埼玉県入間市で江戸時代後期から長きに渡り狭山茶の栽培・製造・販売を行っている「池乃屋園」。今回は「池乃屋園」池谷英樹さんのお話を、前編と後編に分けてお伝えしています。
前編では、伝統的なお茶づくりを守りながら、時代のニーズに合わせて開発された池乃屋園のオリジナルブランド商品をご紹介いたしました。
後編では、農林水産大臣賞の受賞歴のある茶師として、狭山茶を広げるために幅広く活躍されている池谷さんの取り組みについてお伝えしていきます。
お茶業界へ進むきっかけは意外なところから
幼いころから家業のお茶に触れ、現在も現役で働くご両親とともに池乃屋園を支えている池谷さん。ところが意外にも、大学生のころまでは家業を継ぐつもりはなかったと話します。
大学4年間はコーヒー屋さんでバイトをし、コーヒー豆の産地やつくり手による味の違いを熱心に学んでいたそうです。そうしているときに、“お茶にも通じるものがある”とふと気づき、お茶業界へ目を向けるようになっていったと言います。
実際にお茶を飲んでみると、産地や生産者ごとの違いにおもしろさを感じたそう。家業を継ぐことを決めてからは、全国のあらゆるお茶を飲んでは知識を深め、お茶づくりの技術習得に向けて勉強の日々を過ごしたそうです。
池乃屋園を背負う茶師としての道のり
お茶業界には、全国の生産者がお茶の出来栄えを競う品評会と、お茶の香りや産地などを見極め茶師としての技術を競う審査競技会があります。ここでの優勝は「農林水産大臣賞」を受賞することを指します。
お茶の道へ進みはじめたころから、品評会や審査競技会に関しても熱量高めで取り組んできたという池谷さん。専門学校やどこかのお茶屋へ修行に行くわけでもなく、先代から続いてきた池乃屋園の環境のなかで、独自に技術を磨いていこうと決めていたそうです。
それだけでなく、茶師としての経験値を高めていくためにも、日本茶インストラクターの取得や、手揉み茶の技術を早々に身に着けるべく、日々熱心に取り組んでいきました。
狭山茶のみならず他県の茶産地のお茶の試飲を重ねていき、一年間で飲んだお茶の数は2~3千種類にも及ぶそうです。こうした並々ならぬ努力が実を結び、池谷さんは品評会・審査競技会ともに「農林水産大臣賞」を受賞。培ってきた技術を活かし、今日に至るまで最高品質な狭山茶の製造・販売に日々向き合っています。
狭山茶の美味しさだけでなく、楽しさと奥深さも伝えたい
狭山茶の栽培から販売に至るまでのすべてに携わっている池谷さん。そのほかにも、狭山茶をもっと多くの方へ届けるための活動も積極的に行っています。
今年の夏に行われた「美味しい冷茶の淹れ方&ティーペアリング」の狭山茶ワークショップでは、狭山茶や日本茶に関する基礎知識と、実践形式でのお茶の淹れ方や試飲会を開催。
写真提供:くるくるはんのう(photo by @sauyaru)
お茶の品種や、繊細な味の違いを言語化して解説してくれるので、知的好奇心を刺激された参加者たちは大満足。新しい視点から狭山茶の学びと気づきが得られたと、大好評でした。
東京・神楽坂にある日本茶使ったデザートコース専門店「VERT(ヴェール)」では、月に1度デザートコースに合わせたお茶を提供するイベントを開催しています。
お料理とお茶のペアリングのコツは共通点を探すこと。ただ、繊細な味の違いを見極めながら共通点を探すのは、なかなか至難の業。お料理との相性、淹れ方ひとつで変化するお茶のおもしろさを味わえる「VERT」ならではのイベント。気になる方はぜひチェックしてみてください。
東京駅では、農協牛乳とのコラボイベント「MILK&TEA FAIR」が開催されていました。各地から5つのお茶屋が集まり、茶種別に牛乳と合うお茶を淹れるイベント。池乃屋園は「紅茶部門」を担当し、淹れていたのは香り高いカカオフレーバーが特徴の「熟成 紅ほうじ茶」。あとから牛乳を加えることで、変化するまろやかな紅茶の味わいを提供していました。
狭山茶の産地としてのこれから
狭山茶の主産地として、100軒近くのお茶屋さんが並んでいる入間市。「茶どころ通り」と呼ばれる見渡す限り広がっているお茶畑の景色は素晴らしく、ぜひ一度訪れてほしい場所です。
その入間市を拠点に、お茶業界内外で多岐にわたり活動をされている池谷さん。他府県の茶産地の方との交流も多く、業界全体での横のつながりも大切にされています。
「どのお店にも素晴らしい看板商品がある。でも、もっと不特定多数の方に狭山茶や日本茶のことを届けようとするならば、お茶業界全体が盛り上がっていくための連携が必要」と言います。
イベント等への出店や異業種との連携も多く、これまでに生まれた数々のコラボ商品はどれも話題を呼んでいます。活動を通じて、お茶の輪を広げていく。こうした日々の積み重ねが実り、業界では一目置かれる存在に。狭山茶の中心人物のひとりとして、今後の活躍に期待が集まっています。
また、池谷さんご自身が思い描く未来のフェーズについては、こう話してくれました。
「20代、30代は身にならなくてもとにかく挑戦し続けた。40代になった今は、これまでやってきたことを洗練させて大きくしていく。50代はそれが継続的になっている状態。地域や産地への貢献も考えていきたい。60代になると子供たちが成人している。自分の背中を見て育った先に何か感じるものがあるなら、将来の選択肢として残してあげられるくらいの状況と存在にはなっていたい。そこが目標」
いくつもの世代を超えて続いている池乃屋園。伝統的なお茶の文化を守りながら、お茶で繋がる縁を大切に、今日までつながっています。一枚一枚気持ちを込めて大切につくられた池乃屋園のお茶を、ぜひ一度味わってみてください。
池乃屋園
住 所:埼玉県入間市西三ツ木59
電 話:04-2936-0639
営業時間:9:00~18:00
定休日:日曜日・祝日 ※4〜6月、12月は無休
Instagram:japanesetea_ikenoyaen
※ご紹介した商品の詳細は、公式HP内のオンラインショップをご確認ください。