近年、新しい表現の形として注目を集めているZINE。ZINE関連のイベントやZINEを取り扱う書店も全国に増えてきています。
イラストやエッセイ、写真など自分なりの表現を詰め込んだZINEは誰でも自由に、比較的簡単に作れるもの。どこにもない1冊が作れるのも、ZINEの魅力です。
そんなZINEづくりのワークショップを、瀬戸市の本屋さん「ひとしずく」で開催。当日の様子を主催者旅のトラウマ舎さん(以下、トラウマ舎さん)の声とともにお届けします。
「ZINE」で広がる出会いとつながり
講師のトラウマ舎さんは三重県・伊勢市を中心に、旅行に関する情報を発信しているライターさん。この日はせと末広町商店街で行われていた本の市「せと末広町 本のさんぽみち」にも出店されていました。
旅のトラウマ舎
伊勢を中心に、日本全国の旅行に関する情報を発信。
また、リトルプレス(ZINE)の出版・販売も行っている。(ブックイベントや伊勢市内の本屋、オンラインで販売)

輝く金髪と柔らかな三重弁が印象的なトラウマ舎さん。3日前から瀬戸に滞在し、イベントや観光を楽しんでいたそう。
トラウマ舎の名前の由来を尋ねると「ネガティブなワードを使いたかった」とのこと。
「旅って良いもの、楽しいものというイメージを持っている人が多いけど、それだけじゃないと思うんです。暗い気持ちで出発する旅や、寂しい気持ちになる旅があるかもしれない。そういうネガティブなワードと、旅を結び付けたかったんです」
そう言って笑うトラウマ舎さんは、闇と光が入り混じる旅の魅力を伝えたいのかもしれません。
トラウマ舎さんのZINEの世界
ワークショップでは、トラウマ舎さんが手掛けた過去のZINEも紹介。1番初めに作ったZINEが瀬戸市の旅行記だったことから、瀬戸市のイベントには顔を出すようにしているそうです。

記念すべき1冊目『トラウマ旅行記vol.1(愛知県瀬戸市)』は、手製本で作られた作品。
「手製本というのは、印刷会社さんからペラ(1枚の状態)で刷り上がってきたものを重ね、ホッチキスで留めて本にするんです。
200部刷ったんですけど、めちゃくちゃ大変でした。20枚近く重ねた紙をホッチキスで200回留めないといけない。大変だったので、手製本はこれしかやっていないです。楽しいし、おもしろいんですけどね」
苦笑いを浮かべながら苦労を語るトラウマ舎さんですが、なんと付録まで付けたそう。
「一緒に旅をして、写真を撮ってくれたりデザインをしてくれている友人・ヤギュウと作った箸置きを付録として付けました。200個に対して80個くらいしか作れなかったので、残りは1年後、もう一度瀬戸に行った後日談を『VOL1.1』として付録に。これも言ってみれば、手作業なのかもしれません」
ZINEは売り方も見せ方も制作者しだい。アイデアひとつで形を変えるのも、ZINEのおもしろさなのでしょう。

2冊目『トラウマ旅行記vol.2 (奈良県奈良市)』は製本を印刷会社に依頼。納品されたZINEの表紙を自分たちで破ったと話します。
「表紙を破ることで、僕とヤギュウが覗くようになっています。それと、このZINEは中に現像した写真を挟み込んだんです。写真を取らないと文章が読めないようになっています。ちなみに、写真もそれぞれ違うものです。
ランダム要素があると作る側も楽しいし、選ぶ側も自分の気に入ったものを手に取れる。手製本とは違う大変さもありましたけどね」
1冊ごとにカッターマットを挟み、写真用に切り込みを入れたそう。机に山積みになった写真から1枚ずつ、決められたページに挟む作業も大変だったと笑います。

3冊目『トラウマ旅行記vol.3 (和歌山県和歌山市・海南市・有田市)』には、フリーハンドでイラストを。

「旅先にみかんの成分で作られたクレヨンが売っていたんです。そのクレヨンで伊勢に帰ってきてから絵を描きました。手作業としては割と少なめです」
みかんの香りがしてきそうなかわいらしいイラスト。もちろん、ひとつとして同じ形は存在しません。
「もうひとつ考えているのは、みかんネットに入れて販売すること。和歌山の有田みかんと一緒にネットに入れるんです。本屋さんには嫌がられると思うんで、自分で売ろうと思っています」
いたずらっ子のような顔でそう話すトラウマ舎さん。どんな遊び心が次に飛び出すのか、思わず気になってしまいます。
手作業のおもしろさと悩ましさ
「色々やろうと思えばどこまでもやれるんですけど、その分大変にはなります」
手を動かすからこそ見えてくる、楽しさとつらさ。ZINEづくりのおもしろみとささやかな悩みについても、トラウマ舎さんは語ってくれました。
「印刷会社から納品されたものを、そのまま販売することもできるんです。でもそこに手を加えることで愛着が湧きます。誰かと一緒に作れば『次はこうしよう』『こういうのもおもしろいよね』そんな会話も生まれる。手作業をすることで、アイデアが連鎖的に出てくるんです。
それと、購入者には『自分だけのもの』のように感じてもらえるとも思います。手作業で作られたZINEは本当にムラがあるので。
大変なのは意外と孤独なこと。誰かと一緒に作業していればいいんですけど、ひとりでやっていると黙々と手を動かしているだけ。切って、破って、貼ってをずっと繰り返していると、ノイローゼになるかもしれません(笑)」
そう言って笑うトラウマ舎さんは「あまり気張らなくていい。いろいろやってみて、しっくりくるものを選べばいい」とアドバイスを送ってくれました。
ワークショップの様子

今回はトラウマ舎さんに用意してもらった資料を使い、6ページのZINEを作成。資料を手にした途端会場がざわめき、楽しそうな声や嬉しそうな笑顔がこぼれていました。


こちらの資料はアレンジ用に。シールやクレヨン、クリップやタコ糸などもテーブルに並び、図工室のような雰囲気に場がにぎやかに盛り上がります。




切ったり、貼ったり、塗ったり、つないだり…。ひとたび作業が始まればみんな真剣。それぞれのアイデアとそれぞれの表現で、世界でたった1冊のZINEを作り上げていきます。

一番緊張するのがホッチキスでの作業。「留める部分を山折り&谷折り」「全体重をかける」ことがポイントだとか。ずれたホッチキスも、味になるのかもしれません。
完成後はそれぞれの作品をシェア。こだわりのポイントも添えてくれました。

今回のイベント「本のさんぽみち」のスタンプラリーと、トラウマ舎さんの名刺を留めた作品。ZINEの中に今日の思い出をそっと残します。

インパクト抜群の蛍光イエローの表紙。見るだけで元気が出そうな色合いです。

縦長の写真をめくると一言コメントが。「めくってみてね!!」の文字が自然と笑顔にさせてくれます。

こちらは自身でZINEも制作している女性の作品。パンチで開けた穴や垂れたタコ糸が、作り手のこだわりや個性を伝えています。「制作のアイデアが広がりました」と笑顔で話してくれました。
友人に誘われて参加した人や、当日ワークショップを知って思わず参加した人など、さまざまなきっかけで集まった参加者たち。思い思いに手を動かし、自分だけの1冊にひらめきとときめきを自由に散りばめていました。
ZINEの魅力
「自分の文章をそのまま世に出したかった」と語るトラウマ舎さん。
「ZINEは自由なんです。ちゃんと綴(と)じてもいいし、1枚のペラでもいい。文章だけでも写真だけでも、イラストだけでもいい。
その先の流通部分もおもしろい。瀬戸の旅行記を瀬戸市の本屋さんにおいてもらったり、和歌山の旅行記を和歌山県の本屋さんが置いてくれたり。
購入してくれた人と話すのも楽しいし、ワークショップの場が設けられるのもうれしい。そういうつながりができるのも、ZINEの魅力だと思います」
笑顔で語るトラウマ舎さんは、ZINEづくりを通して自分を表現する楽しさと、人と人、場所と場所がゆるやかにつながっていく心地よさを教えてくれました。
1冊のZINEがくれるひと時
上手に作ろうとしなくてもいい。きれいにまとめようとしなくてもいい。
「好き」と「ひらめき」をそのまま閉じ込めれば、小さくても確かな1冊が生まれます。
紙を選び、写真を並べ、言葉を置いていく時間は、日々の慌ただしさから自分を取り戻してくれるひととき。完成したZINEを目にした瞬間、自分だけの物語が感じられるでしょう。
さあ、あなたもZINEを作ってみませんか?
※本「ひとしずく」ではそのほかのワークショップも開催中!
詳しくは公式Instagramから
住所:愛知県瀬戸市陶生町24(名鉄瀬戸線「尾張瀬戸駅」から徒歩約10~15分)
営業日:木〜日 10:00〜16:30(祝日も営業/月・火・水曜は定休日)
駐車場:近くの宮川駐車場が利用可能




