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もの・こと  |    2025.09.22

狭山茶「的場園」が追い求めた理想の味【前編】|狭山茶の特徴と製法解説

「狭山茶」と聞いて、すぐに味や香りを思い浮かべられる人はどれくらいいるでしょうか。

埼玉県南西部で育まれたこのお茶は、国内でも有数の生産地でありながら、その名前を耳にする機会は意外と少ないかもしれません。

そんな狭山茶の世界に、いま新しい風を吹き込んでいる人がいます。

埼玉県入間市で茶園「的場園」を営む、四代目・的場龍太郎さん。

「もっと多くの人に、狭山茶の魅力を知ってほしい」

その思いを胸に、茶師として味や香りを追求しながら、“飲む”だけにとどまらない楽しみ方を提案し続けています。

革新的にも見える取り組みの裏には、自然と向き合い、地道に積み重ねてきたお茶づくりの時間があります。今回は、今年の製茶シーズンを振り返りながら、的場さんのお茶づくりへの思いを伺いました。前編では「狭山茶とは何か」「的場園のこだわりと独自製法」に迫ります。

狭山茶とは?味の特徴と他産地との違い

狭山茶は、埼玉県南西部の入間市・所沢市・狭山市を中心に生産されるお茶の総称です。

「色は静岡、香りは宇治よ、味は狭山でとどめさす」と謳われるように、濃い色と旨みのある味わいが特徴。仕上げの段階で強い加熱と十分な乾燥を行う「狭山火入れ」という独特の技術によって、甘く香り高いお茶が生まれます。

もうひとつの大きな特徴は、自園・自製・自販。栽培から製造、販売まで一貫して行うため、同じ品種でも茶園ごとに個性があり、味わいの違いを楽しめます。

今年の狭山茶づくり―理想の味に、たどり着いた年

今年の茶づくりを振り返り、的場さんはこう語ります。

「暑さや寒暖差、雨など気候変動の影響はありました。でも、うちの茶畑は元気に育ってくれて、過去一番おいしくできた年でした」

的場園が目指すのは、香りが強く、甘みがあり、雑味のない“クリアなお茶”。

誰が飲んでも「美味しい」と感じ、お茶に馴染みがない人にも驚きを届けられる味。

その理想に、15年かけてようやくたどり着いたといいます。

「理想の味」を追い求める過程は決して平坦ではありませんでした。天候に振り回される年もあれば、試作したお茶が思うような味に仕上がらなかったことも。それでも、畑に出て茶葉の様子を見ながら、少しずつ工夫を重ねてきたといいます。

狭山茶の品種「はるみどり」への転換と理由

的場園の製造の秘密は、なんといっても「品種と製法」。理想の味を追い求めるだけでなく、現実的につくるために品種選定と製法が重要と捉え、お茶づくりを極めていったそうです。

その味を実現するため、的場さんが四代目を継いだ際、大きな決断をしました。

日本茶で最も一般的な品種「やぶきた」から、渋みやえぐみが少なく、まろやかで甘みのある「はるみどり」への全面切り替えです。

品種転換は簡単ではありません。

100年育つともいわれるお茶の木を抜き、新しい苗を植え直す—。

「覚悟のいる選択でした」と的場さんは振り返ります。

狭山茶の味わいを高める独自製法「的場式」とは

もうひとつの柱が、三代目である義父・的場茂さんが考案した独自製法「的場式」です。

強い熱を加えることで渋みやえぐみを飛ばし、柔らかく甘いお茶に仕上げます。

その熱はなんと300度。通常は香りが飛び、茶葉が変色してしまう温度ですが、的場園では特許取得の機械「的芽機」によって、色と香りを保ったまま乾燥させることができます。

この技術こそ、的場園ならではの味の秘密です。

製茶工場に足を踏み入れると、熱気とともに甘く香ばしい香りがふわりと漂います。五感すべてを使って茶葉の変化を見極める、その姿勢が一杯のお茶に凝縮されています。

茶師の仕事は“水分と熱”の見極め

茶葉は摘み取った瞬間から発酵が進み、色や香りが変化します。日本茶ではまず「蒸し」で発酵を止め、その後、乾燥や揉み工程へと進みますが、このとき水分量の管理を誤ると品質が大きく損なわれます。

的場園では、摘み取った茶葉と向き合いながら、水分と熱のバランスを探り続けます。
お茶のもととなる荒茶ができあがるまで、約5時間。
「茶葉がどういう状態なら理想に近づけるか」を探る、集中の時間です。

前編のまとめ

狭山茶の魅力は、その土地ならではの味わいと、作り手の技術、そして覚悟にあります。

的場園の茶畑では、今年も深い香りと甘みをたたえたお茶ができあがりました。

「お茶は、飲む人の時間を豊かにするもの」と的場さんは言います。

その一杯に込められた思いを知ると、お茶を手に取る気持ちもきっと変わるはずです。

後編では、的場園が提案する“お茶の新しい楽しみ方”をご紹介します。
オリジナルスパイスティーや地元飲食店とのコラボなど、狭山茶の未来を切り開くアイデアをお届けします。

後編はこちら

香り高い狭山茶の新しい体験【後編】|的場園が届ける驚きと楽しさ

的場園

住 所:埼玉県入間市南峯68

電 話:04-2936-0615

オンラインショップ https://matobaen.base.shop/

※今回ご紹介した商品やその他の商品の詳細はオンラインショップからご確認ください。

※詳細は直接お問合せをお願いいたします。

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この記事を書いた人

ハネジユキエ

沖縄出身、埼玉在住のフリーライター。30代、二児の母。ものづくり、伝統芸能、暮らしを豊かにするモノ、地域を元気にするヒト、大人からこどもまで楽しめるコトを取材しています。

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