皆さんは行政書士と聞いて、どのような職業なのか思いつくでしょうか。「士」という字がつく仕事にはほかにも弁護士や司法書士、社会保険労務士などがあり、違いがわからないという人もいるかもしれません。
行政書士の業務範囲は建設業・宅地建物取引業や、飲食・風俗営業にかかわる許認可業務や遺産分割協議書作成等の権利義務・事実証明にかかわるなど多岐にわたります。一般の人からすればますます何者かが分かりづらい職業だと言えるでしょう。
幅広い業務の中から「遺言・相続」を専門分野としている事務所が大阪・茨木市にあります。なぜ「遺言・相続」に特化しているのか、北摂パートナーズ行政書士事務所の松尾武将さんに話を伺いました。
正義感と根性あふれる子ども時代
長崎県で育った松尾さんの小学生時代は、法律に携わる今の仕事からは想像もできない暴れん坊だったそうです。
「気は小さかったんですが、クラスメイトを相手によく暴れていました。うまく表現できない不満を抱えていた記憶があります。今から思えば、年子の弟がいたせいで、さみしさを抱えていたんでしょうね。両親から愛されてはいましたが、愛情がもっと欲しかったのかもしれません」(松尾さん)
ただ、中学校に進むと暴れん坊の姿は消え失せ、持ち前の正義感が表に出てくるようになるのです。
「思春期になると、不正に対して嫌悪感を抱くようになりました。ただ、権威性のある人に指示されると、従ってしまう弱い自分でもありました。剣道部に入っていたのですが、2年生のときに新しく来た顧問が鬼コーチで逆らえませんでした(笑)」(松尾さん)
今でこそハラスメントは少なくなったものの、当時は今とは大きく違い、上下関係に強制性があった時代です。権威に従わなければならないのも仕方がなかったのでしょう。高校に行っても、松尾さんは理不尽ともいえる環境で過ごすことになります。
「高校生になると親元を離れ、学生寮に入りました。最初に入った部屋は3年生が2人、2年生が1人、そして自分の4人部屋でしたね。部活でもしごかれて、部屋に戻っても命令に従わなければならず、人間扱いはされませんでした」(松尾さん)
学内を走って移動していなかったなどの些細な理由で正座をさせられて、長時間叱られたこともあるそうです。あまりの理不尽な仕打ちに心が折れ、逆に考え方に柔軟性が出てきたことは幸いだったといいます。中学生では不正を許せない堅物な松尾さんの性格が変わったのもこれらの体験だったようです。
小説家への憧れから大学では文芸部へ
大学でも学生寮に入った松尾さんは、高校まで10年続けていた剣道をやめ、文芸部に入ります。
「中学生のころから本はよく読んでいたので、まねごとで小説を書いたりしていました。文学少年がかかるハシカみたいなものですね(笑)。小説家に憧れを抱いていたこともあって、文芸部に入ることにしたのです」(松尾さん)
依頼を受けて、遺言・相続に関するコラムを書くこともある松尾さんの文才は、このときの経験が生かされているのかもしれませんね。
「ただ、入寮した学生寮は高校時代より暴力的ではありませんでしたが、逃げ出す学生がいるほどの環境でした。後から父親に聞いたのですが、大学周辺にある学生向けの不動産屋さんと雑談していたところ『あの学生寮を出たいという話は聞いたことはあるが、4年間もいたなんて、いい根性してますね』となかば呆れ、なかば感嘆されたそうです。
確かに、どんなに遠くに見える先輩でも学内で挨拶をしそこねると、夜板の間に正座させられるくらいですから。私は高校時代から慣れていたので、それほど苦痛ではありませんでしたが(笑)」(松尾さん)
3年生になると、文化系部活を管理する役職に就きます。
「役職について知ったのですが、文化系部活出身者で構成されるOB会が存在していたんです。マニュアルが用意されていて、連絡を取るように示されていたのですが、真面目に取り組んだのは私だけだったようです。そのおかげもあり、就職につながるご縁を得ることになりました」(松尾さん)
OB会の案内を送ってやり取りをした人の中に、銀行で働いている先輩がいました。その先輩に気に入ってもらえたこともあり、面接を受けるよう勧められたそうです。
「その銀行を含めて3つの会社から内定をいただきました。父親は銀行員が嫌いだと言っていたのですが、自分が就職する際には銀行への就職を後押ししてくれましたね。『東京勤務ができるのは貴重だ』と。でも、銀行員時代の『東京勤務』は役についてからだけの数年間だけでしたけど」(松尾さん)
ただ、就職してからも「人のフンドシで相撲をとるような銀行員は嫌いだ」とお父さんからよく言われていたそうです。
27年間勤めた銀行員時代
大学卒業後、松尾さんは27年間銀行員として働きます。
「今から思えば、銀行員は自分には合っていませんでした。お客様のお金を預かる以上、細かい規律も多く、どうしても抑圧される環境だと感じていました。上下関係も厳しかったですし、よく27年間働いたなと思います」(松尾さん)
テレビドラマや映画などでしか銀行員の働き方を知らない筆者にはわからない世界が、銀行にはあるのでしょう。
入社直後の窓口業務を経て、さまざまな支店で預金集めや、個人・法人向けローン、信託銀行ならではの事業用不動産の仲介といった仕事に勤しみます。
「優秀な成績をあげる人は、事業法人融資の仕事に就くのですが、そちらはあまり経験することができませんでした。本流ではない遺言・相続の仕事に回されることになったんです。精神的に病んでいたのも理由のひとつです」(松尾さん)
当時の副支店長からは「死にそうな顔をしていた」と後からからかわれるくらい、当時の松尾さんは仕事量の多さや時間に追われ、追い込まれていたようです。
遺言・相続の仕事は素人だったので、最初の1年は実績が出なかったそうです。ただ、この1年の勉強や経験が、徐々に形になっていくのでした。
「勉強するのは好きでした。実践と理論を繰り返して知識を深めて行きました。それでも今から思えば浅い理解だったなと思います。それでも、若手の行員からは『勉強の方法を教えてほしい』と一目置かれる存在ではありましたね」(松尾さん)
遺言・相続と一言で言っても、一人ひとり内容は大きく異なります。同じ案件は二度と現れない中、松尾さんは着実に実力を付けていくのでした。
3度目の挑戦で資格取得、そして地域創生へ
一般的に銀行員は現役でいられる期間が短いそうです。松尾さんが勤めていた銀行もご多分に漏れず、50歳あたりで転機が訪れていました。
「支店長までつとめた先輩が年齢を重ねたのち閑職についている姿を見て、自分は齢を経ても現役でいたいと考えました。それで、これまでの経験が生きる資格を探したところ、行政書士に行き着いたわけです」(松尾さん)
2011年に3度目の挑戦で行政書士試験に合格した松尾さんは、その後も銀行で仕事を続け、2022年に退社します。一度、別の会社で働いたのち、自身の事務所を立ち上げるのです。
「銀行員時代に、当時の役員が『銀行で育った人間を社会貢献のために世の中に送りだす』とおっしゃられていました。その時は『なんだよリストラのための方便かよ』と反発していたものでしたが、銀行員としての人生を終え第2の人生を送ることに現実味が増してきた際、自分が最も貢献できることは何だろうかと考えた結果、遺言・相続なら貢献できると思ったんです。銀行員時代の緻密さも生きるでしょうしね」(松尾さん)
確かに世の中に行政書士はたくさんいます。何でもできるという風に言っている人もいますが、それだと印象に残りづらいですね。何かひとつに絞ることは勇気がいりますが、結果的にそれが正解だったんですね。
「今ではほかの行政書士などに、遺言・相続業務を指導することもあります。また、ほかの所では解決できなかった依頼を受けることや、他の行政書士から共同受任を相談されることもあるんです。遺言・相続に絞って複雑な案件に取り組んだ結果、知見が深まった成果ですね」(松尾さん)
また、松尾さんはペットの譲渡会にもかかわりを持っています。遺言・相続は、人間の間だけでなく、ペットについても大きな問題になることがあります。
「私自身はペットが熱烈に好きかというとそうではありません。ただ、ペットを飼っている人たちの人生やその終焉にはおおいに関心があります。何か私の知見がお役に立てないかと遺言・相続案件にはかかわってきました。ペットは法律上動産であり、それ自体が権利主体とはなりえません。このことを要因とし対応に苦慮することもあります。
その方の置かれた親族関係、生活状況、ペットの飼養環境により手立てはケースバイケースの対応になりますので、『これをやったら万全』とはとてもいえません。まずは譲渡会などの手伝いをさせていただき、現場の声を聞いて学んでいます。
私の所属する団体の代表もそれでいいといってくれていますし、むしろペット愛護者ではない一般人の視点を忘れないで欲しいともいってくれています」(松尾さん)
松尾さんの謙虚に学ぶ姿勢には、こちらも頭が下がります。
北摂パートナー行政書士事務所の理念は「私たちは、遺言者や相続人への健全な相続手続全般の支援を通じ、健康で文化的な社会の実現に貢献します」です。とはいえ、都会に比べると、地方は士業の支援が十分とは言えないようです。
「私が現在所属する大阪には4005人(個人・法人合計)の行政書士がいる一方で、私の故郷である長崎には421人(同)(令和6年10月1日現在)ほどしかいません。もちろん人口が違うという理由はありますが、それでもサポートは不十分です。
ただ、このサポートを充実させるには、地方でも成立するビジネスモデルが不可欠です。このビジネスモデルを確立して、地方でも十分なサポートが受けられるようにしたいと考えています」(松尾さん)
中学生のころに抱いていた「不正が許せない」という気持ちは、歳月を経てこのような思いへ通じることになったのかもしれませんね。この記事では表現しきれませんでしたが、実際の松尾さんはユーモアあふれる方でもあります。遺言・相続でお困りの際には、ぜひ、北摂パートナー行政書士事務所までお問い合わせください。
北摂パートナーズ行政書士事務所 情報
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