静岡県の静岡茶、京都府の宇治茶と並び、日本三大銘茶のひとつとして知られている埼玉県の「狭山茶」。狭山茶の主産地である埼玉県入間市には、市内だけでも100軒近くの茶園があると言われています。
その入間市で江戸時代後期から長きに渡り、狭山茶の栽培・製造・販売を一貫して行っている「池乃屋園(いけのやえん)」。
今回は、伝統的なお茶づくりを守りながら、お茶業界の未来に向けた革新的な取り組みで注目を集めている「池乃屋園」の池谷英樹さんにお話を伺いました。
独自の視点から開発された池乃屋園のオリジナル商品や、茶師として磨かれてきた技術とお茶づくりへの想いなど、前編・後編に分けてたっぷりとお伝えしていきます。
一葉入魂!いくつもの技術が集約されて茶葉からお茶へ
池乃屋園の茶園があるのは、入間市の金子地区。「茶どころ通り」と名が付くこの通りには、東西見渡す限りの広大な茶畑が広がっています。池乃屋園で商品化されているすべてのお茶の品種は、この土地で丁寧に管理され育てられています。
他の茶産地と異なり、狭山茶の最大の特徴は自園・自製・自販ということ。お茶の栽培から商品化される工程までを一貫して行うため、同じ品種のお茶でも茶園ごとに個性豊かな味わいを楽しめるのが狭山茶の魅力と言われています。
茶園から摘まれたすべての茶葉は、敷地内にある製造工場に運ばれます。工場内には、工程ごとに大型機械が多数並んでいて、手揉み茶の製造工程を機械で模した流れになっているとのことでした。
煎茶づくりは、蒸し工程から始まり、いくつもの揉機を経て、荒茶が作られます。この荒茶ができるまでに約4時間。そこから、葉や茎などの部位に分けるための振るいにかけて、仕上げの火入れ(焙煎)をしてはじめてお茶として届けられます。
機械で行うといっても、茶葉の状態、その日の気候や水分量、さまざまな要素を考慮しての微調整が常に欠かせないそうです。ただ機械の数値に頼るのではなく、手で触りながら今の状態を確かめる。何度も何度もそれを繰り返しながら、1つの商品ができるまで丁寧にお茶と向き合っていきます。
その細やかな感覚が分かるのは、“繊細な香りや味を見極める鑑定技術”と“原葉を良いお茶へと加工する技術”の両方で最優秀とされる「農林水産大臣賞」の受賞歴を持つ池谷さんの確かな技術があるからこそ。こうして培ってきた技術は、お茶づくりから販売に至るまでのすべての工程で活かされていると池谷さんは言います。
仕上げの火入れ作業(焙煎)を行う部屋には、お茶の香りが広がっていました。これから冬場となり、お茶はますます需要期を迎えていきます。そのため、夏場に加工した荒茶は、冬場に備えて一部を保管しているとのこと。仕上げの火入れ作業を秋ごろから始め、冬場に向けた商品化を行っていくそうです。
日常に、料理に、手土産に。池乃屋園が手がける次世代の狭山茶
日頃から、お茶と何かを掛け合わせることができないかと模索している池谷さん。ふとしたきっかけから得られるヒントは、常にメモすることを心掛けているそうです。こうして蓄えられたアイデアが形になり、池乃屋園の独自ブランドとして展開された商品をいくつかご紹介していきます。
日常シーンにぴったりの「とどめ茶Ⓡ」
「狭山茶」の味わいをもっと多くのかたへ届けたいという想いから生まれたのが「とどめ茶Ⓡ」。狭山茶では珍しくオリジナルブランドとして確立されている池乃屋園の看板商品です。茶摘歌にある「色は静岡、香りは宇治よ、味は狭山でとどめさす」という有名なフレーズが名前の由来だそうです。
朝・昼・夜という日常シーンに合わせて楽しむことができる3種類のブレンドティーと、狭山茶本来の味わいを楽しむ「煎茶、冠茶(かぶせ茶)、茎茶、粉茶、紅茶、焙茶(ほうじ茶)」の6種類とバラエティも豊富。新感覚でたのしめる池乃屋園のとどめ茶Ⓡ、ぜひご賞味ください。
品種の個性を存分にたのしめる「彩茶辞典」
同じ製法でつくられるお茶も、品種によって味わいはさまざま。その個性の違いを楽しんでもらえるように開発されたのが「彩茶辞典」シリーズ。品種は、定番の「やぶきた」をはじめ、「さやまかおり」「さやまあかり」「ふくみどり」「おくみどり」の5種類。これからさらに「ゆめわかば・おくはるか」も追加される予定とのこと。
辞書をモチーフにしたパッケージデザインには詳細が付いているので、品種ごとの知見を深めることができるアイデア商品です。
カカオフレーバーの香り豊かな「熟成 紅ほうじ茶」
こちらの「熟成 紅ほうじ茶」は、紅茶を製造する過程で出る「茎」のみを使用してつくられたこだわりの商品。葉っぱの部分では耐えられない高い炒り度を、「茎」の使用によって解決し、香ばしいカカオフレーバーの風味を引き出しています。紅茶特有の苦みのないすっきりとした味わいで、洋菓子との相性が抜群。「熟成 紅ほうじ茶」を使ったポップコーンなど、異業種とのコラボ商品も店頭でお買い求め可能です!
埼玉県内で初めて開発した高級ボトリングティー「SAI」
狭山茶として埼玉県内で初めて商品化されたボトリングティー「SAI」は、農林水産大臣賞を受賞した手摘み茶をブレンドし、特別な方法で抽出してつくられています。手摘み茶の文化を残しつつ、お茶の淹れ方による差をなくしたいという想いから開発されました。茶葉の持つ旨みが最大限に引き出された一品で、贈り物や特別な日のお料理に添えてたのしむことができます。
スパークリングティーTEAGE(ティアージュ)
お料理に合わせる「MARIAGE(マリアージュ)」と、素材の旨みを際立たせる長期熟成「AGED(エイジド)」をコンセプトに作られた商品、スパークリングティー「TEAGE(ティアージュ)」。テイストは、狭山茶玉露ベースにした緑茶バージョンと、埼玉県産いちごの品種「あまりん」のドライを加えた和紅茶バージョンの2種類。ノンアルコールの新しいお茶として、飲食店などを中心に注目が集まっています。
極上ジェラート&手土産に嬉しいCHABACCO
池乃屋園に訪れた際に、ぜひ食べてほしいのが「ほうじ茶」「抹茶」の2種類の味がたのしめる「お茶屋さんのジェラート」シリーズ。お茶の香りとジェラートの甘さ、クリーミーさがマッチした極上の一品です。
そして茶産地でよく目にする「CHABACCO」シリーズの入間市デザインバージョン。一見するとタバコに見間違えるパッケージも、手に取ってみると中にはしっかりと小袋の狭山茶が入っています。もともと、狭山茶の主産地である入間市バージョンは無かったようですが、池谷さんの行動力が実を結び誕生したとのこと。入間市の地名や入間出身のデザイナーによる特別パッケージなど、ラインナップ豊富で手土産にも喜ばれています。
長く親しまれるお茶も大切に。狭山茶をもっと届けたい
ここまでご紹介した商品以外にも、お店やオンラインショップには数多くの商品が並んでいます。入間市内で現在もなお唯一つくっている「玉露」もそのひとつ。
「コンセプトがしっかりしている開発商品ももちろん大事だけど、昔からある定番の商品も大事。両軸を大切にしている」と池谷さん。
もともと狭山茶は、地産地消として生産量が少なかったため、市場にそこまで出回っていなかったそう。そのため、県外どころか、まだまだ埼玉県内でも狭山茶を広げていくチャンスはあると話します。
狭山茶をもっと知ってもらって、普段お茶を飲まない方にも狭山茶をきっかけに飲むようになってもらいたい。伝統を守りながら、時代のニーズから生まれた数々のアイデア商品とともに、狭山茶を盛り上げていく池乃屋園の取り組みから、今後も目が離せません。
今年の冬はぜひ、池乃屋園の狭山茶で温かく過ごしてみてください。
池乃屋園
住 所:埼玉県入間市西三ツ木59
電 話:04-2936-0639
営業時間:9:00~18:00
定休日:日曜日・祝日 ※4〜6月、12月は無休
Instagram:japanesetea_ikenoyaen
※ご紹介した商品の詳細は、公式HP内のオンラインショップをご確認ください。