
富津市にある老舗の和菓子屋さん「野口製菓」で、じわじわ人気を集めている「バカ最中」をご存知ですか?
ネーミングからしてインパクト抜群!「最中なのにバカってどういうこと?」と、思わず二度見してしまいます。
そして極めつけは、最中の間からぴょこんと飛び出したオレンジ色の「舌」。その見た目に、ふっと笑みがこぼれてしまうはず。
ネーミングや見た目はちょっとふざけて見えるかもしれませんが、その中には富津の海の恵みと、港町の記憶が詰まっているのです。
「バカ」の正体は富津名物の「バカ貝」

バカ最中の「バカ」は、富津の特産・バカ貝のこと。二枚貝の一種で、寿司ネタの「青柳(アオヤギ)」としても知られています。
身はやわらかく、甘みがあって、ほんのり磯の香り。市場では高級食材として扱われることもある、実は“美味しいやつ”なんです。
では、どうして「バカ」と呼ばれているのでしょうか?
諸説ありますが、その昔「バカみたいに獲れたから」という説が有力です。あるいは、貝の口がパカッと開くさまが、ちょっと間抜けに見えるから…とも。
一度聞いたら忘れられない、なんとも憎めないネーミングのバカ貝ですが、富津では長く親しまれてきた存在です。
「カチャカチャ」と港町に響く音の風景
かつて富津の港町には、独特の音の風景がありました。
それは「剥き子(むきこ)」と呼ばれる女性たちが、バカ貝を金属のヘラで一つひとつ開いていたときに響く音。
「カチャカチャ、カチャカチャ」
無数の手が同じリズムで動き、音が重なり合い、まるで町のBGMのようだったそうです。
けれども今は、貝の獲れる量も加工する人も減ってしまい、そのような音の風景はほとんど見られなくなりました。
「バカ最中」の中には、そんな町の記憶がかすかに詰まっているような気がします。
「バカ最中」を生み出したのは地元の名店

この最中をつくっているのは「野口製菓」。創業から80年以上続く、富津で長く愛される家族経営の小さな和菓子店です。
三代目のご主人が「地元らしいお菓子を」と生み出したのが、この「バカ最中」。
もともとは「潮干狩り最中」としてアサリを模した形で考案されたものでした。
ところが、剥き子の仕事をしていた女性が「これはアサリじゃなくてバカ(貝)だよ」と一言。
そこから着想を得て、ひと目でバカ貝と分かるように斧足(ふそく=舌のような部分)をつけたというエピソードがあるのだそう。

さっくり香ばしい皮の中には、上品な甘さの自家製つぶあん。あんこは毎朝、丁寧に炭火で炊いているそうです。
オレンジ色の舌に見立てた部分は、もちもちの求肥。あんこの甘さに、やさしい食感のアクセントを添えています。
見た目のインパクトとは裏腹に、どこか懐かしくて、優しい味わい。遊び心と郷土愛が詰まった、富津ならではの和菓子です。
富津の風景をカタチに

野口製菓には「バカ最中」のほかにも、富津の風景からインスピレーションを受けて生まれたお菓子があります。
こちらのフロランタンは、野口さんが富津の海の景色からインスピレーションを受けて誕生したお菓子。
サクッとした生地のサブレは富津の砂浜、アーモンドスライスのキャラメルは岬に広がる松林の木肌をイメージしてつくられたものだそう。
この一本には、富津の美しい風景と、ご主人のあふれる地元愛がそっと込められています。
また、野口製菓では和菓子だけでなく洋菓子も充実しています。

あんこと生クリームが絶妙に合わさった「栗入りあんこシュークリーム」や、しっとり優しい甘さの「焼きドーナツ」など、どれも丁寧な手仕事から生まれた老舗ならではの味わいが楽しめます。

季節ごとに並ぶ苺大福や柏餅などの和菓子は、昔ながらの素朴な味わいが魅力。どこか懐かしく、訪れるたびにほっとさせてくれます。
特に夏季限定で登場するかき氷は、それを目当てに訪れる人も多い人気商品。
和洋の多彩なラインナップがあるので、日常のおやつにはもちろん、大切な人への贈り物にもぴったりな、頼れる和菓子屋さんです。
「富津の景色を後世に残したい」

富津土産として人気の「バカ最中」は、ユーモラスな名前の裏側に、富津の海の恵みと、地元の人たちの記憶がこっそり詰まったお菓子です。
見た目にくすっと笑って、口にすれば、どこか懐かしくてやさしい味わい。
富津を訪れたら、ぜひこの最中を手に取ってみてください。町の風景と作り手の想いが、ひと口ごとに伝わってくるはずです。
お店の情報
野口製菓
千葉県富津市富津1487-2
TEL.0439-88-0881
営業時間:9:00〜17:30
定休日:不定休
公式ホームページ:https://futtunoguti.wixsite.com/wagasikoubou-shop/home