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もの・こと  |    2025.11.16

香り立つ旬を仕上げる─埼玉・入間市「池乃屋園」の狭山茶づくり【前編】

日本三大銘茶のひとつに数えられる「狭山茶」。

その主産地である埼玉県入間市には、伝統を受け継ぎながら高品質な狭山茶を作り続ける茶園が数多くあります。

今回訪ねた「池乃屋園(いけのやえん)」は、江戸時代後期から続く老舗として、茶畑の管理から製茶、販売まで一貫して行う茶園のひとつです。

伝統と革新を両立させながら、確かな技術を誇る「池乃屋園」の狭山茶づくりをご紹介します。

茶師・池谷英樹さんが守る「狭山茶」づくりの技

工場に入ると、蒸したての茶葉の香りが一気に広がります。青々とした香りの奥に、ほんのりと甘い香りが混じる瞬間。この香りが立ち始めると、池乃屋園の茶づくりはいよいよ本格的な工程に入ります。

池乃屋園を率いるのは、茶師・池谷英樹さん。
“繊細な香りや味を見極める鑑定技術”と、“原葉を良いお茶へと加工する技術”の両方で最優秀とされる「農林水産大臣賞」を受賞した職人です。

池谷さんが培ってきた技術は、茶畑の管理から製造、販売に至るまで全工程に活かされます。

その確かな経験が、池乃屋園の狭山茶を支え続けています。

狭山茶づくりの原点-茶園管理

狭山茶の特徴でもある「自園・自製・自販」の通り、狭山茶づくりは茶園の管理から始まります。

高品質な狭山茶をつくるには、通気性や透水性を向上させるための健全な土づくり、葉の生育に応じて計算された整枝作業など、年間を通した丁寧な管理が欠かせません。

入間市のなかでも特に生産量を誇る池乃屋園では、管理する茶畑の面積も広大です。

そのひとつ一つを池谷さんが日々管理し、茶畑と製茶工場を行き来しています。

この日は、30分ほどで専用の運搬用コンテナが満杯に。摘採したばかりの生葉は、まだ生きていて呼吸をするため熱を発します。発酵がはじまり変色を防ぐためにも、すぐに製茶工場へと運び出されます。

摘んできたばかりの茶葉は、計量を終えて、工場内の機械へと運ばれていきます。

一時間に処理できる葉の量は茶園によってそれぞれ。摘んできた葉が、お茶の形へと変わるころには約1/5の量になっているようです。

「蒸し」で決まる、味と香りの奥深さ

狭山茶の味を左右する最初の工程が「蒸し」です。

摘み取った生葉を蒸して酸化を止め、うま味や香りを閉じ込めます。

「蒸し一発」と言われるほど、茶師にとって重要な作業です。

池乃屋園では、一般的な深蒸し茶よりもさらに長く蒸す「強深蒸し」にこだわっています。

「誰が淹れても渋みが少なく、まろやかに感じるお茶を届けたい」という想いから、しっかりと蒸して柔らかく仕上げるそうです。

その日の気温や湿度、茶葉の水分量に合わせて、蒸し時間を秒単位で調整。

出口から出てくる葉の状態と手触りを確かめ、蒸し時間や機械の回転速度などを細かく変えていきます。

数値だけでは導き出せない茶師としての池谷さんの確かな感覚が、池乃屋園の味をつくっています。

茶葉を揉み、乾かし、形にしていく

蒸した茶葉は、粗揉機(そじゅうき)と呼ばれる大きな機械に送られ、風をあてながらゆっくりと揉まれていきます。
この工程で、茶葉の水分を飛ばしながらうま味を中に閉じ込めます。

いくつもの機械を通り、徐々に形が変化していくお茶の葉。 葉の手触りや重さを確かめながら、温度や風量を細かく調整していきます。

続く揉捻(じゅうねん)や精揉(せいじゅう)では、水分を均一にしながら茶葉の形を細く整えます。
針のように揃った茶葉は、私たちが日常で目にする日本茶の姿そのものです。

時間との勝負。わずかな判断が品質を左右する

摘みたての茶葉は、2週間以内に荒茶(あらちゃ:中間製品)に仕上げなければなりません。
気温や湿度の変化に対応するため、製造は夜通し続くこともあります。

「機械で作るといっても、茶葉の状態を手で感じて判断します。
この数秒の違いが、香りや味わいを決めるんです」と池谷さん。

生葉300kgからできる荒茶は、わずか60kgほど。
その限られた茶葉を最高の状態に仕上げるために、池谷さんは一つひとつの機械を丁寧に見守ります。
機械と職人の感覚が調和してこそ、品質の安定が生まれます。

季節ごとに変える「仕上げ」の工夫

狭山茶は、夏につくった荒茶をすぐに出荷せず、出荷の時期や季節に合わせて火入れ(ひいれ:仕上げの焙煎)を行います。


「秋は食欲が増す季節なので、焙煎を少し強めにして香ばしさを出しています」と池谷さん。
同じ荒茶でも、夏はすっきりとした味わいに、冬はまろやかな風味に仕上げるなど、
池乃屋園では、その季節に合う“旬のお茶”を届ける工夫を続けています。

「お茶は一年で育ちますが、“旬”は仕上げる時期にあると思っています」
池谷さんの言葉に、お茶づくりへの確かな信念を感じました。

池乃屋園が伝える、日本茶の奥深さ

入間市の池乃屋園でつくられる狭山茶には、茶師の感覚と経験、そして季節に寄り添う丁寧な手仕事が込められています。茶葉を見て、触って、香りを確かめながら最適な状態を見極める。

その積み重ねが、池乃屋園ならではの味をつくり出しています。

次回の後編では、茶師であり茶商でもある池谷英樹さんが語る、

日本茶業界のこれからと、狭山茶の未来への挑戦をお届けします。

後編はこちら

茶師と茶商の視点で挑む─狭山茶「池乃屋園」の未来【後編】

池乃屋園

住 所:埼玉県入間市西三ツ木59

電 話:04-2936-0639

営業時間:9:00~18:00

定休日:日曜日・祝日 ※4〜5月、12月は無休

公式HP:https://ikenoyaen.com/

Instagram:japanesetea_ikenoyaen

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この記事を書いた人

ハネジユキエ

沖縄出身、埼玉在住のフリーライター。30代、二児の母。ものづくり、伝統芸能、暮らしを豊かにするモノ、地域を元気にするヒト、大人からこどもまで楽しめるコトを取材しています。

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