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フード  |    2026.03.24

ひなまつり彩る尾張の郷土菓子を米屋が作り伝える「おこしもの」

米伍代目善太郎Zentaro提供

愛知県の尾張地方・西三河地方を中心に伝わるひなまつりの郷土菓子「おこしもの」。地域によっては「おしもん」、「おこしもん」とも呼ばれ、桃の節句のお雛様に供えられてきました。

米粉を熱湯で練り上げ、型に押し固めて作る素朴な菓子で、家庭で手作りする風習も残っています。ひなまつりの時期には和菓子店やスーパーにも並び、尾張・名古屋の春を告げる風物詩として親しまれています。

名前の由来については諸説あり、型に押してつくる”押し物(おしもの)”に由来する説や、型から起こして外すことから”おこしもん”と呼ばれたという説もあります。

今回は、このおこしものを作る米屋「米伍代目善太郎Zentaro」の小川さんに話を伺いました。昔ながらの木型を使い、ひとつひとつ丁寧に仕上げながら、ひなまつりの味と米の食文化を伝えています。

地域の米屋が「おこしもの」を作り始めた理由

名古屋市千種区・上野天満宮のほど近くに店を構える米屋として日々お客様と接する中で、「おこしものは作らないの?」という声をいただくことがありました。

米粉で作る郷土菓子であれば、これまで米粉も扱ってきた米屋が手がけるのも自然なことかもしれない――そんな気づきが生まれたといいます。

さらに「美味しいおこしものをお雛様に供えたい」というお客様の思いも後押しとなり、地域のひなまつりに寄り添う形で、おこしものづくりを始めることになりました。

おこしものづくりの伝統を学びに

おこしものづくりを始めるにあたり、尾張地方の瀬戸市や西三河地方の知立市を訪ね、長く作り続けてきた方々から基本の工程を教わりました。米粉の練り具合や木型への押し方など、地域に受け継がれてきた技法を学んだといいます。

その際、「木型を作る職人が減っているから、今のうちに手に入れておいた方がいいよ」と助言を受け、知立で大切に作られた木型を購入。こうした出会いが、現在のおこしものづくりの土台になっています。

米屋ならではのこだわり

米を扱い続けてきた専門店としての経験は、おこしものづくりにも生かされています。

  • 米粉の粒度調整
    蒸したときにほどよい“もちっ”とした食感が出るよう、粒度を見極めて配合。
  • 水分量の設計
    口どけがよくなるよう、水分量を調整。
  • 蒸し上がりの工夫
    業務用バーナーで一気に蒸し上げ、最適なやわらかさに。

こうした丁寧な工程が、米屋ならではのおこしものの味わいを支えています。

おこしものの美味しい食べ方

おこしものは、ひなあられや菱餅と同じく、お雛様への大切なお供え物です。お供えしたあとは、家族で美味しくいただくのが昔からの習わしとされています。

そのまま食べれば、お米本来の素朴でやさしい味わい。蒸したてのやわらかな食感は、口に入れるとほろりとほどけ、自然な甘みが広がります。

おすすめは、軽く焼いて食べること。トースターで軽く焼くと表面が香ばしくなり、中はもちっとした食感に。砂糖醤油を絡めれば甘じょっぱさが加わり、どこか懐かしい味わいになります。

蒸したてと焼きの二つの美味しさを楽しめるのも魅力です。

おこしもの実食レポート

ひなまつり前の週末、2月28日限定で販売されたおこしものをいただきました。三種の木型で作られた鯛・梅・扇はどれも縁起がよく、筆による控えめな色付けが白い生地に映えて、かわいらしい佇まいです。

ひと口食べると、もちっとした弾力と、ほろりとほどける口どけが同時に訪れ、米の甘みがふわっと上品に広がります。砂糖醤油をつけると、甘じょっぱい“名古屋のおやつ感”が増し、ぐっと親しみのある味わいに。

お餅のように強く伸びないため、小さく切れば2歳前の子どもでも食べやすそうでした。家庭によっては子どもと一緒に粘土細工のように手作りすることもあると聞きます。今回、子どもと一緒に美味しくいただくことで、家族で楽しめる郷土菓子だと改めて感じました。

おにぎりや餅を通じて広がる、米を食べる文化

米伍代目善太郎Zentaroさんでは、おこしもののほかにも、おにぎり・お餅・一升餅など米にまつわる品を提供しています。

一升餅とは、子どもが1歳の誕生日に背負う伝統的な祝い餅のことで、尾張・名古屋の地域では、足の形をした一升餅で祝う風習があります。わが家でもお願いしたことがあり、地域の文化に触れた、印象深い思い出です。

土曜日限定のおにぎりはこの日も完売しており、人気の高さがうかがえます。店頭には、ふりかけやツナ缶などの“ごはんのお供”も並び、米を中心にした食卓が自然と浮かぶラインナップです。

「美味しいお米の味を知ってもらい、もっと食べてほしい」という思いが感じられます。

尾張・名古屋伝統の足形一升餅
店頭にはお餅のメニュー
学問の神様・上野天満宮が近いことから受験シーズンには合格祈願米も販売。
人気の手作りおにぎりのメニューと、奥に積まれているのはツナ缶。

米の消費量が減る今だからこそ

米文化を未来へつなぐために、米伍代目善太郎Zentaroさんの取り組みには、静かでやわらかな温かさが流れています。どの商品にも共通して感じられるのは、「美味しいお米を楽しんでほしい」という思いです。

米の消費量が減りつつある今でも、こうした日々の営みが、暮らしの中にある“米を味わう時間”をそっと思い出させてくれます。地域に根づいた文化を大切にしながら、日常の中で米の魅力を伝え続けるその姿勢には、米屋としての誇りとやさしさがにじみます。

産地ごとの米が並ぶ店内、店先には昔懐かしい精米機。

米伍代目善太郎Zentaro 小川屋米穀店

住所:愛知県名古屋市千種区天満通2丁目30
   Maison de R&O 1F
電話番号:052-711-5070
営業時間:10:00~18:00
定休日:日曜、祝日(年始・お盆)
公式サイト:https://zen-kome.com/

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この記事を書いた人

やまぐちゆかり

生粋の名古屋人ライター。地域の日常に息づくストーリーを、暮らしの視点から記事にします。趣味はまちあるきと甘いもの。一児の母。

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