前編では、ハモの骨を“切る”のではなく“取り除く”という前例のない技術と、「鱧割烹いきがい」の料理の魅力に迫りました。
後編では、その技術を生み出した店主・塩沢研さんの価値観や、哲学に焦点を当てます。なぜ不可能に挑み続けるのか。
なぜ鱧一筋であり続けるのか。その言葉の一つひとつには、料理を超えた“生き方”がにじんでいました。本記事では、店主が語る仕事観や、人生との向き合い方などを紹介します。
料理は「誰かのため」ではなく自分を高める手段

鱧割烹いきがいの料理を語るうえで、最も重要なのが店主の考え方です。一般的に料理人は、「お客様のために」という言葉を大切にします。
しかし店主は、少し違います。
「料理は自分自身を高めるための手段」と捉えているのが特徴です。一見すると冷たく聞こえるかもしれません。

ですが実際には、その考え方こそが高いクオリティにつながっています。自分の成長を追求した結果、自然に料理の質も高まる。その先にお客様の満足が生まれる、つまり順番が違うのです。
難しいものに挑戦することで人は成長する

店主が鱧に特化した理由は明確です。「難しいから」です。簡単にできることでは、人は大きく成長できません。
「鱧は骨が多く、扱いが非常に難しい魚だからこそ挑戦する価値があった」と店主。
「難しい課題に向き合い続けることで、人間としての成長につながる」という考え方が、すべての行動の軸になっています。
3,000匹の積み重ねが生んだ技術

現在の技術に至るまで、決して順調だったわけではありません。最初は1匹さばくのに1時間以上。身は崩れ、骨は残る。理想とは程遠い状態でした。
それでも店主はやめませんでした。やめることは、人としての成長を止めることと同じだからです。

約3,000匹、この数を超えた頃、店主は鱧の骨格を理解できるようになったそうです。
そこから技術は一気に伸びていきました。日々の積み重ねが、確実に結果へとつながっています。
成長はある日突然訪れる

店主は、「成長には段階がある」と語ります。日々の積み重ねの中で、ある日突然、感覚が変わる瞬間が訪れます。技術が一段階上がる感覚です。
この変化は、「およそ2年に一度のペースで訪れる」といいます。
ただ努力するのではなく、成長のリズムを理解しながら挑戦し続けるところも、店主の特徴の1つです。
時間を作るために仕事を変えた決断

技術を磨くために、店主は環境そのものを変えています。もともとは料理店で店長として働いていましたが、練習時間を確保するために退職。
その後、お茶漬け専門店を開業しました。仕込み時間を減らし、空いた時間をすべて鱧に使うためです。この生活を7年間続けました。

結果として、現在の技術を形にできたそうです。「成長のために、環境を変えるのは効果的」と知っている人は多いかも知れませんが、店主のように実行できる人は限られるでしょう。
思い込みが成長を止める最大の原因

店主が強く語るのが「思い込みの危険性」です。
調理の専門学校の教科書にも書かれるなど、「鱧の骨は取れない」のは、料理業界での常識でした。よって、誰も挑戦しませんでした。
しかし、400年以上不可能とされてきたことを、店主は世界で初めて実現しています。
「思い込みは、人間の成長を止める最大の要因です。常識を疑うことからすべてが始まる」と店主はいいます。
集中しないことが成功につながる理由

意外かもしれませんが、店主は「集中しすぎない」ことを大切にしています。
「強く意識すると、余計な力が入ります」その結果、繊細な作業が崩れてしまうため、意識するのは呼吸だけだとか。
「吸って吐く、それだけに集中します」と店主。すると自然に力が抜け、正確な動きができるようになります。
これは料理に限らず、あらゆる仕事に通じる考え方です。
10年後を見据えた未完成の現在地

店主は現在の自分を、「まだ完成していない」と考えています。完成までには、あと10年と見据えています。
目指しているのは、技術と精神が一致した状態です。いわば「禅」の境地。料理と自己成長が完全に重なる状態を目指しています。
店主は今もなお、日々の積み重ねを続けています。
技術は教えるものではなく見て学ぶもの

店主の技術を学びたいと、多くの料理人が訪れます。店主は見学を歓迎していますが、「教える」ことは簡単ではありません。なぜなら、この技術は言葉で伝えられるものではないからです。
「実際に見て、感じて、自分で試す。その過程が重要です。試行錯誤こそが、本当の学びにつながりますよね」と店主はいいます。
すべての人に刺さらなくてもいいという考え方

店主は、すべての人に好かれようとは考えていません。「価値観が合う人に届けばいい」そう考えています。
鱧だけを提供するというスタイルも、その考えの表れです。お客さんに、多くの選択肢はありません。
それでも来る人は来る。その関係性を大切にしています。
鱧割烹いきがい「料理とは人間を磨くための行為」

鱧割烹いきがいは店主にとって、ただお客さんに料理を提供するだけの場所ではありません。料理を通じて人間性を高める場所です。
- 技術を磨く
- 常識を疑う
- 積み重ねを続ける
そのすべてが、一皿の料理に込められています。そしてその背景には、「今日は昨日のやり直し」という強い信念があります。
日々を積み重ねることで、人は少しずつ成長していきます。鱧割烹いきがいには、唯一無二の料理を味わうとともに、店主の生き様に感動する時間がありました。
| 店名 | 鱧割烹 いきがい |
| 住所 | 〒790-0002 愛媛県松山市二番町1丁目9-21魚政ビル1階 |
| アクセス | 伊予鉄「勝山町駅」から徒歩約6分 |
| 営業時間 | 18:00〜23:00 |
| 定休日 | ・日曜 ・祝日 ・第1、第3月曜 (不定休あり) |
| 電話 | なし |
| 予約・問合せ | 公式LINE |
| 料金目安 | ・新鱧百珍コース:15,000円(税抜) ・単品:2,000円 |
| SNS | |
| 駐車場 | なし ※近隣コインパーキング利用 |
※掲載情報は2026年3月執筆時点のものです




