前編では、松山で開催された「笑顔撮影会」の現場の様子をお伝えしました。
後編では、笑顔になる場をつくり出している笑顔写真家・井上亜希子さんご本人に、これまでの歩みと、写真に込める想いについて詳しくお話を聞きました。
井上さんの言葉から見えてきたのは、「写真家」という枠を超えた、人生そのものと向き合う姿勢でした。
人生の折り返し地点で選んだ「カメラの道」

井上さんが写真家として本格的に活動を始めたのは、50歳のときでした。
「50歳になって、人生の折り返し地点だなと感じたんです。そのときに、ずっと続けていたフラダンスをやめました。大好きだったけれど、これからの人生をどう生きるか考えたときに、“このままでいいのかな”と立ち止まったんです」
フラダンスを手放したことで、ぽっかりと空いた時間。その中であらためて向き合ったのが、20年以上続けてきた「カメラ」でした。
「カメラを持っているときが、一番“私らしい”と感じたんです。コロナ禍で、好きなカメラマンさんの講座を受けて、専門的なことも学びました。そのときに、“あ、私、カメラマンになろう”って思ったんです」
人生の後半戦に入るタイミングで、自分の「好き」と「自分らしさ」を選び取る決断から、井上さんの新しい人生が動き始めました。
なぜ「笑顔写真家」なのか

井上さんが名乗る肩書きは「笑顔写真家」。その理由は、これまでの20年以上の写真経験の中にありました。
「自分の子どもはもちろんですが、それ以上に、周りの人の笑顔をたくさん撮ってきたんです。撮った写真を見て、“こんな顔で笑ってたんだ”“撮ってくれてありがとう”って言ってもらえるのが、すごく嬉しくて」
写真を通して、人が自分の知らなかった表情に出会う瞬間の喜びが、井上さんの原動力になっていきました。
「笑顔を引き出すプロになりたいと思って、笑顔トレーナー協会にも所属して、1年間活動しました。そこから、“笑顔写真家”としてやっていこうと決めたんです」
井上さんの写真は、単に「きれいな写真」を撮ることが目的ではありません。その人自身が、自分の存在を肯定できる一枚を残すことに、活動の本質があります。
写真を通して伝えたいのは「自己肯定」

井上さんが写真を通して一番伝えたいことは、「もっと自分に目を向けてほしい」という想いです。
「写真を通して、自分の存在価値を知ってほしいんです。生きた証を残してほしい。写真を見ることで、“私って、こんな表情できるんだ”“私って、悪くないじゃん”って思ってほしい」
笑顔の写真は、その入り口にすぎません。本当に届けたいのは、自己肯定感であり、自分自身を受け入れる感覚です。
「いい写真を見ることで、自分を客観視できる。内面ともつながっているんですよね。写真は、外見だけじゃなくて、その人の生き方そのものが写るものだと思っています」
大切にしているのは「心がほどけた瞬間」

撮影のとき、井上さんがもっとも大切にしているのは、「心がほどけた瞬間」だといいます。
「緊張しているけれど、ふっと緊張が取れた瞬間があるんです。その瞬間に、“今きた!”ってわかる。そこが、その人らしさが一番出るところなんです」
自分でも気づいていない「本当の笑顔」を見つけることが、井上さんにとっての喜びであり、使命でもあります。
「自分のほんとの笑顔を知らない人が多いんです。だから、その瞬間を見つけて、写真に残したい」
シニア世代と写真|「写真なんていい」と言われる現実

活動の中で、井上さんが特に向き合っているのが、シニア世代との撮影です。
「高齢者の方の中には、“写真なんていい”って言われる方も多いんです。写真を撮ると、もう終わりみたいに思っている方もいて」
しかし井上さんは、そこにこそ写真の力があると感じています。
「私は、全人類が“自分史上最高の写真”を持っていてほしいと思っています。写真は、生きてきた証。人生の肯定なんです。写真は、年齢じゃない。人生の姿勢なんだなと感じます」
技術よりも、「幸せな時間」と「大切な一枚」

井上さんは、写真の技術以上に大切にしていることがあります。
「私が大事にしているのは、“幸せな時間”と“大切な一枚”です。クオリティが高い写真よりも、その時間が幸せだったかどうか」
写真を見ることで、その人の人生の物語が見えてくる。そして、その写真を見た本人が、また笑顔になる。
「その人のストーリーが写っている写真。それを見て、“いい人生だったな”って思ってもらえる一枚を届けたい」
それが、井上さんの写真の本質です。
松山から、笑顔を広げたい
井上さんは、松山という地域で活動する意味について、こう語ります。
「松山で、笑顔を広げていきたい。愛媛の人はみんな笑顔だねって言われる県になったらいいなって思っています」
笑顔は、個人の問題でありながら、社会全体にも影響を与えるもの。
一人ひとりの笑顔の意識が、社会をよくしていく循環になると、井上さんは考えています。
「笑顔でいたら、なんとかなる。私は本気でそう思っています」
講演会と写真展へ|挑戦は、次のステージへ

現在、井上さんは、道後温泉で開催される講演会と写真展の準備にも力を注いでいます。
きっかけは、医師・中島侑子さんから声をかけられたことでした。
「最初は、正直めちゃくちゃ怖かったです。でも、応援してくれる人たちが現れて、“一緒にやろう”って言ってくれた。そのときに、愛媛を盛り上げたいって本気で思いました」
写真展では、愛媛の100人の笑顔を集める予定です。(※2月9日時点で、こちらの講演会は満席となりました)
「会場を、笑顔でいっぱいにしたい。それが見てみたいと思ったんです」
これから挑戦したいこと|“自分写真”を当たり前に
井上さんが今後、特に力を入れていきたいのが、「自分の写真」を撮る文化を広げることです。
「自分の写真を、ちゃんと撮るのが当たり前の社会にしたい。遺影写真もそう。自分と向き合うことだと思うんです」
自撮りではなく、誰かに撮ってもらう「自分写真」は、自分の存在を受け入れる行為でもあります。
「もっと自分を出してほしい。みんな、本当はすごく素敵なんです」
地方で表現活動をする人へ|「発信と行動」

最後に、井上さんは地方で表現活動をしたい人へのメッセージを語ってくれました。
「発信と行動。これに尽きます。SNSはギャラリーです。自分の作品集になる。地方でも、世界に向けて発信できる時代です」
そして、こう締めくくります。
「行動は、人生を変えます。私自身がそうでした。だから、挑戦してほしい。笑顔でいたら、きっと何とかなる」




