令和2年7月豪雨(熊本豪雨)から5年。2025年7月11日に人吉城歴史館が再開しました。
水害から5年という節目での復旧とあって、いろいろなメディアでその再開が取り上げられています。
人吉城歴史館は、水害を経てどのように変わったのでしょうか。歴史館のこれまでとこれからについて人吉市文化課の岸田さんにお伺いしてきました。

人吉城歴史館はなにを展示しているの?
人吉城歴史館は、その名の通り人吉城の敷地内にある施設。
人吉城は700年続いた武家「相良氏」の居城であり、その敷地内にある施設のため、人吉城や相良家について学べる施設となっています。

相良氏に関しては、鎌倉から現代にあたっての歴史を廊下で絵巻風に展示していたり、どのような変遷をたどってきたのかといった年表なども展示されています。


また人吉城に関しては、大画面のシアターや石垣積み体験といったコーナーなどが用意されており、視覚的に、体験的にその魅力が伝わりやすいように展示されています。


ちなみに、岸田さんによると、この石垣は人吉城の1/2サイズの模型として作られているそう。はねだし(武者返し)の特徴があり、全国でも4カ所しかない人吉城を代表する特徴的な石垣です。
シアターに関しては、1回約13分のしっかりとした時間を使ってプロの俳優や人吉市民がエキストラとして参加して人吉城のことを紹介してくれるので、それほど歴史に強い関心がない方でも見ごたえがあります。
余談ですが、この映像は1月に撮影したもの。寒い時期でセリフを話すときに白い息が出てしまうため、水を飲みながら白い息が映像に映らないようにするなど、プロの工夫があるのだとか。映像からいつ撮影されのかなど背景に思いを巡らせるのも面白いかもしれませんね!
歴史館最大の目玉 地下室遺構
館内には、ほかにもPCでの映像展示、特別展示室などがありますが、この歴史館最大の目玉は謎に包まれた地下室遺構。

なんとここは約400年前の施設がそのまま残されており、その目の前まで入場できる空間なのです。不思議なのは、この空間がなんのために作られ、どんな用途に使われていたのかといった話が古文書などに一切記載されていないこと。
見学者には歴史館のスタッフの方がついて説明してくれるのですが、人によっては30分以上もこの不思議な空間について尋ねる方もいらっしゃるそうです。歴史館に来たら、ぜひこの地下室遺構に触れながら、そのミステリーについて思いを馳せてみてください。
水害当時の様子と復旧への活動
さて、そんな人吉城歴史館ですが、館内を巡ると一般的な資料館や博物館などと比べて”あるもの”が少ないことに気づきます。
実際、人吉城跡の発掘調査で出土した陶磁器といった一部”本物”の展示はあるものの、多くは先ほど紹介したような体験展示物です。


これは水害時に多くの”本物”が被災した経験があったから。
水害当時、人吉城歴史館は1.5mの床上浸水をしており、すべての展示物が水濡れし、刀や甲冑が倒れるなどの被害を受けたそう。岸田さんたちも水害2日後にしか入れなかったので、泥汚れやカビが発生していたのだとか。

市の職員だけでは対応できず、熊本県の文化課の方にレスキューに来ていただいて、被災したほぼすべてのものを安全な熊本市の方に持っていったあと、古文書をカビさせないように泥を洗い乾燥させていきました。
こうして応急処置をすすめたものの、本格的な修復は令和5年までかかったのだとか。
岸田さんは「代々伝わっている文化財を被災させてしまったことを忘れてはいけない」と仰っていました。
水害を経ての展示の変化
こうした経験があり、人吉城歴史館は「本物を展示する資料館」から「体験する資料館」へと変わりました。
かさ上げ工事などで対応する案もあったそうですが、万が一同様の自然災害が起きてしまったときのことを考え、歴史館の展示を変える形で生まれ変わったのです。
こうした展示の変化は来館する客層の変化にもつながっています。歴史好きな方が訪ねる資料館からいろいろな方が訪ねる歴史館へと変化したのです。


今ではファミリー層の方の来館が一番多く、土日は約90名、平日は約40名と水害前の同じ時期に比べて約2倍になっていると言います。さらに、来館者の滞在時間も長くなっているそうです。
岸田さんによると、展示品の変化によって歴史好きの方から批判を受けることも懸念していたそうですが、むしろ驚くほど好評の声が多いとのことです。
取材時点で再開から3週間も経っていませんでしたが、すでに3回は訪ねている地元の高校生もいるほど。
展示館の感想コーナーにも県内外のみならず、国外からも多くの評判の声が寄せられています。

人吉城歴史館のこれから
ただ、人吉城歴史館ではこれからも一切”本物”を展示しないというわけではありません。
こうした本物の展示は、6~9月以外の時期に特別展示室内で展示される予定です。ある意味で言えば、シーズンごとに違う展示が楽しめるのも今の人吉城歴史館の魅力だと言えるでしょう。
また、今後はウンスンカルタ体験会といったイベントや、水害前にもやっていた歴史講座なども開催していく予定とのこと。
岸田さんは人吉城歴史館の利用について「観光客の方には人吉城散策の起点として、地元の方には歴史学習の拠点として利用してほしい」と仰っていました。
人吉城歴史館
〒868-0051 熊本県人吉市麓町18−4
電話番号: 0966-22-2324
定休 火曜日
9:00~17:00(入館は16:30まで)
入場料:個人330円、団体220円(1人につき)※20人以上、高校生以下 無料