前編では、日替わりのおむすびと紅茶、キッチンカーという形を選んだ「彩ムスヒ」の姿を追ってきた。
後編では、店主・山本ちあきさん(以下、山本さん)が「一人で続ける」ことを選んだ理由や、売上や規模の拡大よりも、自分の感覚を大切にしている理由などに焦点を当てる。
誰の指示も受けず、自分の判断で立てる場所を持つこと。それは、華やかな独立物語とは少し違う。迷い、時間をかけ、細々と始めたからこそ見えてきたものがある。このキッチンカーが続いている理由は、数字ではなく、その選択の積み重ねにあった。
誰の指示も受けない場所が欲しかった

山本さんがキッチンカーを始めた理由は、シンプルだ。
「自分の居場所が欲しかったんです」誰かの指示を受けて働く場所ではなく、自分の判断で立っていられる場所。それを作るには、店を持つしかないと思った。
食べることが好きだったこともあり、飲食という選択肢は自然だった。その中でも、キッチンカーは初期費用を抑えられ、一人で始めやすい。ただし、勢いで始めたわけではない。
「やりたい」と思い始めてから、実際に形にするまでには、10年という時間がかかっている。
10年かかった踏ん切り

栄養士などとして働いていたものの、どこか物足りなさが残った。
「私じゃなくてもできる仕事かもしれない、って思ってしまって」自分がそこにいる意味を、どうしても考えてしまう性格だったという。
最終的にたどり着いたのが、「好きなことでお金を稼ぐ」という選択だった。整体、占い、キッチンカー、水引のハンドメイド。一見するとバラバラだが、本人の中では一本の線でつながっている。
「全部、私が好きなことなんです」
一人でやるという選択

キッチンカーを続ける中で、「誰かを雇わないのですか?」と聞かれることもある。答えは、はっきりしている。
「全部、自分でやりたいんです」
誰かを雇えば、楽になる部分はある。売上を伸ばすこともできるかもしれない。
けれど、人が入れば、やり方を共有しなければならない。自分のペースは変わる。せっかく「自分の居場所」を作るために始めたのに、その居場所が他人の都合で変わってしまうのは、本末転倒だと山本さんは感じている。
準備がどれだけ忙しくても、営業の翌日にまた仕込みがあっても、一人でやることを選んでいる。
売上よりも、「受け入れてもらえた」という感覚

このキッチンカーが続いている理由を聞くと、山本さんは少し考えてから、こう話した。
「買ってもらえるって、受け入れてもらえてるってことじゃないですか」
自分が美味しいと思ったものを出す。それを誰かが選んでくれる。その積み重ねが、続ける理由になっている。売上の数字だけを追っているわけではない。むしろ、「ありがとう」と言われた瞬間の方が、ずっと記憶に残っている。
細々とやるつもりだったのに

最初は、本当に細々とやるつもりだったという。自分から売り込みに行く気もなかった。それでも、不思議と声がかかった。
イベント主催者に見つけてもらい、出店の機会が増え、キッチンカー仲間とのつながりもできた。結果的に、想像していたよりも安定して稼働できている。
「運がよかったんだと思います」そう言いながらも、運を受け取れる位置に立ち続けていたことが、何より大きかったのかもしれない。
これからやりたいこと

将来的には、キッチンカーだけでなく、自分の店を持ちたいという思いもある。表向きは、おむすび屋。そこに整体や占い、ハンドメイド、ワークショップが重なる。
「これだけをやる、って決めなくていいと思ってて」一つに絞るのではなく、好きなことを全部やれる場所を作りたい。それもまた、「自分の居場所」を作るという発想の延長にある。
常連のお客さんの声

取材中も、何人かの常連客が足を止めていた。紅茶を受け取りながら、山本さんと短い言葉を交わしていく。そこに、特別なやり取りはない。
けれど、その距離感が、このキッチンカーらしさをよく表している。和紅茶という言葉を、この店で初めて知った人もいる。
「紅茶なのに、日本茶みたいで飲みやすい」そんな感想が自然と口に出る。おむすびを食べたことがなく、紅茶だけを目当てに通っている人もいた。無理に勧めないからこそ、それぞれの関わり方が続いているようだった。
まとめ

一人で続けることは、決して楽ではない。準備も営業も、すべて自分で背負うことになる。
それでも山本さんは、この形を選び続けている。誰かに合わせるのではなく、自分の感覚を信じて立てる場所だからだ。このキッチンカーは、「こうすれば成功する」という答えを示してはいない。
ただ、自分の居場所を探し、時間をかけて形にしてきた一人の選択を、そのまま伝えている。派手さはない。けれど、無理をしないからこそ、続いている。その静かな姿勢が、今日もまた人を引き寄せている。
基本情報
- 店名:彩ムスヒ
- Instagram:愛媛おむすび喫茶Car彩ムスヒ(イロドリムスヒ)
- 出店場所・営業日:不定期




