東京・神保町。駅から徒歩1分。古書店街として知られるこの街の一角に、子どもの本専門店「ブックハウスカフェ」があります。
店内は飲食可。昼間は軽食やカフェ、夜はバーに変わるユニークな空間は、場所柄、出版関係の人も多く訪れ、気付くとお客様同士が絵本を片手に談笑していることも多いとか。
今回、お話を伺ったのは店長の茅野さんです。
それでは、ブックハウスカフェ設立の経緯や絵本の魅力、今後の展望について詳しく伺っていきましょう。
2005年に子どもの本専門店が立ち上がり、その後2017年にカフェとバーをくっつけて「ブックハウスカフェ」となりました。
電子書籍時代でも、紙の絵本が求められる理由
電子書籍の普及が進む中、紙媒体の書籍、特に雑誌の売上は減少傾向にあります。しかし、出版業界のデータによると、絵本の売上は落ち込んでいません。ブックハウスカフェでも、売れ行きは好調とのことです。
茅野さんは「絵本はまだ紙で読む人が比較的多い傾向です」と話します。電車の中など外出先では、電子書籍の方が便利ですが、家でじっくりと絵本を読む際には、紙の本が良いと考える人が多いようです。特に、子供にとって絵本は、大人との触れ合いを通して、安心感を得られる特別な存在です。
ブックハウスカフェでは、子供が自由に絵本を手に取って読めるように、中央の書架を低めの棚にして、見通しを良くしています。飲食も可能なので、親子でくつろぎながら絵本を楽しむことができます。
多彩なイベントで、人と人、人と本との出会いを創出
ブックハウスカフェでは、設立当初からイベントに力を入れてきました。コロナ禍をきっかけに本格的な配信設備を整え、オンラインイベントも開始。全国各地の人々に参加の機会を提供しています。
2階の一室はイベント空間としては充分な広さ。書店だけでなく、カフェ&バー、レンタルギャラリーまであるというのは、神保町の中でも希少と言えるでしょう。
イベントの内容は多岐にわたり、本のプロモーションだけでなく、ワークショップや音楽イベントなども開催しています。企画はテーマにこだわらず、スタッフ同士の雑談から生まれることも多いそうです。出版関係者からの売り込みにも応じ、一日に複数のイベントが開催されることも珍しくありません。
「幅広い年齢層に向けたイベントを企画しています」と茅野さん。子供向けだけでなく、大人向けの絵本論や作家論に関するイベントなども開催し、様々な世代の人々が絵本に触れる機会を提供しているというわけです。
レンタルギャラリー「こまどり」:表現の場を地域に開放
ブックハウスカフェの奥には、レンタルギャラリー「こまどり」があります。絵画、写真展示はもちろん、立体作品やインスタレーションなど、多様な展示に利用可能で、表現の場を求める人々に広く開放されています。
ブックハウスカフェは駅から近く、アクセスが良いのも魅力です。茅野さんは「絵本作家さんはもちろん、これから作家を目指す方、美大生の展示にもおススメです。また、親子での作品展示など様々な用途で利用していただきたい」と話します。
親と子の読み聞かせの時間を守りたい
また、茅野さんは「書店を存続させることが大命題」だと語ります。書店を取り巻く環境は厳しさを増しており、20年前と比べて書店数は半分以下に減少しているからです。
「絵本は子供にとって最初の読書体験。安心できる大人の膝の上で、触れ合いながら絵本を読む時間は、子供にとってかけがえのないものです。その時間を守りたいという思いで、日々書店運営に取り組んでいます」
今や神保町の顔となったブックハウスカフェ
若い作家を育てたい思いで原画展を行ったり、遠方のため、イベントに来られない人にオンライン配信をする(サイン本は後日郵送)という工夫でこの店を守ってきたのです。
ブックハウスカフェは、単なる絵本専門店ではなく、人と人、人と絵本との出会いを創出する、かけがえのない場所なのです。
オフィス街のイメージがある神保町ですが、この町で働くパパさん、ママさんが会社帰りに我が子への絵本を選んでいるかもしれない。そんなことを想像したら、またこの店を訪れたくなった筆者でした。