小諸駅から歩いて約4分。旧北国街道と国道141号が交わる「本町」交差点で、ふと足を止めたくなる立派な佇まいの建物に出会います。
2025年12月にオープンしたカフェと酒屋の『カド』。 店主の大塚拓(ひろむ)さんが、自身のルーツであるこの場所を再び開き、お酒や食を通じて何を届けようとしているのか。 一歩ずつ準備を進めてきた『カド』のこれまでとこれからのお話を伺いました。
かつて酒屋だった祖母の実家を再び開く

――3年前に東京から長野へ移住された大塚さん。この小諸という土地でお店を開いたきっかけを教えてください。
大塚さん:
きっかけは、祖母の実家があったこの場所を子どもの頃に何度か訪れていたことです。ここは江戸時代から続く「大塚酒造」の分家にあたり、かつてはその小売部門として30数年前まで酒販店が営まれていました。
その後、ラーメン屋さんが入ったこともありますが、最終的には空き店舗になっていて。

このまま古くなるのを見守るだけでは、街のためにも、持ち主である私たちのためにも良くない――この魅力的な建物を活かしたい、保存したいという気持ちが強くなりました。
小諸は古くから宿場町として栄え、明治の頃は非常に商売が盛んな場所でした。この築100年の建物はそんな古い街並みの角地にあります。
非常に立派な商業建築で当時から「街らしい建物だ」と言われていたんです。そこで、この場所が持つ歴史的な文脈を活かした使い方ができれば一番良いだろうと考えました。
――歴史ある建物をリノベーションするなかで意識していたことは何でしょうか。
大塚さん:
今ある姿を活かすことを意識しました。外装もそうだし、古い雰囲気を残したいなと。昼のお店としての顔だけでなく、酒場としても成立する古さと新しさのバランス。その辺は悩みながら進めました。
たとえば、このテーブルやカウンターは大塚酒造で昔、酒造りで使われていた直径2メートルほどの樽の蓋を使っているんです。




お酒を販売する地下の貯蔵庫は、石壁や石の柱といった当時の姿がはっきりと残っています。リノベーション中、大工さんと話すなかで「この建物の個性だから見せていくべきだよ」と言ってくれて。


石造りの部分は、常に8〜9℃に保たれているのでお酒の貯蔵に適しています。ここにある古いものを活かして使えるというのは、すごく良かったですね。
――リノベーション期間中、街の方から反応はありましたか?
大塚さん:
「何かするの?いつ開くの?」と聞かれたり、「何かやるんだってね。街が明るくなっていいわね」と地元のおばあちゃんが声をかけてくれたりしたのがうれしかったですね。
「私が小さいころお遣いに来たのよ」と昔の話を聞かせてくださる方もいます。ここがどんな場所だったか、当時の姿を知る先輩方にこれからもぜひ教えてもらいたいですね。
今まで交わらなかったものが交わる場所に

――次に店名の由来などについてお伺いします。『カド』という名前、そしてシンプルなロゴが印象的ですが、これにはどのような意味が込められているのでしょうか。
大塚さん:この辺りは、先ほどお話しした大塚酒造のほかにも、親戚が味噌や醤油などいろいろな商売をやっていたようで。ここは「角の大塚」の愛称だったと以前から聞いていました。

過去に通じる文脈と覚えやすいシンプルなものがいいなと思い『カド』と名づけました。

四角が重なったデザインのロゴは、立地的なイメージもありますが「今まで交わらなかったものが交わる場所にしたい」という気持ちが込められています。
――お店のテーマ「人とお酒と、あれやこれやが交わるところ」にも通じていますね。2025年の年末には、まさに多くの人が交わる参加型イベント「カドびらき」が盛大に開催されましたね。
大塚さん:
地元で活躍される『アサマニッポーズ』というバンドに出演してもらったんですが、これはほんとに下駄をはかせてもらって(笑)。町内カラオケ大会みたいに盛り上がりましたね。
こちらに移住したきっかけも、小諸で出会った仲間とのつながりや、妻が背中を押してくれたことが後押しになっているんです。
――カフェは妻で店長の和佳さんが主に切り盛りされているのだとか。
大塚さん:
はい。私は移住のタイミングで転職して平日は会社員として働いているので、お店の運営は妻が中心となって担っています。カフェを開くことが妻の夢だったので、そこはお互い良い形になりました。



カフェで提供するのは大塚酒造の酒粕を使った自家製チーズケーキのほか、妻の兄が育てる無農薬の山形県産安納芋を使った焼き芋など、地域のご縁や私たちのルーツに由来するものも取り扱っています。
一歩一歩。『カド』のチャレンジは始まったばかり

――2025年12月のオープンから約2か月経ちますが、これから挑戦したいことや『カド』がどんな場所になっていってほしいか教えてください。
大塚さん:
まずは、気軽に入れる場所でありたいですね。この建物の立地を考えても、地域に開かれた場所にしたいという思いがあります。
実はお店にカフェを併設したのは、「ふらっと立ち寄れる居心地の良い場所」として一番分かりやすい形だと思ったからなんです。
「お酒の場」という顔だけだと、どうしても利用できる年齢や時間帯が限られてしまうだろうと。そうではない顔も持って、老若男女問わず気軽に立ち寄れる入り口になってくれたらいいですね。
店内には和室もあるので、僕らのような子育て世代の方にも気兼ねなく利用してもらえたら嬉しいです。


一方でお酒に関しても、ゆくゆくは「角(かく)打ち」――酒屋の店先で買ったものをその場で立ち飲みする、かつてこの場所にあった文化を復活させたいと考えています。
今はまだ子育て中ということもあり、夜の営業については「どうすれば自分たち以外の力も借りて回していけるか」を模索している、チャレンジの最中です。
――地元の高校生たちにも、この場所を感じてほしいというお話もありましたね。
大塚さん:
そうですね。通学する高校生たちがこの角をよく通るんです。自分も地方出身だから感じるのですが、10代のうちに地元で「好きだな」とか「あの大人かっこいいな」と思える出会いがあるかどうかで、その街への愛着が変わる気がしていて。
分不相応かもしれませんが、この『カド』に人が集まり賑わうことで、街が少し元気になったり、若い人が振り向くきっかけになったり。とにかく今まで交わらなかった人たちが交差する景色を作っていきたいですね。
一歩一歩、チャレンジの途中ですが、そんな風にこの街の一部になっていければと思っています。
* * *
かつて「角(かく)打ち」で賑わった角地は今、カフェ兼酒屋として再び人々が立ち寄る場所へと生まれ変わっています。
「一歩一歩ですね」と語る拓さんはこれまでに出会った仲間たちとのつながりの中で、ワークショップやイベント企画などすでに様々なチャレンジを始められています。
観光で訪れる人も、この街で暮らす人も。「人とお酒と、あれやこれやが交わるところ」に触れに、ぜひお店に立ち寄ってみてはいかがでしょうか。
店舗の最新情報は公式Instagramでチェックしてみてください。
【店舗情報】カド
- 住所: 長野県小諸市本町2丁目3-3
- アクセス: 小諸駅から徒歩約4分
- 営業時間: 10:00~16:00(※カフェ・酒販の営業。最新の詳細はSNSを確認)
- 定休日: 日・月・火(※変動あり。Instagramにて告知)
- 駐車場: 周辺の駐車場を利用
- Instagram: kado.komoro



