自宅では勉強が続かない。勉強時間の濃度を高めたい。そんな社会人や受験生のために、「勉強に集中できる環境」を提供しているのが「おとな自習室」だ。2012年に大阪・梅田で始まり、これまでに多くの学びを支えてきた。利用者満足度は94%。その背景にあるのは、代表自身の体験に裏付けられた強い想いだった。かつて筆者が資格試験でこの自習室(自習室たかつき)を利用した体験も交えながら、運営する株式会社おおうら代表取締役・大浦正幸さんに話を伺った。
駅前に立地する意味
おとな自習室は、大阪・梅田の一室から始まった。現在は大阪、京都、兵庫、奈良、和歌山、愛知、神奈川、東京の8都府県に広がっている。

JR高槻駅から、自習室たかつきの入るビルを撮影。徒歩1分、屋根続きで雨の日も濡れずにたどり着ける。
共通する特徴は、駅から近いこと。全店が最寄り駅から数分の場所に位置する。これは、「勉強したい気持ちがあっても、距離があることで足が遠のいてしまう」という代表の大浦さん自身の体験に基づく設計である。
確かに、通勤帰りに雨が降っていれば、駅から距離があるほど、足は自然と自宅へ向かってしまう。逆に雨の影響を受けない立地であれば、勉強時間が天候に左右されることはない。駅のすぐ近くにあること。おとな自習室は、勉強したいという気持ちを、そっと応援してくれているように感じた。
扉の先に違う世界がある
自習室たかつきはビルの2階にある。扉はオートロックで会員以外は入れない。自分の会員番号を押して中に入ると、外とは空気が変わる。外にいる間は、電車の時刻や人の流れといった、自分以外の時間に合わせて動いている。その感覚が、扉の内側にはない。ここには、自分のための時間が用意されている。

自習室たかつきの入り口付近。近くに寄っても中の様子はほとんど分からない。すりガラスの向こうに、勉強のための空間が待っている。
入り口に設置してあるiPadで席を選んだ後、通路を進む。話し声はない。物音もほとんどしない。通路の両側には、ダークブラウンの落ち着いた色合いの机と、グレーのパーテーションが並んでいる。この配色にも集中力を高めるための意図があるのだという。

席と席のあいだの通路。ここで勉強している人それぞれの真剣な雰囲気を感じ取ることができる。
自分の番号の席まで進み、荷物を置いて、椅子に腰掛ける。すると、目に入るのは自分の机だけになる。視界から余計なものが消えると、時間が自分だけのために流れ始める。
そして、ふと気づく。家であれば、このようにはいかない。テレビの音が聞こえ、布団が目に入り、気づけば別のことをしているだろう。勉強のきっかけは自習室が与えてくれたのかもしれない。しかし、今ここで、ライトをつけ、勉強を始めようとしている自分がいる。

ここにあるのは、机、椅子、ライト、そしてコンセント。気が散るような装備や装飾はない。天板は広く、複数の資料を広げても十分な余裕がある。まさに、勉強するためにある机である。
心地よい緊張感 と 湧き出るやる気
筆者は資格試験の勉強のため、自習室たかつきにお世話になっていた時期がある。通うようになって最初に感じたのは、心地よい緊張感だった。
席に着けば周りは見えない。それでいて、後ろで誰かが勉強していることは分かる。飲み物を取りに行く人が、通路を通る気配もある。椅子に深くもたれて横を向けば、隣の人の姿も目に入る。机に向かっているかぎり見えないけれど、確かにいる。だから、気を抜いて動画を眺めるようなことが、なんとなく馴染まない。
背面には、扉もカーテンもない。通路を歩く人からは、それぞれの席で何をしているかが見える。大浦さんは、この空間を意図して設計していた。
「人の目があると、緊張感が出るんです。カーテンで後ろを閉めてしまうと、家でやっているのと一緒になってしまう」
見えるのは、気の緩みだけではない。一生懸命に机へ向かっている人の姿もまた、後ろ姿から伝わってくる。誰かが集中しているという事実が、静かに背中を押してくれる。
一人で机に向かっているはずなのに、一人ではない。この距離感が、やる気を引き出してくれる。
ちなみに、おとな自習室では女性の利用者が約5割を占める。オートロックのほか、監視カメラや警備会社との提携もあり、早朝から深夜まで開いている。安心して長く居られることも、この場所が選ばれる理由なのだろう。

「勉強の機会ロスをゼロに」という理念
おとな自習室は、どのような経緯でスタートしたのか。そのきっかけは、大浦さん自身が働きながら学ぶことに苦労をしたことに始まる。
「生きている間に、信号待ちしている時間ってどれくらいあるんだろう、と考えるくらい、時間が足りなかった」
「梅田の予備校に通っていたけど、仕事が終わってからだと予備校はすぐ閉まってしまう。図書館は近くにない。カフェ行っても座れない」
「家に帰ればスイッチが切れて、そのまま寝てしまう。だから外で勉強して、家に帰ったら寝るだけにしようと思った」
やがて有料の自習室にたどり着き、そこへ通うようになった。ただ、歩けば10分から15分かかる。自転車で通ったが、雨の日は足が向かない。台風が来る日もある。行かない理由は、いくらでも見つかった。
「自分の弱さにはなるんですけど」
大浦さんはそう言った。だからこそ、駅の近くで、自分が毎日通る道の途中になければ意味がない。その確信が、おとな自習室の出発点となった。

当たり前を、当たり前に
筆者が高い利用者満足度について尋ねると、大浦さんの第一声は意外な言葉であった。
「それも、結構悩むところではあるんですけど」
おとな自習室には、資格試験や受験に挑戦する人たちが集まっている。当然、全員が目標を達成できるわけではない。中には残念ながら届かず、自習室を去っていく人たちがいる。大浦さんは、満足度のことよりも先に、自身の中にある葛藤を教えてくれた。
「魔法みたいなものも、多分ないんです」
自習室は塾ではない。教えることはしないし、合格を約束することもできない。
だからこそ、できるところに手を尽くしたい。大浦さんが満足度の理由として挙げてくれたのは、「当たり前の状態をいかに当たり前につくるか」だった。派手な施策や差別化ではない。
「正解が分からない中で差別化をしても、お客さんを惑わせてしまう」
利用者が求めるものは、一人ひとり違う。何かを足すことが、必ずしも正解にはならないのであろう。仕事も勉強も受け入れるコワーキングスペースとは、一線を画す。足し算によって充実させるのではなく、勉強に集中できる場所を保ち続ける。そこには、自習室としての純度をひたすらに求める姿勢があった。
積み重ねた先にあるもの
なるほど、と思った。教えることはできなくても、勉強だけに向き合える空間を提供し続けることはできる。こうした想いで運営されているからこそ、純粋に学ぼうとする人たちが集まり、あの空気感が生まれているのだろう。
大浦さんは、こんな出来事も話してくれた。
毎日通っていた大学受験生が、親を連れて挨拶に来たことがあるという。
「僕、何も教えていないんです。塾じゃないので、何もしていないですよね」
それなのに感謝された。
「結構、衝撃だった」
大浦さんは、こんな言葉で振り返っていた。人の役に立てているのかもしれない、そう思わせてくれた出来事だったという。
大浦さんへのインタビューの後、久しぶりに自習室たかつきを訪れた。軽い気持ちで席に着いたのだが、あっという間に8時間が過ぎていた。
「一人ひとり、積み重ねていけたら。勉強と一緒かなと思います」
インタビューの最後、大浦さんが、そう語っていたことを思い出した。
自宅では勉強が続かない。勉強時間の濃度を高めたい。そう感じている人は是非、おとな自習室の扉を開けてみてはどうだろうか。
おとな自習室の詳細情報
おとな自習室の各店舗情報は以下のURLからご確認ください。
URL:https://otona-j.jp/
TEL:050-8884-0077(月〜金 9:00~19:00、土日祝 9:00~17:00)
問い合わせフォーム:https://otona-j.jp/contact/




