地域創生メディア  Mediall(メディアール)

オンリーワン・ナンバーワンがそこにある 応援の循環を作る 地域創生メディア

アート  |    2026.02.16

手仕事のものづくりから笑顔が広がる。障がいの枠組みを超え、人のつながりを生み出す「アトリエ福花」

東京・笹塚にあるB型就労支援施設「アトリエ福花」は、ものづくりの工房です。障がいのある人たちが働き、ものづくりを通じて社会と関わっています。

ここで生み出されるのは、使い終わった小麦粉の袋を素材に作られたカラフルなトートバッグや、不ぞろいな縫い目に味わいがあるエプロンたち。日々、生み出されるアイテムは、たくさんの驚きと楽しさが詰まっています。

ものづくりは協働作業です。一人ではなく複数の人が得意分野を活かして助け合いながら、一つずつ丁寧に作られています。そして、この取り組みは障がいの枠を超えて人と人のつながりを生み出し、アトリエの外に活動の輪を広げています。アトリエ福花はどう始まり、何を大切に運営されているのでしょうか。代表の石塚浩子さんに伺いました。

ここで働く人はみんな「フッカー」。障がいの有無に関係なく、仲間として働く場所

2016年に開所したアトリエ福花は、B型の就労支援施設です。就労支援施設にはA・B型があり、それぞれ働き方が異なります。A型は、施設と雇用契約を結び、給料をもらいながら働く形態。一方、B型は契約を結ばずに作業に応じた分の工賃を受け取る仕組みとなっています。つまりアトリエ福花は、障がいのある人が自分のペースで働くことができる福祉事業所なのです。

ここでは、障がいのあるメンバーが描いたイラストを使ったバッグ、ひとつひとつ手作業で縫製したぬいぐるみ、アクセサリーなどを制作しています。

施設の1階にあるのはA型就労支援施設・焼き菓子のお店「渋谷まる福」。入り口の隣にアトリエ福花の物販スペースがあります。その左手の階段を上がると、壁面には額装された鮮やかなイラストレーション作品が並びます。その先の2階が、ものづくりの工房であるアトリエ福花です。

アトリエ福花の物販スペース
2階のアトリエ福花へ続く階段
2階アトリエ福花入り口

アトリエ福花では、障がいのある人とアトリエで働く職員みんなを「フッカー」と呼んでいます。これはアトリエ福花の「フッカ」から取った呼称です。この共通の呼び名のおかげで、障がいの有無に関係なく、みんなが仲間であるという意識が生まれています。

施設名である「福花」は、「福祉で花を咲かせる」という想いから名付けられました。ものづくりやアートの力で、障がいの有無に関わらずお互いを認め合い、共に生きる社会をつくりたいという願いが込められています。

デザイナーから転身、石塚浩子さんがアトリエ福花の代表になるまで

フッカーたちに「イシヅカボス」の愛称で親しまれているのは、代表の石塚浩子さんです。彼女がアトリエ福花を立ち上げるまでには、いくつもの転機がありました。

石塚さんは、東京都出身。渋谷区にある桑沢デザイン研究所でデザインを学び、広告代理店でグラフィックデザイナーとしてのキャリアをスタート。主に広告関係のグラフィックデザインを担当し、忙しい毎日を過ごしていました。そんな中、ある疑問が浮かぶようになったといいます。

「広告のグラフィックは華やかで素晴らしいけれど、作ってもすぐに捨てられてしまうという現実があります。短期間で目まぐるしく消費されるデザインに違和感を感じ、このままでいいのか自問するようになりました」

ダンボールに描かれたフッカーの作品

その疑問から、30代となった石塚さんはデザイナーから身を引く決断をします。退職後は、インドへ自分探しの旅に出かけることに。その後、日本に帰国してから、奈良、和歌山、神奈川と拠点を移しながら活動を続けました。この時期は、グラフィックデザインではなく、布や衣服の染色に打ち込みました。

そんな中、家族との死別という出来事に直面します。それを機に、石塚さんは再び東京へ。すると、これまでの高揚感が一気に消えて、まるで燃え尽きたように無気力になってしまったといいます。

「今までのやる気がなくなり精神的にかなり落ち込んでしまいました。なんとかしたいと心理セラピーの勉強を始めました。

そんな辛い時期に出会ったのが、障がいのある方々でした。不思議なことに、彼らと一緒にいると自然と笑顔になっている自分に気がつき、驚きました。その後、自宅のポストに知的障がいのある方が働く、パンとお菓子のお店の求人募集チラシが入っていて。これだと思って、そこから福祉の仕事を始めました」

そして仕事を始めて約1年が経ったある日、転機が訪れます。友人から「福祉施設(現在のアトリエ福花)の立ち上げメンバーを探している」という話が舞い込んできたのです。デザインや手仕事に精通して、すでに福祉の仕事に従事していた石塚さんは、まさに適任でした。こうして石塚さんはアトリエ福花の代表を務めることになります。

不要なものを価値あるものに。商品コンセプトは「アップサイクル」

アトリエ福花のものづくりは、「捨てられるものから生み出される」という特徴があります。2016年開所以来、アップサイクル(廃棄物や不用品に手を加えて、より価値の高いものに生まれ変わらせること)を活動の柱にしたものづくりをしています。「作ってもすぐに捨てられる」という広告の仕事で疑問を持った石塚さんだからこそ、生み出されたコンセプトだといえます。

廃棄される小麦粉袋を再利用した「コムギコシリーズ」

定番商品「コムギコシリーズ」は、小麦粉袋をアップサイクルした商品。同施設1階、焼き菓子のお店「渋谷まる福」で日々廃棄される使用済みの袋を利用しています。

ラインナップはトートバッグ、ワインバッグ、カードケース、お札入れ、ノート、ピアスなど。もとが小麦粉袋だったとは思えないほど、素材を見事に生まれ変わらせています。

コムギコサコッシュ ¥1,650(税込)
コムギコワインバッグ ¥2,200(税込)
コムギコカードケース ¥2,530(税込)

制作は「助け合いの精神」で行っています。イラストは同じ図形をくり返し描くことが得意なフッカーが担当。製品へと仕上げる工程は、手作業でバッグのサイズに形を整え、縫製が得意な別のフッカーが担当します。

同じ図形を描き続ける様子
小麦粉袋をキャンバスにしてカラフルな絵柄が描き上げられる

フッカーたちがそれぞれの得意分野を活かすことで、アトリエ福花のものづくりは成り立っています。描かれるイラストのデザインは、色彩が豊かで、見ているだけで楽しくなります。

色とりどりの布の端切れを組み合わせた「布コラージュ」

色とりどりの生地を余すことなく存分に使った「布コラージュ」は、アトリエ福花を代表する、もうひとつの定番商品。素材として使用しているのは、本来なら廃棄される布です。これらの布を自由に配置してミシンで縫い付けることで、パッチワークのようなオリジナルアイテムが誕生しました。展開は、サコッシュ、ポーチ、ブックカバー、コースターなど、ユニークなラインナップが揃います。

コラージュバッグ<ラッキーバッグ> ¥1,540 (税込)
コラージュポーチ<マチあり>  ¥1,760 (税込)
布コラージュブックカバー  ¥1,320 (税込)
コラージュコースター 4枚組  ¥990 (税込)

布コラージュが生まれた背景には、アトリエ福花のものづくりのコンセプト「ヌウ・ツクル・ツナグ」があります。縫う仕事は施設の表現を広げるために欠かせないものでした。

ただ、開所当時はミシンを使うのが初めてのフッカーばかり。いざ作ってみると、どうしても縫い目は曲がってしまいます。しかし、完璧ではないその曲がった縫い目こそが「味」だと受け入れることにしました。すると、フッカーたちは身構えることなく、安心してミシンを動かせるようになったのです。

こうして、不規則で味わいのある布コラージュが誕生しました。ハンドメイドの温もりが感じられる一点物として、多くの人に愛されています。

苦手なことを無理にやらず、得意なことで助け合う。それぞれの強みを活かす働き方

アトリエ福花で働く人たちは、精神障がいや知的障がいなど、異なる特性を持っています。そのため、作業内容はイラストを描く・ミシンで縫製する・刺繍をするなど、その人に合う作業を振り分けています。

石塚さんは、この施設で仕事をすることは、障がいを持つフッカーたちにとって社会に順応するための「練習の場」と捉えています。

「他のフッカーと交流することは、彼ら彼女らにとって良い練習になると感じています。他人と関わると、自分のペースを乱されて思い通りにいかないことは多いものです。実際、感情を表に出して大きな声を出す人もいれば、それに影響されて集中できずイライラしてしまう人もいます。

施設は複数の人が共同で作業するので、嫌だと感じることがあるのは当たり前です。だからこそ、どうやったら解決できるか、職員と一緒に考える対話の時間を作っています。ここで譲り合いながら共同作業をする経験を通して、日常生活でも他人と上手く関われる力を養ってほしいと思っています」

ミシンを自由自在に操り、ものづくりに集中する様子

また、他のフッカーとの共同作業は、自信にもつながっています。就労支援施設で働く多くの障がい者は、私生活では家族や職員から一方的に援助される立場にあります。しかし、アトリエ福花では状況が変わります。障がいの有無に関係なく、自分の得意なことを活かしながら、共に協力してものづくりを行っているのです。

例えば、イラストが得意な人がデザインのアイデアを提案したり、細かい作業が得意な人が刺繍をしたり。一人ひとりが持つ強みや個性は異なり、それぞれの長所を存分に発揮することができるのです。つまりここでは、苦手なことは無理にやる必要はありません。お互いの得意なことを目の当たりにすることで、相手への敬意が生まれ、学び合う関係が育まれています。

アトリエ福花では、日々のものづくりの中で「助け合い、学び合う」という関係性が築かれているのです。

アルバイトの学生さんとフッカーがお互いに意見を出しながら進める様子

渋谷区を巻き込む2大プロジェクト!「シブヤフォント」と「インクルーシブファッションショー」で協働

アトリエ福花の活動は、施設の外にも広がっています。社会との新たな関わり方を生み出しているのが「シブヤフォント」というプロジェクトです。参加しているのは、アトリエ福花を含む就労支援施設、デザイン学校、企業など。渋谷区の地域を巻き込んだ大きな取り組みとなっています。

「シブヤフォント」は、障がいのあるアーティストたちが描いたユニークな書体や絵柄を元に、利用可能なデータに変換したもの。渋谷区にあるデザイン学校、桑沢デザイン研究所の学生たちがデザイナーとして参加し、フォントやパターンをデータとして仕上げています。完成したデータはオンライン上で購入が可能で、誰でも利用することができます。

この取り組みの目的は、障がいのある人の社会参加と経済的自立を支援すること。フォントやパターンの売上から手数料を引いた金額が、制作したアーティストが所属する事業所に支払われ、工賃として還元される仕組みになっています。

石塚さんのデスク横に飾られている、ショーのポスター「ショウガイはへんしんできる」

もう一つ、大きな反響を呼んだ取り組みがあります。「ショウガイはへんしんできる」をテーマに行われたインクルーシブファッションショーです。インクルーシブとは、「すべての人を含む」という意味。2024年5月5日に東急プラザ原宿ハラカド内にオープンしたシブヤフォントラボの開業記念イベントとして行われました。

参加したのは、渋谷区内の就労支援施設で働く、障がいのある人と勤務する職員たちです。アトリエ福花だけでなく、複数の障がい者施設で働く人たちが一堂に会しました。

原宿で行われた、インクルーシブファッションショーの様子

このファッションショーは、本番を迎えるその日まで、参加する全員で作り上げました。例えば、縫製が得意な人はそれを担当して、逆に苦手な人は縫製ではなく絵を描く。人前に出ることが苦手な障がいのある人の代わりに、施設の職員がモデルで出演するなど、まさに「インクルーシブ」なファッションショーの実現となりました。

この取り組みは「誰かが単独でやっている」というものではありません。アトリエ福花と渋谷区の就労支援施設、シブヤフォントの運営チームが総出となって作り上げたのです。関わる人すべてが、それぞれの得意分野や状況に応じて貢献しています。これはまさに、日々のアトリエ福花のものづくりで大切にしている価値観である、「助け合いの精神」そのものといえます。

制作するパートは別々の人が行う。左はイラストの図案、右はそれを参考にした刺繍の作品

アトリエ福花のものづくりを通じて伝えたい。人と人が紡ぐ本当の豊かさ

フッカーたちの手仕事が生み出す温もりのあるものづくりは、いまSNSや口コミを通じて静かに全国へと広がっています。アトリエ福花の目指す未来について伺うと、石塚さんは穏やかな笑顔でこう語ります。

「アトリエ福花が手掛けるものづくりが好きで、作品を大切に取り扱っていただける全国の雑貨店さんとつながっていきたいです。商品はすべて手作りなので、大量生産はできません。そうした方針に共感していただけるお店と、末長く関係性を紡いでいきたいですね」

デスクに置かれた、完成したぬいぐるみ

フッカーたちがそれぞれの得意分野を持ち寄り、手を重ねて形にしているアトリエ福花。イラストを描く手、縫い合わせる手、形を整える手。そうした複数の手が重なり合い、時間をかけて丁寧に紡がれています。

大量生産と効率化が最優先される現代において、このあり方は時代と逆行している流れなのかもしれません。しかしだからこそ、ここには失われつつある確かな価値が存在しています。一つひとつの手仕事から「ものを大切にすること」や「人と助け合うこと」の本質的な豊かさを、現代社会を生きる私たちに改めて教えてくれるのです。

こうした手仕事の現場から見えてくるのは、私たち自身の働き方や生き方へのヒントかもしれません。フッカーたちは教えてくれます。目指すべき目的地に辿り着くために、ひとりでやり切る必要はないのだと。困ったときには人を信頼して委ねてみる。人とのつながりの中で、互いを尊重しながら協働することの大切さ。失敗してもいい、周りが笑顔になっていれば、それは成功なのだということを。アトリエ福花は、そんな忘れかけていた価値観を、私たちに静かに思い出させてくれる場所なのです。

アトリエ福花の「福祉で花を咲かせる」という願いは、これからも社会という大きな世界で力強い花を咲かせ続けます。

渋谷アトリエ福花

住所 : 〒151-0073 東京都渋谷区笹塚2-16-1 ホープ就労支援センター渋谷2階

活動時間:10:30~15:30

ショップ営業時間:火~土曜日 11:00~16:00

定休日:月・日

電話:03-6300-5240

・公式サイト:https://hopewwj.org/works/

・ECサイト:https://fucca.theshop.jp/?srsltid=AfmBOoow-QWX76n9QSlN6oczjwz4fkwgM7DPXNwyl6N6Mx96pfiy7jlA

・Instagram:https://www.instagram.com/atelierfucca/

記事をシェアする

この記事を書いた人

まるせ|廣瀬 健一

埼玉県秩父市生まれ。東京を拠点に活動する取材ライター。日本の魅力を再発見する取材を企画、発信します。文章と写真の頭文字をとった「文と写」の屋号で活動しています。buntosya.com

関連記事