実は、日本で最もクラフトビール醸造所を抱えている都道府県は東京都だということをご存じでしたか?そうとは言いつつも、23区のうちの3区は空白地帯で、葛飾区もその1つでした。ところが、葛飾区出身のオーナーが2022年に待望の醸造所・きちブルーイングの開業を果たします。気になるお店の特徴、ラインナップ、開業の経緯、今後の展開などについて、合同会社きちの代表社員を務める羽鳥亮介さんにインタビューしました。
秀逸な名前のおいしいクラフトビールを良心的な価格で
京成電鉄本線の堀切菖蒲園駅から徒歩約5分、堀切ラッキー通り商店街に、きちブルーイングはあります。
こちらは醸造所併設型のビアバー。醸造タンクを眺めながら飲むことができるという、クラフトビールファンにはたまらない環境です!
2024年12月中旬に訪問した際は、オリジナルビール7種、他の醸造所で造られたゲストビール2種類を提供。「客寄Se(I)PAnda」「シュレーディンガーの黒」など、ユニークな名前のクラフトビールが並びます。
「造りたいスタイル(セゾン、IPA、スタウトなど)ありきで造り始めています。ネーミングはビールを提供する前日か当日に焦って考えていますね」(羽鳥さん、以下同)
と意外な回答。
1つのスタイルの製造を貫く醸造所もありますが、さまざまなスタイルを楽しむことができるのも、こちらのお店の特徴。夏であれば飲みやすいものを提供したり、その季節にしか採れない葛飾区産の果物を購入して醸造に取り入れたりすることもあるそう。
ビールに欠かせないおつまみは、サラミとナッツのみ。その代わり、香りが強くないものに限り、100円(税込)のチャージ料で飲食の持ち込みも可能です。これには理由があるようです。
「醸造所の設備に費用をつぎ込んだため、キッチンを簡素化しています。また、持ち込みを可能にすることによって、周囲の飲食店との共存を図る意味もありますね」
オーストラリアでクラフトビールの魅力を知る
羽鳥さんとクラフトビールの出会いは20代後半。オーストラリアでワーキングホリデーをしていたときのことでした。その後、バックパッカーとして東南アジアを回り、多様な文化に触れたことで、特色のある事業を立ち上げたいという気持ちが生まれたといいます。
帰国後は、クラフトビール造りを学ぶために、修業先を探すことから始まりました。
「醸造所にメールで問い合わせをしても、返事がないことはざらでした。そこで、履歴書を持って、直接醸造所を訪問しました」
そして、静岡県伊豆市にあるにある醸造所、ベアード・ブルーイングを訪れた際、居合わせたアメリカ人経営者に直談判をし、修業をさせてもらえることに。
その醸造所での約2年の経験を経て、独立を視野に入れ、都内の醸造所併設型レストランで経営と店舗運営も学び始めました。
ただし、独立までにはまだまだ壁がありました。
「物件を見つけるのが大変でした。醸造タンクの大きさや重さを考慮すると、間口が広くないと搬入できず、1階の店舗でなければいけないなどの制約があったからです」
時には飲食店可能な物件でも、入居を断られることもあったそうです。
しかし、約1年を掛けて現在の物件と巡り合うことができました。借りた物件の内装は友人に手伝ってもらい、まずはゲストビールの提供のみで開業。その後、仲介業者を使わず、自身で英語を使いながら醸造タンクの購入の交渉をし、送られてきた醸造タンクは常連さんや醸造仲間の協力を経て組み立てと設置をしました。そして、いよいよ酒類の製造免許の取得を果たします。こうして、多くの人の協力を得ながら、念願のクラフトビールの醸造を開始しました。
地域密着型のクラフトビール醸造所として愛されています
開業して印象的だったのは、地域の方を中心に、幅広い年齢層の方が訪れてくれることだと言います。
「今までクラフトビールを飲んでいなかった人たちが当店で飲むようになり、常連さんになってくれています。ありがたいですね」
と、笑顔を見せてくれました。世代を問わず、お酒を楽しめるコミュニティスペースのような存在になっていることも想像できます。
また、店舗だけでなく、葛飾区が主催しているものを中心に、イベントでの提供も積極的に行っているとのこと。2024年10月に行われた葛飾区産業フェアでは、このイベントに向けた新しい製品を造り、来場者を喜ばせました。
関わる全ての人が楽しくなれるビールを目指して
気になる今後の展望についても聞いてみました。
「もう1店舗、店を構えることです。当店では卸売りをしておらず、今後も行わない予定です。それには、飲み手の購入価格が高くなってしまうからという理由があります。直販であれば、飲み手は安く飲めるし、僕は利益を上げやすくなり、継続的に造り続けることができるので」
最後に、何がクラフトビール造りのモチベーションになっているかを聞いたところ、
「自分が好きなものを好きなように造り、おいしいものができたら楽しいですよね。それを『おいしい』って言って飲んでもらえたら、もっと楽しくなれるんです」
という素敵な回答が。お客さんの「おいしい!」も、造る上でのモチベーションになっているんですね。造り手も飲み手も、みんなが楽しくなれるきちブルーイング、クラフトビールファンの皆さんはもちろん、まだ試したことのない人もぜひ一度訪れてみてください。
※お酒は二十歳になってから
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きちブルーイング(Instagram):@kichibrewing