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アート  |    2025.11.11

豊田市民芸館で感じる「国際芸術祭「あいち2025」」|まちを巡るアートの旅【後編】

日本を代表する現代アートの祭典「国際芸術祭「あいち」」。第6回目となる2025年は「灰と薔薇のあいまに」をテーマに、22か国、62組のアーティストの作品が展示されます。

会期中には移動型展覧会の巡回展示「ポップ・アップ!」も開催され、「国際芸術祭「あいち2025」」に参加する14組のアーティストたちの作品が県内4つの市町を巡ります。

今回は豊田市民芸館で行われた「ポップ・アップ!」の様子をお届け。小道具や明治時代の建物に溶け込んだ作品たちが、空間そのものをアートに変えます。

前編はこちら

豊田市民芸館で感じる「国際芸術祭「あいち2025」」|まちを巡るアートの旅【前編】

畳の間に息づく静けさ 第3民芸館

柔らかな畳の香りが広がる部屋では、5人のアーティストの作品が展示されていました。 

昔話の一幕のような是恒さくらの原画刺繍

≪原画刺繍『ありふれたくじらジャーナル:牡鹿半島~太地浦』≫

是恒さくら
1986年広島県生まれ。広島県拠点。
2010年アラスカ大学フェアバンクス校卒業。在学中はネイティブ・アート、絵画、彫刻を学ぶ。2017年東北芸術工科大学大学院修士課程修了。国内外各地の鯨類と人の関わりや海のフォークロアをフィールドワークを通して探り、エッセイや詩のリトルプレス、刺繍作品として発表する。リトルプレス『ありふれたくじら』主宰。2018年〜2021年、東北大学東北アジア研究センター災害人文学ユニット学術研究員。2022年~2023年、文化庁新進芸術家海外研修制度・研修員としてノルウェーに滞在し、オスロ大学文化研究・東洋言語学科の研究プロジェクト「Whales of Power」に客員研究員として参加。(引用:国際芸術祭「あいち2025」公式HP

くじらと人の関係を見つめてきた研究者のまなざしが、優しくも深い、純粋な世界を描き出します。白布に浮かぶ黒い糸は、海と人をつなぐ線なのでしょうか。リトルプレスも主宰している是恒は、文字(テキスト)と織物(テキスタイル)でくじらの物語を紡いでいます。

兄妹アーティスト、セルマ&ソフィアン・ウィスィの映像作品

≪ジェスチャーの詩学≫

セルマ & ソフィアン・ウィスィ
セルマ・ウィスィ、1975年チュニス(チュニジア)生まれ。チュニス(チュニジア)、パリ(フランス)拠点。
ソフィアン・ウィスィ、1972年チュニス(チュニジア)生まれ。チュニス(チュニジア)拠点。
セルマ&ソフィアン・ウィスィのデュオは、振付家、ダンサー、キュレーターとしてキャリアの初期から共に創作およびパフォーマンスを行う、アラブ圏のコンテンポラリーダンス界における代表的な存在である。(引用:国際芸術祭「あいち2025」公式HP

チュニジア北部セジュナンの女性のみが制作を許されてきた陶器人形。その所作をダンサーである兄妹はジェスチャーで表現します。祈りを捧げているような手の動きに、手仕事のぬくもりとつながりを感じる作品。横には実物の人形も飾られていました。

古道具に溶け込むpanpanyaの漫画作品

panpanya
生年・拠点都市非公表。神奈川県生まれ。
漫画家。2000年代よりウェブ上や同人誌即売会等で活動し、2013年、白泉社『楽園』にて商業デビュー。以降は同誌を中心に、主として短編作品を継続的に発表している。概ね年に一冊のペースで単行本が刊行されており、その装丁も全てpanpanya自身が手掛ける。(引用:国際芸術祭「あいち2025」公式HP

使い込まれた道具の質感に、ユーモラスな漫画の世界が交わる作品。登場人物のように息づく古道具に、懐かしさと新しさが同居します。panpanyaは「あいち2025」開催にあたり、瀬戸のまちなかを題材とした新作漫画を描き下ろしました。

ペインターの魂がにじみ出る加藤泉の「無題」

《無題》

加藤泉
加藤泉の絵画や彫刻には、未分化な原始生物、胎児、動物、またはそれらのハイブリッドのような存在が表象されている。人間、自然、環境をめぐる根源的な関係が見出される彼の作品は、胎内回帰を想起させながら、新たな神話的物語を紡ぎ出しているようでもある。2007年の第52回ヴェネチア・ビエンナーレ国際美術展「Think with the Senses – Feel with the Mind. Art in the Present Tense」に選出されたのをきっかけに、国内外で精力的に発表を行う。近年では、木彫に彩色を施した従来の彫刻に加え、ソフトビニール、プラモデル、石、布地、アルミニウム、ブロンズも素材に加わり、加藤の絵画の意識はソフト・スカルプチャーやインスタレーションへと拡張している。(引用:国際芸術祭「あいち2025」公式HP

胎児を思わせるような、どこか不気味でかわいらしい生き物。座敷童を思わせる姿が、守り神のように静かに空間を見守ります。画家として立体作品の中にも「描くこと」を取り入れている加藤。命を吹き込まれた人形が、圧倒的な存在感を放ちます。

自然とマッチする西条茜の「肉体の物理」

《肉体の物理》

西條茜
1989年兵庫県生まれ。京都府拠点。
西條茜は、陶磁器の表面がさまざまな質感で装飾される一方、内部には虚ろな空洞を孕むというギャップから「身体」との親和性を見出し、独自の陶造形を手掛けている。またパフォーマーとともに陶造形に息や声を吹き込むサウンドパフォーマンスを行うほか、世界各地にある窯元などに滞在し、地元の伝説や史実に基づいた作品も制作している。(引用:国際芸術祭「あいち2025」公式HP

景色に浮かぶオブジェのようなこちらの作品。作品の孔(あな)は息を吹き込むことで音が鳴るパフォーマンス要素も備えているそう。人体器官を思わせるつややかな質感が、身体との不思議な共鳴をもたらします。

別世界から舞い降りたような久保寛子の「黄色いスフィンクス像」

≪黄色いスフィンクス(座像)≫

久保寛子
1987年広島県生まれ。千葉県拠点。
テキサスクリスチャン大学美術修士課程修了。先史芸術や民族・民俗芸術、文化人類学などにまつわる学説のリサーチをベースに、ワイヤーメッシュや農業用シート、防風ネットなどの工業製品を用いて彫刻作品を制作している。自然の脅威や遺物の破壊と再生、周縁化されてきた女性の表象などをテーマに、神話や祈りがかたちをなす偶像や、人々の暮らしの中から生まれた実用品に宿る美について、久保は作品を通じて現代的な視点から再考を促す。(引用:国際芸術祭「あいち2025」公式HP

まぶしい蛍光色と透けるネットに、バーチャルな世界観を感じる作品。重くて硬いイメージがある彫刻を女性の視点で柔らかに表現します。小さな羽を持つスフィンクスは、どこから来て、どこへ旅立つのでしょうか。

その横では、キービジュアルをまとった車がアートそのものとして場を彩っていました。

旧井上家住宅西洋館

農場の迎賓館や住宅としても使用された旧井上家住宅西洋館。2000年には国の登録有形文化財にも登録されています。屋根瓦と西洋建築が融合する室内では、シルビア・リバスによる映像作品が展示されていました。

≪迫りくる害≫

シルビア・リバス
1957年ブエノスアイレス(アルゼンチン)生まれ。ブエノスアイレス(アルゼンチン)拠点。
シルビア・リバスは、映像インスタレーション、パフォーマンス、空間と関わるオブジェで知られ、アルゼンチンやラテンアメリカで領域横断的な表現を行うアーティストの草分けとして評価を得てきた。1990年代から隠喩的な可能性をもったさまざまな媒体や技術を取り入れ、時間の概念と人間が置かれている状況を探究してきた。リバスは、普遍的でありながら状況に依存するようなものを想起させることで、具体的な体験を通した連想を促そうとする。リバスの考えでは、激動する状況に直面した人々にとって大きな力となるのは、まさにその瞬間の認識に根ざして粘り強く抵抗する姿勢なのである。彼女の作品は、映像がリアルなものであるという仮定に疑問を投げかけ、視聴覚に訴えかける物語の力を振り返り、その映像自体とその映像が参照しているものを疑う。(引用:国際芸術祭「あいち2025」公式HP

静かな室内に響く耳障りな羽音。時間を物体としてとらえる作者が、音だけの恐怖で感覚を揺さぶります。モニターの中には、牛乳が入れられた真っ白なお皿。まるで美と醜の共存を示しているかのようです。

茶室 勘桜亭

矢作川を眺めながら、季節の和菓子とお抹茶を楽しめる和室「勘桜亭」。歴史ある器でお茶を飲めるのも、民芸館ならではでしょう。入り口では佐々木類によるガラス作品が展示されていました。

≪植物の記憶/忘れじの庭‐初春の寒空の見晴らしの良い庭にて≫≪植物の記憶/忘れじの庭‐猛暑日の草が生い茂る影にて≫

佐々木類
1984年高知県生まれ。石川県拠点。
身近にある自然や生活環境にインスピレーションを得ながら、主に保存や記録が可能な素材であるガラスを用い、自分が存在する場所で知覚した「微かな懐かしさ」の有り様を探求している。北欧やアメリカを中心に滞在制作に招聘され、国内外の美術館で展示活動を行う。(引用:国際芸術祭「あいち2025」公式HP

退色していく人々の記憶をガラスに閉じ込めた佐々木の作品。まばゆい光を放つ植物が、過ぎ去りし日の記憶を静かに甦らせます。儚さの中に、時の流れがかたちを変える瞬間。命を宿したような輝きに、過去と未来が静かに溶けあいます。

木漏れ日とともに楽しむ、アートのひととき

やわらかな光や澄んだ空気の中に溶け込む現代アート。豊田市民芸館での「ポップ・アップ!」は、過去と未来、伝統と創造が交差するひとときでした。
ぜひ本開催「国際芸術祭「あいち2025」」でも、心に響くアートの世界を体感してみてください。

国際芸術祭「あいち2025」 開催概要

会期|2025年9月13日(土)〜11月30日(日)〈79日間〉
会場|愛知芸術文化センター、愛知県陶磁美術館、瀬戸市のまちなか ほか
参加アーティスト|世界22の国と地域から62組
テーマ|「灰と薔薇のあいまに」
人と自然、戦争と記憶、資源と権力構造など、現代社会が抱えるテーマに向き合う作品が並びます。
芸術監督|フール・アル・カシミ(シャルジャ美術財団 理事長)

公式Instagram:国際芸術祭「あいち2025」/Aichi Triennale 2025

公式HP:国際芸術祭「あいち2025」

巡回展示「ポップ・アップ!」開催概要

豊川市会場

開催日|2025年11月14日(金)〜11月24日(月・振替休日)
会場|豊川市桜ヶ丘ミュージアム
開館時間|9:00〜17:00(最終入場16:30)
※11月17日(月)休館

関連イベント|西條茜によるワークショップを開催。
また、出荷量全国1位を誇る“バラの街・豊川”にちなみ、
11月15日(土)・16日(日)には、SNS等で展覧会を紹介してくれた来場者に
名産のバラをプレゼント(各日先着75名)

11月23日(日)作品ガイドツアー(予約不要・所要時間30分程度)
①11:00~②14:00~ 集合場所:豊川市桜ヶ丘ミュージアム1Fロビー

詳しくは公式HP:国際芸術祭「あいち2025」をご覧ください。

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この記事を書いた人

Risa Suzuki

豊田市生まれ豊田市育ち、フリーライターのrisa suzukiです。 その人・お店だけが持つ魅力を引き出しながら、「会ってみたい!」「行ってみたい!」と思えるような記事をお届けします。 Mediallでは豊田市近郊のナンバーワン・オンリーワンスポットをご紹介。 地元民だからこそ知るステキな人・お店の情報を発信していきます。 イベント取材、インタビューなども柔軟に対応するので、お気軽にご相談ください。

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