地域創生メディア  Mediall(メディアール)

オンリーワン・ナンバーワンがそこにある 応援の循環を作る 地域創生メディア

バックストーリー  |    2026.07.18

廃材も雑草も、物語になる。東大阪から描く循環のストーリー|株式会社福井プレス

福井プレスーくつ下とコーヒー豆のぬいぐるみを手に持つ福井社長

珈琲カスやチャフ、耕作放棄地に生える雑草――。役目を終えたものや見過ごされてきたものに新たな価値を見い出し、地域の循環へとつなげる町工場があります。東大阪市の株式会社福井プレスは、染色技術を軸に、人形劇やワークショップなど多彩な取り組みを展開しています。「地域で循環する染工場」を目指す、その挑戦を取材しました。

クリーニング屋から、循環する染工場へ

福井プレスー染工場の設備

株式会社福井プレス(以下、福井プレス)は、昭和13年創業の老舗企業。元はクリーニング会社としてスタートしましたが、3代目の福井伸社長の代で染色事業へ参入しました。しかし、コロナ禍でアパレルメーカーからの受注が途絶え、福井プレスは大きな転機を迎えます。

モノに潜む価値を、染めの技術で引き出す

会社の存続が危ぶまれる中で福井さんが着目したのが、廃棄される珈琲カスやチャフ(薄皮)を活用した「珈琲染め」でした。地元の珈琲専門店とタッグを組み、廃棄されるはずだった珈琲カスでものを染める――。このサステナブルな取り組みをきっかけに、これまで接点がなかった業界の大手企業からも仕事が来るようになったといいます。

福井プレスー珈琲染めのメモ帳

そして、廃棄資源を染料として活用するサーキュラーエコノミー事業「染食還(せんしょくかん)」や、珈琲染めワークショップやインストラクター養成講座などを展開する新ブランド「染ノ学舎(そめのまなびや)」を立ち上げました。サステナブルな活動なのはもちろんのこと、とくに染ノ学舎は、体験や経験に価値を見出す近年の消費活動に合致した事業です。

福井プレスーCATS田中農園さんの珈琲染めTシャツ
珈琲染めTシャツ(写真提供:福井プレス)

「数年でまったく違う会社になってしまいました」と福井さんは語ります。目の前に現れた面白そうなことを事業に活かしていくうちに、次々と新しいつながりが生まれ、「製造」ではないところへ可能性が広がっていきました。福井プレスは「言われた通りに染める製造業」から「価値を循環させる会社」へと姿を変えたのです。

循環の物語を、人形劇にして届ける

福井プレスー絵画をモチーフにした人形たち(最後の晩餐)

染工場の枠を超え、あっと驚くような活動を続けてきた福井プレスは、その広報スタイルもかなり独特。自分たちの取り組みを伝える手段として取り入れたのは、なんと「人形劇」でした。社内には美大出身のスタッフが多く、普段からモノづくりとアートの感性が共存しているのだといいます。事の発端は、あるスタッフが染食還の循環の仕組みを人形劇で表現し始めたことでした。

「彼女は最初、人形を何に使うわけでもなく、ただ作っていただけだったんです。アートに縁がない僕にとっては、正直、完全に理解の範ちゅうを超えていました。でも、『このまま活かさないなんて、もったいない』と感じたんです」

放っておくわけにはいかない。その直感を信じて拾い上げた結果、今や人形劇は福井プレスになくてはならない広報のシンボルとなりました。人形劇は「落穂拾い」や「最後の晩餐」といった絵画をモチーフに、廃棄物が資源として生まれ変わるプロセスを物語として届けます。

福井プレスー絵画をモチーフにした人形たち(落穂拾い)

「うちはどちらかというとアナログな人間ばっかりなんです。SNS発信なんかも苦手で、以前はそれが弱みだと思ってたんですよ。でも今は、逆にそれこそが僕らの強みで、すごく価値のあることなんじゃないかと考えてます」

AIによって誰でも簡単に画像や動画を作れる時代になったからこそ、手作りされた人形を人の手で動かし、物語を表現する人形劇には独特の味や魅力があるのだ、と福井さんは語ってくださりました。

「雑草クロニクル」という次なる挑戦

廃棄されるものに価値を見い出してきた福井プレスが次に目を向けたのは、日常の風景に当たり前に存在する「雑草」でした。 

福井プレスー「雑草」で染めた手ぬぐい

「珈琲染めだけやってるわけにもいかないんで。次は何をやろうって考えたときに、地元で耕作放棄地が増えていることを知ったんです。それで『よし、雑草や!』と動き出しました」

手入れされなくなった田畑では雑草が繁殖し、周辺の農地に悪影響を及ぼします。福井プレスが取り組む『雑草クロニクル』は、そんな雑草を染料や食品、建材として活用しようというプロジェクトです。

福井プレスーエノコログサビールと、「アダムとイブ」をモチーフにした人形劇
エノコログサエール(左)と『アダムとイブ』をテーマにした人形劇(右)

耕作放棄地に生える雑草をテーマにしたイベントでは、「猫じゃらし」の俗称で知られるエノコログサを原料にしたクラフトビールや、ツユクサを使った雑草カレーが話題になりました。

さらに、「モノの『価値』とは何かを問う」を掲げ、アーティスト・コレクティブとのコラボレーション企画も実現。即興人形劇や音楽ライブ、染めのワークショップといった体験型コンテンツに加え、ミツマタ染めのアイテムも販売されました。ミツマタは日本の紙幣にも使われる和紙の原料で、近年は耕作放棄地の活用策として各地で栽培が広がっているのだそうです。

福井プレスーミツマタで染めた紙幣カラーの手ぬぐい
紙幣カラーの手ぬぐい
福井プレスーミツマタの苗木を鉢に植え替える福井さん
ミツマタの苗木を鉢へ移し替える福井さん

農家の方から「よく異業種の方々が手を挙げてくれましたね」と驚かれるほど、雑草問題に取り組むのは容易ではありません。それでも福井さんは、「まずはやってみることが大事」と考えています。

「仮に僕らがこの課題を解決できなくても、感化された人がまた違うことをやっていくかもしれないじゃないですか。たとえ1回きりのイベントでも、『こういう問題があるんだ』って知ってもらえたら、それは意味のあることですよね」

東大阪から、循環の輪を広げていく

新しい活動を始めるたびに思わぬ企業との出会いが生まれ、「今はちょっと舞い上がってるんですよ」と福井さんは笑います。大きな企業と一緒に仕事ができること、そして、雑草クロニクルや染食還を伝える人形劇、体験を届ける染ノ学舎を通じて、どんな人とつながれるのか。その可能性に期待しているからです。

一方で、さまざまな挑戦の土台になっているのは、これまで地域で築いてきたサーキュラーエコノミーの仕組みだといいます。

福井プレスー染食還の表札

「地元の珈琲専門店や、お隣の奈良県生駒市の業者と協力してやってきたからこそ、僕たちは大手企業にも継続して選んでもらえるんだと思います。サステナブルな取り組みは、物理的に近い場所でないと続けられないですから。地域の事業者との連携が生命線ですね」

今はさらに活動の輪を広げ、新たな出会いを生み出すことに夢中です。しかし福井さんは、「ひと通り暴れ倒したら、最後は地元へ帰ってきて、地域の人たちと膝を突き合わせながら循環の仕組みを深めていくんじゃないかな」と話します。

地域で生まれた循環は、新しい人やアイデアを巻き込みながら少しずつ広がり、いずれまた東大阪へ還っていく——そんな未来を見据えています。

 

 

株式会社福井プレス

所在地:⼤阪府東⼤阪市⻄⽯切町6-3-42
TEL / FAX:072-986-9295
HP:https://fukuipress.com/
Instagram:https://www.instagram.com/fukuipress_/

染食還
https://senshockan.com/

染ノ学舎
https://manabiya.fukuipress.com/

近鉄けいはんな線「新石切」駅より徒歩約10分
阪神高速13号東大阪線 水走出入口より約1分

記事をシェアする

この記事を書いた人

九重 十彩

生まれも育ちも東大阪市。カフェ巡りから一人飲みまで、美味しいものと共に在りたいWebライター。 実は調理師免許を持ってるけど、ほぼほぼ持ってるだけ。 大阪の中核市としての一面と、生駒山系の自然、振り幅の広~い「モノづくりのまち東大阪」の魅力を発信していきます。

関連記事