Mediall(メディアール)

オンリーワン・ナンバーワンがそこにある 応援の循環を作る 地方創生メディア

アート  |    2024.10.08

記憶の地層を旅して 吉野祥太郎個展「Mythology −土地の記憶−」|下山芸術の森発電所美術館(富山)

写真提供:吉野祥太郎さん

土地の記憶をテーマとした作品を国内外で発表し続ける現代美術家・吉野祥太郎さんと、水力発電所を改装して作られた美術館が出会いました。

富山県の下山(にざやま)芸術の森発電所美術館で9月21日から始まった吉野さんの個展「Mythology −土地の記憶−」。制作の過程や作品に込められた想いについて、吉野さんにお話を伺いました。


◾️元発電所だった美術館を舞台に

個展会場は、富山県下新川郡入善町にある下山(にざやま)芸術の森発電所美術館。
大正時代の水力発電所を改装して作られた全国でも例のない美術館で、以前こちらの記事で前後編にわたってご紹介しました。

土地の記憶をテーマとするこの個展で、もともと水力発電所だった発電所美術館やこの土地の記憶から、どのような作品が生み出されたのでしょうか。

◾️「Mythology −土地の記憶−」の世界

Mythology Ⅰ(1階展示)

会場に足を踏み入れてまず目を奪われるのが、水面のように床一面を覆うミラーシートと、およそ10mの高さから吊り下げられたいくつものブランコ。

Mythology Ⅰ(1階展示)

会場には、美術館周辺で録音された川のせせらぎや地中の音に、ピアノやシンセサイザーの音を重ねたサウンドが流れていて、時間と共にゆるやかに照明が変化してゆきます。

揺らめく光で違う表情が楽しめる
幅もまちまちなブランコ。座ると足元がほのかに明るくなる

これらのブランコには、実際に大人も子どもも乗ることができます。
ブランコとともに薄布が揺れて、水面の上をたゆたうような浮遊感が味わえます。

Mythology Ⅱ(2階展示)

Mythology Ⅱ(2階展示)

会場の2階部分に展示されているのは、黒部川の流木と岩。向き合っていると、まるで時間の流れが止まってしまったように感じられます。

◾️吉野祥太郎さんが見つめる記憶の層

今回の個展について吉野祥太郎(よしのしょうたろう)さんに直接お話を伺うことができました。

吉野祥太郎さん

■プロフィール

アーティスト、1979年生まれ。東京造形大学美術研究領域 修士課程修了。「土地の記憶」を主題に、大地に宿る記憶と、そこに生活し訪れる人間の関わりを問う作品を制作している。主な展覧会に「創設神話 -aition-」(岩崎ミュージアム、2024)、「立てる記憶」(吉祥寺美術館、2023年)、「呼吸する境界線」(宇フォーラム、2020)。東京造形大学非常勤講師 (PRTimesより一部抜粋)

作品が生まれるまで

最初から「水の流れ」をテーマにすると決めていた吉野さん。
制作にあたって、発電所美術館の水路から黒部川を遡り、周辺に住む人々に話を聞くなどして「土地の記憶」に触れる取材をしたそうです。


吉野(敬称略)「黒部川にカヤックを浮かべて……なんて、静かな水の光景を想像していましたが、実際にはどこもかしこも静かなところなんてなく、ラフティング向きの川でした(笑)」

黒部川中流にかかる日本百名橋のひとつ、愛本橋付近では印象的な出会いがあったのだとか。

吉野「愛本橋の昔の位置を調べていたら、どこからともなく地元のおばあちゃんが現れて(94歳とのこと)、水害で流失した昔の橋の話を、生で聞くことができたんです。
昭和44年の水害で橋の上まで水が溢れて、集落が水没してしまったことなど詳しく話してくれました。
それで一気に想像がリアルになったんです」

そうしたエピソードや、実際に目の当たりにした黒部川の圧倒的な水量のイメージが今回の個展の糧となったと吉野さんは話します。

吉野「いろんな人の話聞いたり、写真やビデオの撮影もしますが、得たものがそのまま作品のストーリーになるのではなく、僕の栄養になるんです」

大人もブランコで記憶の旅を 「映え」もおすすめ

そうして生まれたのが、発電所美術館の巨大な空間をフルに活かしたこの展示でした。

吉野「全面にミラーシートを貼ったのは、この場を、常時水が流れていた頃の発電所の時間に戻したかったからブランコは、時間やその人の記憶……そういったものの次元を『ぐにゃっ』と超えるような装置として作ったんです

作品を通して、自分の記憶の中を旅してみてほしい。
アートとしてかしこまって鑑賞するのではなく、記憶というテーマを浮かべて見ていただくと、個人個人の『神話』が生まれてくるはずです」

大人も子どもも一緒に楽しんでもらいたいと話す吉野さん。
意外とも思える、こんな提案もありました。

吉野「若い方は『映え』を探してみてもいいんじゃないかな。
例えばここで非現実的な衣装を着て写真を撮ったら、それも面白いかもしれない」

水や土地の気配が漂う、幻想的な作品世界。
時間や空間をふわりと飛び越えるような、記憶の地層を巡る旅をぜひ体験してみてください。

吉野祥太郎 個展「Mythology −土地の記憶−」

会場:下山芸術の森発電所美術館
住所:富山県下新川郡入善町下山364-1
開館時間:午前9時~午後5時(入館は午後4時30分まで)
会期:2024年9月21日(土曜日)~2025年3月16日(日曜日)
観覧料:一般600円、高校・大学生300円、中学生以下無料
休館日情報など詳しくはこちら https://www.town.nyuzen.toyama.jp/gyosei/bijutsukan/6130.html

主催:公益財団法人入善町文化振興財団
キュレーション 田尾圭一郎
技術提供 柴辻健吾(彫刻家)
協力 Yu Harada、荻原玲美

特設サイト https://www.mythology-art.net

参考:PR TIMES https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000002.000130735.html

記事をシェアする

この記事を書いた人

いよはち

富山県出身・在住の取材ライターです。以前の職は、記者/秘書/司書の三段活用。富山の魅力を余すところなくお伝えします。 ペンネームは私の身長に由来します。恐らく富山で一番小さいライター。 その場にいなければわからないこと、知り得ないことをお伝えする記事を書きます!

関連記事