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アート  |    2026.05.13

「表現」で、まちと交流する。立川市のアーティストが自ら主催した、初めての演劇祭

2026年3月7日(土)、8日(日)の二日間、国営昭和記念公園にて「花とみどりの演劇フェスティバル vol.1」が開催されました。一般社団法人Theatre Ort(シアター・オルト)が主催するこのアートフェスティバルには、立川など多摩エリアで活動するアーティストたちが一堂に集結。会期中はフードテントも並び、観劇の合間に立川グルメを味わいながら、ゆったりと芸術に浸る人の姿が多く見られました。

会場となった公園内の「花みどり文化センター」は、大地が浮き上がったかのように感じられる、開放感あふれる独創的な建築が印象的です。今回はギャラリーや講義室がある1階全フロアが会場になりました。大きく取られた窓からは公園の芝生が見え太陽の光がたっぷりと差し込み、曲線が多く使われた設計で、柔らかさや温かさを感じる空間となっています。

花みどり文化センター 外観
建物内は、光が差し込む温かい空間です

表現者と観客が、ひとつになっていく空間

今回集結したのは、12のアーティスト・クリエイター団体。演劇、パフォーマンス、展示、ワークショップと、ジャンルも手法も異なる表現が盛りだくさんで、気づけば一日が過ぎていた、そんな充実した時間を過ごすことができました。

歓声が響く、開放的なギャラリー

壁がないギャラリーエリアに設けられた舞台では、小さなお子さんからご年配の方まで、幅広い世代が気軽に足をとめ、演劇やパフォーマンスを楽しむ姿が見られました。ベビーカーに乗った子どもと一緒に楽しむ女性や、床に寝転がりながら芝居に夢中になる男の子など、自由に楽しめる空気が広がっていました。

言葉が分からなくても楽しめる「to R mansion」のパフォーマンスは、子どもから大人まで大人気でした

心地よい緊張感が満ちていた講義室

講義室でも演劇やワークショップが開催されました。演劇団体「鮭スペアレ」の舞台では、静寂と激しい感情の間を行き来する演技に観客はどんどん引き込まれ、空間全体が心地よい緊張感に包まれました。また、ワークショップ「高校生とリーディングセッション」は、その場の全員が台本を手にし、台詞を追うスタイルで進行しました。高校生や飛び込みの参加者が台詞と真剣に向き合い、声と台本をめくる音だけが響く、息をのむような時間となりました。

張り詰めた空間の中、固唾をのんで見入った「鮭スペアレ」の演劇

どの演目も舞台と客席が同じ高さで近く、演者の熱が直接客席に伝わってくるようでした。時間が経つにつれて演者と観客の境界線が溶け、気づけば空間全体がひとつになり、終演の瞬間、自然と拍手が沸き起こりました。終演後には「初めて観たけど面白かった」「他の演目も観てみたい」という声もあちこちから聞こえ、その場を共にした人たちの一体感が温かく残りました。

「自ら発信し、交流する」アーティストの覚悟

「花とみどりの演劇フェスティバル」は、立川市を拠点に活動するアーティストたちが「自ら発信し、交流する場」をコンセプトに立ち上げられた、新しい形の演劇祭です。主催のTheatre Ort代表であり、フェスティバル・ディレクターを務める倉迫康史さんに、その背景にある想いを伺いました。

一般社団法人Theatre Ort 代表理事 
花とみどりの演劇フェスティバル フェスティバル・ディレクター 倉迫康史さん

「演劇コミュニティ」の枠を越えて

倉迫さんが抱いていたのは、現代の演劇が「演者と演劇ファン」という閉じたコミュニティの中で完結してしまっていることへの危機感でした。

「自分たちでお芝居を演じると、自分たちを見に来てくださる方に向けて演劇をすることが多くなります。演劇コミュニティの中だけで、『演劇という文化』が醸成されていく感覚がありました。しかし、『それだけでいいのか』と感じていました。演劇は、一部のファンや関係者のためだけではなく、一般市民の生活圏の中で身近な表現として存在すべきだと思っています」

多くの人に「表現」に触れてほしいという願いから、会場は劇場ではなく公園になりました。

その思いから、フェスティバルは気軽に訪れることができる公園を会場に、また、アーティスト自身が主催する形にこだわりました。

「一般的に演劇祭は劇場や文化財団が主催していますが、『声をかけていただいて参加している立場』だと、どうしても他人事になってしまいます。そうならないように、アーティストが自ら市民や一般の人々と出会っていけるようにしたいと考えました」

アーティスト自身が市民と向き合う姿勢は運営にも貫かれていました。会期中の会場スタッフも全員がアーティスト活動に関わるメンバーで、これもまた、市民との「出会い」を大切にするための仕掛けのひとつでした。

アーティストのみなさんが会場の至る所で観客とコミュニケーションを図る姿が見られました

廃校拠点が育んだ地域への責任

この志の根底には、拠点としている「たちかわ創造舎」での歩みがあります。廃校となった小学校をリフォームして作られたこの場所を拠点にするなかで、倉迫さんは「自分たちの活動と地域へのつながり」を大切にしてきました。

かつて学び舎だった場所が、いまアーティストたちの手でどのように生かされているのか、地域の方々に丁寧に伝え続ける。その場所を預かる者としての責任感が、活動の根底にあります。その姿勢は、今回のフェスティバルにも自然と通じていました。

同じく「たちかわ創造舎」を拠点に活動して約10年になる演劇集団「風煉ダンス」の林周一さんも、同じ思いを胸に歩んできました。
「発表会のように一方的に自分たちの活動を伝えるのではなく、みんなで場を共有し合う面白さを大切にしながら活動を積み重ねてきました」と話してくださいました。

演劇集団「風煉ダンス」の林周一さん(写真左)。立川市の演劇文化を見つめ、育ててきました。

この地域で10年かけて築いてきた、市や市民との「信頼の土壌」も、今回のフェスティバルの理念を支える大きな力となっています。

公園へ飛び出したパレード

演劇祭の参加者としても運営者としても経験豊富な倉迫さんが「演劇祭が大好き」と話す言葉には、重みがあります。

「カラーの違う劇団がひとつの場に集まると、エネルギーの高い者同士がぶつかり合って、すごい化学反応が起きるんです。演劇祭の醍醐味のひとつですね。普段は出会わなかった作風や団体と出会えることで、観客の世界がグッと広がるのもいいですよね。そして何より、演劇の一番の魅力は、作品を『見せる』だけじゃなく、演者とお客さんが同じ時間・同じ場を共に過ごせることだと思っています」

パレードは、その場にいるだけでエネルギーが満ちてくる感覚がありました

その言葉を体現するような光景が、公演終了後のパレードでした。演者、スタッフ、観客がそろって花みどり文化センターを飛び出し、公園へ繰り出します。風煉ダンスの圧倒的な存在感を放つ巨大人形が動き出し、アーティストと観客が賑やかな音とともに芝生へと進んでいきます。

それまで遠巻きに見ていた親子連れや散歩中の人たちが次々と集まり、自然と笑顔が広がっていく様子は、このフェスティバルの締めくくりにふさわしい光景でした。「表現を日常に解き放つ」という情熱が、地域の人々と混ざり合っていました。

公園に遊びに来た人たちがパレードに次々と集まる光景に、新しい始まりの予感がしました

立川の街に新たな文化の種をまいた「花とみどりの演劇フェスティバル vol.1」。来年はぜひ立ち寄ってみませんか? 散歩のついでに立ち寄るのも、一日のんびり過ごすのもおすすめです。気づいたら『表現』に触れていた、そんな出会いがここには待っています。

イベント開催概要:花とみどりの演劇フェスティバル vol.1

開催期間   2026年3月7日(土)・8日(日)
会  場   国営昭和記念公園「花みどり文化センター」
主  催   一般社団法人Theatre Ort(シアター・オルト)
特別協力   たちかわ創造舎(NPO法人アートネットワーク・ジャパン)

Theatre Ort(シアター・オルト)公式: https://ort.design/
花とみどりの演劇フェスティバル公式: https://ort.design/festival/

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この記事を書いた人

佐藤 裕子

東京都多摩地域が大好きです。東北から関西まで、約10市町村で暮らしてきました。温かく積み重なっていく、地域の日常をお伝えできればと思います。 趣味は郷土料理、温泉、お酒です。よろしくお願いいたします。

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