
「自然」をテーマにした展覧会と聞くと、どんな作品を思い浮かべるでしょうか。山や森、川の風景を描いた絵画。植物をモチーフにした写真。あるいは、環境問題を訴えるインスタレーションかもしれません。
しかし、兵庫県尼崎市のA-Labで開催される展覧会「CONNECT」は、そのどれとも少し違います。
この展覧会には、自然を見つめ続ける二人のアーティストが参加しています。
一人は、光を追い続ける銅版画家・武雄文子。
もう一人は、風や音、空気といった目に見えない感覚を映像作品へと取り込む筒井夏鈴。
二人に共通するテーマは「自然」。
けれど、その向き合い方は驚くほど対照的でした。
だからこそ、この展覧会のタイトルは「CONNECT」なのかもしれません。
「CONNECT」は、二人の出会いから始まった

武雄さんと筒井さんが出会ったきっかけは、2025年にA-Labでそれぞれが担当した小中学生向けワークショップでした。
異なる分野で活動する二人でしたが、「自然」をテーマに作品を制作しているという共通点がありました。
そこから「二人で展示をしてみよう」という話が生まれ、今回の展覧会へとつながっていきます。
タイトルの「CONNECT」には、さまざまな意味が込められています。
武雄さんと筒井さんがつながること。
作品と鑑賞者がつながること。
そして、人と自然がつながること。
一つの言葉でありながら、その解釈は一つではありません。
鑑賞する人によって、新しい「CONNECT」が生まれていく余白が残されています。
同じ自然を見つめながら、たどり着いた表現は正反対だった
今回、お二人にお話を伺っていて最も印象に残ったのは、同じ「自然」をテーマにしながら、そのアプローチがまったく異なることでした。
武雄さんは、自然を「見る」ことから作品を生み出します。
光の変化や色彩、そこに潜む見えない現象を観察し、銅版画という技法を用いて可視化していきます。
一方の筒井さんは、自然を「感じる」ことから制作を始めます。
風が頬をなでる感覚、葉が揺れる音、湿度や空気の気配。映像だけでは伝えきれない体験を、音やセンサー、空間そのものを使って再構築します。
武雄さんは自然を分解し、その本質を見つめようとする人。
筒井さんは自然を全身で受け止め、その体験をもう一度作品として立ち上げる人。
一人は「光」を入口に。
もう一人は「空気」を入口に。
登る道は違いますが、二人が目指している場所は同じです。
それは、「自然との距離を少し近づけること」。
この対照的な表現が、一つの展示空間で出会うことこそ、「CONNECT」の魅力なのだと感じました。
光を見つめ続ける版画家・武雄文子さん

武雄さんは、銅版画という伝統的な技法を用いながら、独自の表現を追求しています。
もともとは漫画家を目指していたという武雄さん。
描いた作品をコピー機で複製したとき、原画とはまったく違う印象になることに衝撃を受けました。
「コピー機には、自分とは違う世界が見えているのではないか」
その小さな気づきが、現在の作品制作につながっています。
完成した版画をコピー機でスキャンし、その途中で作品を動かす。
コピー機という日常的な機械を制作工程の一部に取り入れたこの技法は、武雄さん自身が生み出したオリジナルの表現です。

版画は「複製」の芸術とも言われます。
しかし武雄さんは、その特性をさらに拡張し、光や時間の流れまで作品へ取り込もうとしています。
五感で自然を再構築する映像作家・筒井夏鈴さん

一方、筒井さんが向き合っているのは「体験」です。
大学では映像を学び、自然の風景を撮影するために山へ通いました。
ところが、完成した映像を見返したとき、大きな違和感を覚えたといいます。
そこには確かに山の景色が映っていました。
しかし、その場で聞こえた葉擦れの音も、木々を抜ける風も、湿った空気も、肌で感じた感覚も映ってはいなかったのです。
「映像だけでは、その場所を体験したことにはならない」
その気づきから、筒井さんは葉の揺れにセンサーを取り付け、その動きをデータ化し、音へ変換するなど、作品ごとに様々な技法を試しながら制作を続けています。

映像を「見る」のではなく、その場を「感じる」。
五感を通して自然を体験する作品は、鑑賞者に新しい自然との向き合い方を提案してくれます。
二人が届けたいのは、「答え」ではなく「きっかけ」

お二人への取材で、共通していた言葉があります。
「人にそっと寄り添う作品でありたい」
社会を変えたい。
環境問題を訴えたい。
価値観を押し付けたい。
そうした強いメッセージを掲げるのではなく、それぞれが感じた自然との向き合い方を静かに提示する。
その作品が、誰かの日常へ少しずつ溶け込んでいけばいい。
そんな考え方でした。
だから、「CONNECT」は何か一つの答えを示す展覧会ではありません。
作品を見て何を感じるか。
光を見て何を思うか。
風や音に耳を澄ませたとき、どんな景色が浮かぶのか。
その答えは、きっと鑑賞者一人ひとりの中にあります。
自然とのつながり。
作品とのつながり。
そして、自分自身とのつながり。
「CONNECT」というタイトルには、そのすべてが込められているように感じました。
イベント情報
A-LAB Exhibition Vol.52「CONNECT 武雄文子・筒井夏鈴 二人展」
会期:2026年8月22日(土)~9月23日(水)
開催時間:10:00-18:00
休館日:火曜日 ※9月22日(火・祝)は開館
料金:無料
会場:あまらぶアートラボ「A-Lab」
兵庫県尼崎市西長洲町2丁目33−1
公式サイト:https://www.ama-a-lab.com
武雄文子
公式HP:https://takeoayako.com/
Instagram:https://www.instagram.com/takeo_ayako/
筒井夏鈴
Instagram:https://www.instagram.com/neverend_xia/




