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アート  |    2025.11.11

豊田市民芸館で感じる「国際芸術祭「あいち2025」」|まちを巡るアートの旅【前編】

日本を代表する現代アートの祭典「国際芸術祭「あいち」」。第6回目となる2025年は「灰と薔薇のあいまに」をテーマに、22の国と地域、62組のアーティストの作品が展示されます。まちなかを巻き込んだインスタレーションやアーティストによるパフォーミングアーツなども話題となっている展示会です。

国際芸術祭「あいち2025」

芸術祭会期中には、移動型展覧会の巡回展示「ポップ・アップ!」も開催。「国際芸術祭「あいち2025」」に参加する14組のアーティストたちの作品が、県内4つの市町を巡ります。

「あなたのまちに、芸術祭がやってくる」をコンセプトとした「ポップ・アップ!」は、芸術を身近に感じてほしいという想いが込められたもの。ワークショップやガイドツアーもあり、現代アートを気軽に楽しめる場となっています。

民芸館や小学校など、会場ごとに異なる雰囲気が楽しめるのも移動型展覧会の特徴。今回は豊田市民芸館で行われた「ポップ・アップ!」の様子をお届けします。

伝統の間がアートの舞台に 第3民芸館 

第3民芸館展示室では、8名のアーティストの作品が展示されていました。

吸い込まれるような深い蒼。プリヤギータ・ディアの「海は青い記憶」

≪海は青い記憶≫

プリヤギータ・ディア
1992年シンガポール生まれ。ハーグ(オランダ)拠点。
プリヤギータ・ディアは、時間と共に展開するタイムベースド・メディアやインスタレーションを手掛けるアーティスト。その作品には、東南アジアの労働の歴史、熱帯地域へのまなざし、祖先の記憶と機械の論理の邂逅などのテーマが編み込まれている。過去の記録やフィールドでのリサーチを通じて、単線的ではない思考のあり方を探求し、主流の言説を拒む実践を展開。現在はオランダを拠点に活動している。(引用:国際芸術祭「あいち2025」公式HP

熱帯の海を渡る、契約労働者の女性のアニメーション作品。流れゆく歴史と記憶を、波になぞらえて表現します。ゆっくりと流れ、溶け合う青い波はどんな感情も包み込んでくれるよう。過去と現在、現実と非現実が静かに重なり合います。

死と生の世界が交差する五十嵐大介の「灰と薔薇のあいまに」

≪灰と薔薇のあいまに(国際芸術祭「あいち2025」のためのキービジュアル原画)≫

≪今も灰は降り続き 薔薇の周りを幽霊たちが舞う(国際芸術祭「あいち2025」のためのキービジュアル原画)≫

五十嵐大介
1969年埼玉県生まれ。神奈川県拠点。
多摩美術大学美術学部絵画学科卒業後、1993年「月刊アフタヌーン」(講談社)で四季大賞を受賞し、漫画家としてデビュー。高い画力と繊細な筆致で、自然とそこに住まう生き物たちが混じり合う、どこか恐ろしくも美しい世界を描き出す。挿絵や装画も多数手がける。(引用:国際芸術祭「あいち2025」公式HP

キービジュアルにもなった「灰と薔薇のあいまに」。芸術監督であるフール・アル・カシミは、手塚治虫をはじめとする日本の漫画家の世界観にも影響を受けたそうです。

灰が破壊や終わりの結果なのであれば、薔薇は死者の国に咲くと考えた五十嵐氏。描いているうちに生き生きとしてきた幽霊たちに、死者の国は生まれる前の者たちの世界かもしれないと感じたとか。屍の中で花開く薔薇が、小さな希望を与えます。

絵本の1ページをめくったような大小島真木の『ウオルド』

≪『ウオルド』原画 木が歌っているよ≫

≪『ウオルド』原画 ぼくたちは、再び生まれたんだ≫≪『ウオルド』原画 森がぼくらを呼ぶ≫

大小島真木
2023年東京都で結成。東京都拠点。大小島真木、1987年東京都生まれ。辻陽介、1983年東京都生まれ。
大小島真木は、「絡まり、もつれ、ほころびながら、いびつに循環していく生命」をテーマに制作活動を行うアーティスト。これまでにインド、ポーランド、中国、メキシコ、フランスなどで滞在制作を行う。2023年より辻陽介とアートユニットを形成し、「大小島真木」のユニット名義で活動している。近年は美術館、ギャラリーなどにおける展示の他、舞台美術なども手掛ける。(引用:国際芸術祭「あいち2025」公式HP

思わず頬がゆるむ、かわいらしくて優しい世界。ふんわりと重なった淡い色合いが、懐かしさとぬくもりで心を満たします。人、動物、自然が絡まり合うイラストは命の循環を意味しているそう。館内には、『ウオルド』の絵本も販売されていました。

身近な薬草を版画に。浅野友理子の「薬草の木版画」

≪薬草の木版画 ドクダミ フシニンジン ホオノキ ヤマユリ カキドオシ オトギリソウ マムシグサ ツチアケビ トチノミ≫

浅野友理子
1990年宮城県生まれ。宮城県拠点。
浅野友理子は、その土地の食文化や植物の利用法を学ぶためにさまざまな土地を訪ね、出会った人々とのやりとりや自身の体験をなぞり、その土地で受け継がれてきたものを記録するように絵画を制作している。それらの作品は、単なる植物画にとどまらず、土地に長く伝わる知恵や知識に着目し、現代社会で失われつつある人と自然との共生や、人間以外の生き物に対する視点、生命の循環、あるいは女性の労働など、きわめて現代的な問題意識を内包している。そしてその色彩豊かで生命力にあふれる絵画作品を通じ、浅野はこの豊かな世界を祝福している。(引用:国際芸術祭「あいち2025」公式HP

コロナ禍に制作された本作品は、なかなか会えない遠くの知人や友人を思ったもの。自然のエネルギーを宿す薬草たちが、心に癒しを届けます。素朴でありながら力強さを感じる、草花の生命力と治癒力が息づく作品です。

灰をつくり出したのは誰なのか?カマラ・イブラヒム・イシャグの「灰と人々」

≪灰と人々≫

カマラ・イブラヒム・イシャグ
先駆的なアーティストとして知られるカマラ・イブラヒム・イシャグは、スーダンの芸術運動ハルツーム派の一員として、アフリカのモダニスト達の芸術に関する議論に大きな影響を与えた。イシャグはまたスーダンの伝統的な美意識に異を唱えるクリスタリスト派の創設メンバーでもあり、独自の芸術言語を用いて現実と欺瞞、精神性と神性、女性に対する支配や束縛といったテーマを探求している。自然やスーダンのザール信仰の憑依儀礼に着想を得たイシャグの作品には、歪んだ人物が描かれることが多い。何かに閉じ込められているようなその姿は、スーダンやアフリカ地域の女性たち、世界中に離散したアフリカの女性たちの、変化に翻弄された人生を想起させる。(引用:国際芸術祭「あいち2025」公式HP

「スーダンの伝統的な美意識からの解放」をモットーとし、80歳を超えてもなお精力的に活動を行うカマラ・イブラヒム・イシャグ。灰色に包まれた人間たちに、現代人の姿が重なります。無彩色の中に潜む生命の気配には、精霊の息づかいも。沈黙の中で静かな強さが放たれます。

自然界からのサイン。ロバート・ザオ・レンフイの「そして大いなる兆候が表れた」

≪そして大いなる兆候が表れた≫

ロバート・ザオ・レンフイ
1983年シンガポール生まれ。シンガポール拠点。
ロバート・ザオ・レンフイは、自然と文化の複雑で入り組んだ関係性を探求する領域横断的な実践を行うアーティスト。生物界を構成する多様な存在や物体に関心を寄せ、インスタレーションや写真、映像、彫刻を媒体として、その経験や知識が人間という集合的存在をいかに豊かにしているかを描き出している。(引用:国際芸術祭「あいち2025」公式HP

インドやスリランカで見られる渡り鳥シロスキハシコウがシンガポールのまちへ。観察者と表現者の目で、地球温暖化の危惧を静かに伝えます。空にぽっかりと空いた穴は、オゾン層の破壊を意味しているかのよう。モノトーンの映像が心に染みわたる作品です。

民芸館の器とコラボレーションした札本彩子の「モシャス」

≪モシャス(焼鮭 辛口)≫

札本彩子
1991年山口県生まれ。京都府拠点。
札本彩子は、食品工場やフードデリバリーで働いた経験をもとに、現代の食を考察している。これまで、食卓にのぼらないまま廃棄される食品を目の当たりにしてきた札本にとって、消えゆく食品のレプリカを制作することは、食の記憶の再現であり、自身を取り巻く食の状況の整理でもある。(引用:国際芸術祭「あいち2025」公式HP

「モシャス」とは、敵と同じ能力が身につけられる、同名のゲームの呪文に由来する札本のシリーズ作品。石や木材と瓜二つの食材は、「本物の食」を見失う現代を象徴しているかのようです。民芸館の器とコラボレーションしたこの作品には、空間を楽しんでほしいという主催側の想いも込められています。

後編では第3民芸館の5作品と、旧井上家住宅西洋館、茶室 勘桜亭の様子をお届けします。

後編はこちら

豊田市民芸館で感じる「国際芸術祭「あいち2025」」|まちを巡るアートの旅【後編】

国際芸術祭「あいち2025」 開催概要

会期|2025年9月13日(土)〜11月30日(日)〈79日間〉
会場|愛知芸術文化センター、愛知県陶磁美術館、瀬戸市のまちなか ほか
参加アーティスト|世界22の国と地域から62組
テーマ|「灰と薔薇のあいまに」
人と自然、戦争と記憶、資源と権力構造など、現代社会が抱えるテーマに向き合う作品が並びます。
芸術監督|フール・アル・カシミ(シャルジャ美術財団 理事長)

公式Instagram:国際芸術祭「あいち2025」/Aichi Triennale 2025

公式HP:国際芸術祭「あいち2025」

巡回展示「ポップ・アップ!」開催概要

豊川市会場

開催日|2025年11月14日(金)〜11月24日(月・振替休日)
会場|豊川市桜ヶ丘ミュージアム
開館時間|9:00〜17:00(最終入場16:30)
※11月17日(月)休館
関連イベント|出荷量全国1位を誇る“バラの街・豊川”にちなみ、
11月15日(土)・16日(日)には、SNS等で展覧会を紹介してくれた来場者に
名産のバラをプレゼント(各日先着75名)

11月23日(日)作品ガイドツアー(予約不要・所要時間30分程度)
①11:00~②14:00~ 集合場所:豊川市桜ヶ丘ミュージアム1Fロビー

詳しくは公式HP:国際芸術祭「あいち2025」をご覧ください。

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この記事を書いた人

Risa Suzuki

豊田市生まれ豊田市育ち、フリーライターのrisa suzukiです。 その人・お店だけが持つ魅力を引き出しながら、「会ってみたい!」「行ってみたい!」と思えるような記事をお届けします。 Mediallでは豊田市近郊のナンバーワン・オンリーワンスポットをご紹介。 地元民だからこそ知るステキな人・お店の情報を発信していきます。 イベント取材、インタビューなども柔軟に対応するので、お気軽にご相談ください。

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