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フード  |    2026.03.16

おむすびと紅茶のキッチンカー「彩ムスヒ」の魅力とは【前編】|愛媛県松山市

愛媛県松山市の城山公園の一角に、どこか昭和の空気をまとったキッチンカーが止まっている。炊き立てのごはんと、湯気の立つ紅茶。

派手な看板があるわけでもなく、大きな声で呼び込みをするわけでもない。それでも、このキッチンカーの前には、自然と人が集まる。

日替わりのおむすびと、和紅茶、セイロンティーを提供するキッチンカーが「彩ムスヒ」

「細々とやるつもりだった」という店主・山本ちあきさん(以下、山本さん)の言葉とは裏腹に、少しずつ常連を増やしながら、今も変わらないペースで営業を続けている。

料理の修行はしていない。でも「美味しい」は分かる

非常に丁寧に作られた紅茶

山本さんは、いわゆる料理人の道を歩んできたわけではない。飲食店での修行経験もない。それでも、こう言い切る。

「自分は、美味しいものが分かる人間だと思っています」

鮭は焼くだけ。梅やおかかも、特別な加工はしない。その代わり、自分が本当に美味しいと思った素材だけを選ぶ。

社会貢献活動に対しての意識が高い山本さん

お米は、無農薬の山形県産つや姫と、東温市のもち麦。粘りが強すぎず、口ほどけがよい。おむすびとしてまとまりながらも、潰れない。

海苔も、スーパーで買えるものをすべて試したという。山本さんが重視しているのは、「噛みちぎれるかどうか」だ。香りが豊かでも、噛み切れない海苔はおむすびにすると食べづらい。

1度は試したい味

実際に試食してもらうと「噛みちぎれない」という声が多かったという。そこから、スーパーで手に入る海苔を一つずつ食べ比べた。香り、厚み、歯切れ。その中で残ったのが、口に入れた瞬間に海苔の風味が広がり、噛んだときに自然に切れる一枚だった。

海苔はあくまで脇役だが、その役割をきちんと果たしてこそ、おむすびは完成する。

おむすびに合わせる紅茶という選択

作るまでの過程も美しい

このキッチンカーで提供される紅茶は、「おむすびに合うかどうか」を基準に選ばれている。

ミルクティーはミルクティーとして成立する味のものを、ストレートティーは日本茶のように飲めるものを。そのため、ストレートには和紅茶や癖の少ないセイロンティーが中心だ。

一つ一つ心を込めて作られていく

和紅茶とは、日本茶の茶葉を発酵させて作られる紅茶を指す。紅茶特有のフローラルな香りが強すぎず、日本茶の延長線のような風味があるため、おむすびの味を邪魔しない。

屋久島や尾道など、産地にもこだわり、実際に飲んで「うまい」と感じたものだけを商品にしている。和紅茶との出会いも、計算されたものではなかった。

後味スッキリで飲みやすい屋久島の和紅茶

屋久島の和紅茶を飲んだとき、「これはうまい」と素直に感じた。そこから産地や作り手を調べ、実際に取り寄せてみたという。

尾道の和紅茶も同様だ。日本茶の職人が手がける紅茶で、「不味いはずがない」と思いながら口にすると、やはり納得できる味だった。決定的だったのは、インスタグラムで紅茶についてつぶやいたこと。

その投稿を見た作り手側から声がかかり、直接話をする機会が生まれた。自分から売り込むのではなく、想いが伝わる形でつながった出会いだった。

紅茶の淹れ方のこだわり

流れるように作業が進められていく

紅茶の淹れ方にも、山本さんなりの譲れないポイントがある。

沸き立てのお湯を使うこと、茶葉と湯量をきちんと計ること、ポットを事前に温めることなど。これらはすべて、紅茶の味を安定させるためだ。

ポットを温めずにお湯を注ぐと、温度が一気に下がってしまう。そのわずかな差が、香りや味わいに影響するという。

お湯を勢いよく注ぎ、茶葉がポットの中でくるくると対流する状態をつくるのも大切な工程だ。「全部やっているから回転率は悪いんです」と笑うが、省く気はない。おむすびと同じように、紅茶も“手を抜かないこと”が、この店の当たり前になっている。

おむすびづくりを支えるご飯との向き合い方

種類豊富なおむすび

こだわり1:おむすびの握り方

山本さんが大切にしているのは、「ごはんを潰さないこと」だ。ぎゅっと固めすぎると、口に入れたときにごはんが潰れてしまう。

一方で、軽すぎると、かじった瞬間に崩れてしまう。目指しているのは、そのちょうど真ん中。かじったときに、ほどけるように広がりながら、おむすびとしての形はきちんと保たれている状態だ。

「空気を握る」と言われる寿司の握り方に近いかもしれない、と山本さんは話す。一粒一粒を感じられる食感を残しながら、具とごはんが一体になるよう、力加減を調整している。

見た目よりも、食べたときの感覚を優先する。その考え方が、毎日の握り方に反映されている。

こだわり2:おむすびの具材

ブランド米を使用

このキッチンカーのおむすびの具材は、決まったレシピよりも、その日の感覚から生まれることが多い。定番の鮭や梅と並んで、海老マヨや豚肉の南蛮漬け、時にはカツオのマリネといった変わり種も並ぶ。

計算ではなく、その場のひらめきから生まれた組み合わせを採用することもあるとか。

ただし、奇をてらうことが目的ではない。大切にしているのは、「自分が食べておいしいと思えるかどうか」。料理の技術よりも、素材の相性や味のバランスを信じている。

毎日同じ味を出さないのは、変化をつけるためではなく、その日のベストを選んだ結果だ。特に日替わりの具材はこの店の自由さを象徴している。

こだわり3:米の産地と配合

おむすびの主役となる米は、無農薬の山形県産つや姫を使用している。

数多くの品種を食べ比べた結果、粘りが強すぎず、口ほどけのよさとまとまりの良さを併せ持つ点に惹かれたという。つや姫は、歯切れのよい食感がありながら、おむすびとして必要な粘りはきちんと残る。

握っても潰れにくく、冷めても食感が崩れにくい。そこに東温市産のもち麦を加えることで、噛みごたえと風味に奥行きを持たせている。

ごはんだけで食べても美味しい状態」を目指し、具材を引き立てる土台としての役割を担っている。

こだわり4:握る前に休ませる時間

お米を保温するためのレトロなジャー

このキッチンカーでは、炊き上がったごはんをすぐには握らない。一度「休ませる」時間を取ることが、工程の一部になっている。

炊き立てのごはんは、水分と熱を多く含んでいる。その状態で握ると、粒同士がうまくなじまず、口に入れたときにポロポロと崩れやすくなる。具との一体感も出にくい。

少し時間を置くことで、ごはんの表面の水分が落ち着き、粒同士が自然につながる状態になる。この段階で握ると、必要以上に力を入れなくても形が整い、ごはんを潰さずに済む。

「冷やす」のではなく、「休ませる」。ごはんの状態を見極めながら待つこの時間が、口ほどけのよさと、具とのなじみを支えている。

まとめ

公園とマッチする色合いの車

このキッチンカーのおむすびと紅茶には、すべてに理由がある。素材の選び方、握り方、ごはんを休ませる時間。どれも効率よりも感覚を優先した結果だ。

派手さはないからこそ無理がなく、続いている。「細々とやるつもりだった」という言葉どおり、肩肘張らずに立ち続けてきた場所が、いつの間にか人を集めていた。

後編では、なぜこの形を選び、一人で続けることにこだわるのか。山本さん自身の「想い」に、もう一歩踏み込んでいく。

後編はこちら

彩ムスヒ「山本ちあきさん」一人で続けるキッチンカーという選択【後編】|愛媛県松山市

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この記事を書いた人

世界のわたなべけん

地域に眠る人・場所・想いを取材し、 文章✕映像✕出版✕AIで編集、 世界に向けて発信しています。 神社仏閣、地域活動、仕事など、 現場に足を運び、空気感を伝えることを大切にしています。 地域の価値を最大化し、世界に届けるのがテーマです。

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