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人  |    2024.12.12

神奈川県で手作りの傘を販売する「leica」|書道家の祖母を持つ傘作りの作家さん【前編】

今回取材に応じてくれたのは、神奈川県のとある町にひっそりと傘作りの工房を構える「leica」の代表、東 千尋さんだ。

燦々と照りつける太陽の日差しからお肌を守る日傘を、巧みな手業で次々と作り出す。千尋さんの感性によって命が吹き込まれた傘たちは、日差しから逃れた心を晴れやかにしてくれる。

この記事では、美しい傘を一つひとつ丁寧に手作りする千尋さんのストーリーに迫った

社会の常識と己の直感の狭間でもがき苦しみ、辿り着いた傘作りという作家の道。そこには、どのような想いが隠されているのだろうか。前編と後編にかけて、その想いを紐解いていこう。

傘作りを始めたきっかけは、ピーン!と来たから

——そもそも傘作りを始めたきっかけは、何だったのですか?

「私は特殊メイクの専門学校に通っていて、卒業後はフリーランスとして働いていました。ただ、その生活はとても過酷なもので、今のまま身を粉にして働いていても女としてどうなんだろう、と思ったんです。なので、今度は体の負担を減らして、自分らしく働きたい!と思い、フリーランスをキッパリと辞めました」

「フリーランスを辞めたのは良いものの、特にあてもなくアルバイトをしながらフラフラとする毎日を送っていました。そんな時に、傘職人の職人養成の求人に出会ったんです。私の中で“ピーン!”と来て、さっそく応募したら、なんか面接に受かっちゃって…。(笑)そこから修行して、今に至ります」

——きっかけは“直感”ですか…勢いがあって良いですね(笑)傘作りって珍しいと思うのですが、どのようなところに「ピーン!」と来たのでしょうか?

「う〜ん…。あ、でも、家でできる仕事だったし、モノづくりって環境にも優しいんじゃないかなと思いました。あと、立体だけど平面だったり、形が違かったりという傘に魅了されて、やりたいと思ったのもあります」

——そうなんですね!傘職人の養成という求人があるのもビックリでした。てっきりどこかの師匠に直談判しに行く的なことを想像してしまって(笑)

「そうなんですよ、一応会社に所属しながら指導を受けられるんです」

あなたは得体の知れない“何か”に導かれる感覚を味わったことがあるだろうか?東洋医学にも似たところがあるが、果たしてそのパワーとは、どこから来るのだろうか。

千尋さんは、その得体の知れない“何か”に導かれたと言っても過言ではない。己の脳内に電流が流れるが如く、「これだ!」と思って傘作りを始めた。こんなにも人間的な動機は、清々しいと同時に羨ましささえ覚えてしまう。

書道家の祖母と「leica」というブランド

——「leica」というブランド名は、書道家のおばあさまの雅号にちなんでつけたとか?

「はい、私のおばあちゃんが書道家で、昔言われた言葉が印象的だったんです。書道って、当然ですが字を綺麗に書くために筆でなぞる線を見るじゃないですか。祖母はそうじゃなくて、“余白を見て描きなさい”と教えてくれました。書くときの筆の音を聞いて、紙の質感を確かめたり違いを見極めたりすることを教えてもらい、そのおかげで“ものの見方”が変わったような気がします」

幼い頃、誰しもが小学校で必ず習う科目である「習字」だが、ほとんどの人が一生懸命に“字”を見て書いていたはずだ。千尋さんのおばあさまが仰った言葉は、やはり一般的な解釈とは違った“その道を極めた玄人”が持つ視点。その視点や感性を直に受けてきた千尋さんもまた、価値観の扉が広々と開け放たれ、颯爽と走る馬の如く、海原を優雅に泳ぐイルカの如く自由になれたのだろうか。

そんな千尋さんが作る傘は、どれも強い日差しを防ぐ機能を保ちつつ、無邪気で楽しい天真爛漫なデザインをしている。太陽と競い合うかのように明るくハツラツとした日傘たちは、どんな時でも心が前向きになれそうだ。

落ち着いているはずの色も、なぜか内側に遊び心のような自由さが覗けるのは、やはり幼い頃にスクスクと育った感性が影響しているのだろう。それこそ傘には余白を感じる部分が多い。開いたときの開放感と、傘を刺した時にできる自分と傘の縁との距離感。何気なく傘をさす行為でも、日向と影の余白を十分に慈しむことができるのは、潜在的にみなが気がついているのではないだろうか。千尋さんの傘は、その余白を楽しむのに最適とも言える。

——先ほどは傘づくりを始めたきっかけをお聞きしました。今度は、ブランドを設立した理由をお聞きしても良いですか?

「おばあちゃんがそうだったように、私も自分の五感を使った仕事がしたいと思っていたんです。正直、初めは傘に興味はなかったのですが、作っているうちにのめり込んでしまって…。当時アルバイトしていたお店が潰れてしまったのをきっかけに、独立をしました」

——今こうして傘を作っている千尋さんですが、ズバリ傘作りの魅力とはなんでしょう?

「魅力ですか。う〜ん…傘を作るときに、生地を選んで、どのくらい伸びるかなとか、色の組み合わせはこれが良いかなとか、そういうことを考えるのが好きです。あと、生地を縫い終わって、傘を開くときに感動を覚えます」

千尋さんは、話をしている最中に実際に傘を作っているかのような手つきをしながら喋っていた。とにかく傘作りの工程を想像しながら話す様子は、物作りを純粋に楽しんでいるように思えた。この純度の高い作り手のワクワク感が作品に命を吹き込み、鮮やかな色彩を放ちながら天井のない無限の彼方に向かってニッコリ微笑む美しい傘が生まれるのだろう。

しかし千尋さんは、何も最初から価値観を反映させた今の生き方ができたわけではない。常に常識と直感の狭間で揺れ動き、雲行きの怪しい中で一人彷徨っていた……。

後編はこちら

神奈川県で手作りの傘を販売する「leica」|マグロを見ながら“生きる”について考えた傘作りの作家さん【後編】

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この記事を書いた人

みくと

映画と映画館をひたすら愛するフリーライターです。2000年に横浜で生まれ、現在は妻と娘と大和市に住んでいます。普段は映画レビューの寄稿やSEO記事の執筆、ホームページのライティングなどをしています。趣味は、次に観る映画を「何にしようか」と悩むことと、文章を書くことです。Mediallでは、地域の映画館や神奈川の魅力溢れるお店などをご紹介します。

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