
近畿圏のフードイベント・マルシェで行列ができるベビーカステラのキッチンカー「大黒屋」。
赤井さん兄弟の地元・東大阪市を中心に出店していますが、屋号の枕には「天川村洞川(どろがわ)」の地名がつけられていました。
大黒屋と天川村の関係は?「ベビーカステラの概念を覆す」日本一の味はどのように生まれたのか?
今回、弟の健二さんにお話を伺いました。前後編でたっぷりとお届けします。
祖母の駄菓子屋を残したい――大黒屋誕生のきっかけ

「大黒屋っていうのは、おばあちゃんがやっていた駄菓子屋なんです」
天川村・洞川は、奈良県の南部に位置する温泉地として知られています。この洞川で、おばあさまが営んでいたのが『大黒屋』でした。地域の方たちに愛されてきた駄菓子屋で、東大阪出身の赤井さんたちにとっても、よく遊びに行く「おばあちゃんち」として思い出の詰まった場所だったといいます。
おばあさまが亡くなった後は従伯父にあたるご親戚がお店を引き継ぎましたが、その方も高齢になり、ついに店仕舞いすることに。母屋ごと建物を引き払ったため、大黒屋という場所そのものがなくなってしまったのです。
「すごく悲しかったですね。なんとかこの“大黒屋”っていうのを残したいなって思ったんです。その時たまたま頭に浮かんだワードが、『ベビーカステラ大黒屋』でした」
駄菓子といえば、子どもから大人まで親しまれるベビーカステラ。大黒屋の名前を託すにはぴったりでした。

「七福神の大黒さんって普通は米俵に乗ってるけど、ベビーカステラに乗ってるイメージがパッと出てきて、しっくりきた。これや! と思いました」
他の何かを検討するまでもなく、ベビーカステラ一択だったといいます。そして、店舗を構えず、どこへでも行けるキッチンカーという形でおばあさまの屋号を継承し、大黒屋を始める決意を固めます。
レシピ、ロゴ、3年間の試行錯誤
「さぁ、どうしようかなって話になりましたね」
実は赤井さん、ベビーカステラどころかお菓子作り自体もほとんど経験がなかったのです。まったくのゼロから、お兄さんと協力してのスタートでした。

ベビーカステラの作り方を調べてみたものの、検索すればするほど無数に出てくるレシピを前に途方に暮れ、まずは製菓に関する本を何冊も読んだそうです。試作するには焼き台が必要――というわけで、本格的な焼き台も購入。今は安価な電気式のものが増えている中で、赤井さんはガス式で銅板のものにこだわりました。
吉野の「MICA卵」との出会い

初めて焼いたベビーカステラについて、赤井さんは「正直、美味しくなかった」と振り返ります。あまりにも納得がいかず、かえって火が付いたのだそうです。毎週末、兄弟で相談しながら試作を重ね、ご近所の人にも試食してもらい、ひたすらトライアンドエラーを繰り返す日々。自宅ガレージでベビーカステラを焼き続けたある日、「卵を変えたほうがええんちゃうか?」という意見が飛び出しました。

「そっからまた、いろんな産地の卵を使って焼いて。シンプルなものなので、卵ひとつで味がまったく変わってくるんですよね。ありとあらゆる卵を試していく中で、やっと、野澤養鶏場さんの『MICA卵』に出会ったんです」

奈良県の吉野にある野澤養鶏場。ここでは、活性化鉱水をつくり出す「MICA加工」という技術を施した水で親鳥を飼育しています。高エネルギーの美味しい水で育った鶏が産む卵は、甘味や旨味が強くて濃厚なのだとか。
そんなMICA卵を使ったベビーカステラは、試食した人が口を揃えて「美味しい!」と大絶賛する出来でした。卵だけでなく、バターや小麦粉、甘味料も厳選し、「これは絶対にいけるで」と太鼓判を押されたことで、赤井さん自身もようやく納得のいく味にたどり着いたのです。

こだわりのロゴデザイン
赤井さんたちのこだわりは、ロゴデザインにも表れています。
「ベビーカステラに座っている大黒さん」という完成図は最初から頭にありましたが、それを形にするまでには相当な時間がかかったといいます。イメージをイラストレーターに伝え、服や小槌の色、眉毛の太さや口角の上がり具合といった細かなニュアンスまで、一切妥協することなくやりとりを重ねました。そうして何度も描き直してもらい、親しみやすく優しい表情の大黒さんが完成します。

大黒屋の名を残すと決めてから、費やした時間は約3年。
――心が折れそうにならなかったですか?
その質問に、赤井さんはこう答えます。
「何が何でもやってやろうと思ってました。『大黒屋のベビーカステラ』のイメージは出来てましたから。あとはもう、最高のものを作ろうと。日本一美味しいって言われるベビーカステラを、絶対に作ったろうと思ってたんです」
イベント初出店で大行列

ついにキッチンカーの大黒屋が始動。2024年初夏、イベント初出店となったのは「東大阪くいだおれ祭り」です。ラグビーの聖地・花園ラグビー場に隣接する花園中央公園で開催されたこのフードフェスは、飲食店舗の出店数が40ブースを超えるイベントでした。その中で大黒屋は、イベント開始早々に長蛇の列をつくるまさかの事態に。東大阪での知名度はほぼなかったにもかかわらず、快進撃を見せました。
ベビーカステラ50個を2分ほどで焼き上げますが、まったく追いつかなかったそうです。袋入りのベビーカステラはシェアしやすいこともあってか、「お裾分けしてもらって、美味しかったから買いに来た」という声が多数ありました。口コミがあっという間に広がり、3ブース先まで列が続き、1時間半並んだという強者まで出現。朝から夕方までベビーカステラを焼き続け、初めてのイベント出店は大盛況のうちに終わったのでした。
「あの行列は本当に、大黒さまが呼んでくれたんじゃないかなと思います」

3年の準備期間を経て始まった、ベビーカステラのキッチンカー・大黒屋。評判が徐々に広まり、今ではマルシェ・イベントだけに留まらず、野澤養鶏直売所や道の駅にも出店しているとのことです。
後編では、天川村での出店を通じて感じたことや、パワーアップを続ける大黒屋の「今」について紹介します。
大黒屋
出店情報はInstagramをご確認ください。
Instagram:@daikokuya83
野澤養鶏株式会社
住所 : 奈良県吉野郡吉野町千股1410
TEL : 0746-32-5233
営業日: 10:00~16:30/年中無休
HP : https://www.nozawa-egg.com/index.html




