもの』と考えています。むしろトラブルが起きないように、とルールを固めてしまうと、却って不自然な場になるでしょう。もちろん、事態が大きくなりそうなときは私たちが仲裁に入りますよ。
あくまで私たちが目指しているのは『暮らしの一部』。日常生活でも大なり小なりトラブルは起きるじゃないですか?それと同じ感覚です」

「暮らしの一部」としての場づくりを目指しているからこそ、濱野さんは「支援する側」にならないことを意識しているそうです。支援する側にならないために、濱野さんは高齢者の方であっても子どもであっても、フランクに接しています。

筆者が訪れたときに印象的だったのは、濱野さんが施設を利用されている高齢者の方に作業をお願いするとき「人生お暇な皆さんお願いします!」と声かけをしていたこと。利用者に対してはもちろん、自分のおじいちゃんおばあちゃんにも使わないであろう言葉遣いですが、それでも場の雰囲気は明るく、和やかなものでした。

「自分にとって第二の居場所に」えんがお利用者の方に聞いてみた

画像提供:一般社団法人えんがお

えんがおを訪れたことを機に、人と接する機会が増え、表情が明るくなる姿を何度も見たという濱野さん。

今回、筆者は利用者である中学生と高齢者の方から、利用してみて感じたことを教えてもらえました。

利用者の中学生

「ここに来ているのは、学校生活になじめないことが理由です。いじめとか友だちができないとかではなくて、集団で行動して勉強するというのはかなり苦痛で…。そんなとき、母が『家に引きこもっているならここ(えんがお)に行ってみたら?』と教えてくれて、自由に過ごせるのと居心地が良かったので、今では頻繁に来ています。兄弟や友だちを連れてきたこともありますよ」

利用者の高齢者

「今は主人と二人暮らしなのですが、もう60年の付き合いにもなるので会話がほとんどないのが寂しくて。ここに来て、いろいろな方とお話をするのがとても楽しくて。初めて来てから3年くらい経っています」

えんがおという場所が、利用者にとっていかに大きな存在か、というのがわかります。

孤立した人を社会へ結びつける役割へ

2025年で9期目を迎えるえんがおですが、2023年からは内閣府孤独・孤立対策推進室の事業を受託し、全国各地で孤立支援に取り組む団体とノウハウを共有しているそうです。

濱野さん

「近年では、全国で孤立支援に取り組んでいる団体が出てきています。他団体さんの話を聞いていく中で、私たちと同じような取り組みで、良い動きができているという印象を受けています」

今でも、年間で150-200の自治体や団体から視察・講演の依頼が来ていることから、近年では非常に関心の高い社会問題になっていることがうかがえます。

孤立・孤独に関しては、社会的課題のひとつである少子高齢化により、問題はさらに加速すると言われています。そこで最後に、濱野さんに日本が直面している少子高齢化について私見を聞いてみました。

濱野さん

「世の中の現象として避けられないことなので『仕方ない』と思っている一方で、それほど悲観はしなくてもいいことだと考えています。『支援する』『支援される』の関係性だけで捉えると、高齢者が増えれば支援しきれない、という絶望的な結論になるでしょう。
ただ、『高齢者が不登校の生徒を支援する』『高齢者に働いてもらう』といった構図になれば、問題は解消に向かいます。
『ボランティアという形でもいいから社会とかかわりたい』という高齢者は、結構多いです。このような意欲のある高齢者を社会資源として上手に活用すれば、むしろプラスに変えられると考えています」

えんがおに来ている高齢者の方は、皆さん「自分のできる範囲」で、地域に貢献されていると言います。

今回のインタビューを通じて、孤立支援は孤立した人々を社会に結びつける活動なのだと思いました。実際に、近年は内閣府も「孤独・孤立対策推進室」を設置して孤立した人の支援に乗り出しているものの、まだまだ課題が多いのが現状です。実際にえんがおでは大田原市と提携しており、行政からの紹介がきっかけで利用しているという人は多いそうです。

孤立・孤独により困っている人は多い反面、以前までは制度の仕組みにより、行政の支援対象には含まれていませんでした。えんがおの活動は、こうした制度が適用されない人を支援する、非常に社会的意義のある活動だと感じさせられました。

一般社団法人えんがお
〒324-0051 
栃木県大田原市山の手1-9-10

TEL:0287-33-9110
公式ホームページ:https://www.engawa-smile.org/
X:https://x.com/engao2525
Instagram:https://www.instagram.com/engaogram/

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この記事を書いた人

土田たかひさ

栃木県宇都宮市在住のライター。 出身は愛知県で、親の転勤などの都合でこれまでに東海地方を中心に6県で生活をしてきた経験あり。 地域の面白いと思ったスポットやお店を紹介します。

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