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フード  |    2026.05.24

一軒家イタリアン Snow goose(スノー グース)、19年かけて育てた家族の味 |中村橋駅

中村橋駅から徒歩2分、住宅街の路地裏にひっそりと佇む一軒家イタリアン「Snow goose(スノーグース)」。2007年にオープンし、中村橋で愛され続けて19年を迎えるお店です。

扉を開けると、アンティークのステンドグラスが柔らかな光を落とし、石窯からはピッツァの香ばしい匂いが漂ってくる。今回は、実際にいただいた料理の感動と、オーナー・嶋田奈々子さんへのインタビューを通じて見えてきた、このお店が愛される理由をお届けします。

ナポリピッツァのランチセット

サラダ+ワンドリンク付のランチメニュー

今回いただいたのはナポリピッツァのランチセット。

まず運ばれてきたグリーンサラダ。新鮮な葉野菜にかかったドレッシングが、とにかく美味しい……!酸味と旨みのバランスが絶妙で、野菜そのものの味をしっかり引き立てながらも、ドレッシングだけでもう一品の料理として成立するような奥深さがあります。

思わず「ボウル大盛りで持ち帰りたい」とつぶやいてしまったほど。野菜が苦手な人でも、このサラダなら好きになってしまうのではないでしょうか。

続いて、看板メニューの石窯ナポリピッツァ。

テーブルに運ばれてきた瞬間、焼きたての生地とバジルの鮮烈な香りがふわっと広がります。口にする前から、もう美味しいことが伝わってきました。

今回注文したのは「ロマーナ」。アンチョビの程よい塩味がアクセントとなり、オリーブの風味がそこに重なります。そしてひと口噛みしめるたびに感じるフルーティーな甘み…… これはトマトソースでしょうか。生地の香ばしさやアンチョビの塩気と見事に調和しています。

生地はとにかく軽い。驚くほど軽いのです。もちっとした弾力はありながらも胃にもたれる重さが一切なく、気づけば一枚をペロリと平らげていました。

「ピザは重くて食べづらい」という年配のお客様からも、このお店のメニューはどれも食べやすいと好評だそうです。

「最初は『こんなに大きいの食べられないわ…!』っておっしゃる人もいるんですけど、大体残らないですね」と奈々子さんも嬉しそうに話していました。

ピッツァへのこだわり | 手練り・48時間低温発酵・特注石窯

この「軽さ」の裏には、生地の仕込みから焼き上げまで、ご夫婦の並々ならぬこだわりが詰まっています。

生地には国産小麦を使用し、機械を使わず毎日手作業で練り上げます。オリジナルのレシピに基づき、約48時間かけてじっくり低温発酵させることで、粉の旨みが引き出され、耳までもちもちとした食感が生まれるのだそうです。毎日手間暇かけて仕込むため、提供は数量限定。

焼き上げに使うのは、お店のシンボルでもある赤いモザイクタイルの石窯。国内メーカーに特注で作らせたもので、450〜500度という高温で一気に焼き上げます。この短時間の高温調理が、ナポリピッツァ特有の香ばしい表面ともちっとした内側のコントラストを生み出しています。

定番のマルゲリータをはじめ、葉ニンニクが香るマリナーラ、ベーコンと半熟卵が乗ったビスマルクなど、ランチでは常時7種類ほどが揃い、どれを選ぶか迷うのも楽しいところ。

複数人で来ればピッツァとパスタをシェアするのが定番の楽しみ方で、リピーターが多いのも頷けます。

週替わりメニューも魅力的です。

オーナーの「大好き」が詰まった空間

手渡されたおしぼりの色に、ふと目が留まります。テーブルごとに異なる椅子の形状や色、壁に掛けられたポスター、棚の上の小物たち。そしてステンドグラスのランプが落とす柔らかな光。視線を動かすたびに、空間の隅々にまで行き届いた奈々子さんのこだわりを感じます。

「とにかくインテリアが大好きなんです。本当に大好きで…!」と語ります。

開業時、この店の看板をステンドグラス作家の女性に依頼したことがきっかけで、その方の作品に惹かれるようになったそうです。店内に飾られたステンドグラスのランプやパネルは、いくつかのイミテーションを除いてすべて本物。柔らかな光を落とすそれらが、この小さな一軒家にヨーロッパの空気をまとわせています。

お店を始めてから、お客さんが店内の雰囲気を「素敵ですね」と言ってくれるようになり、大満足だと顔をほころばせます。自分の好きなものを存分に表現できるこの場所は、奈々子さんにとってかけがえのない空間なのでしょう。

取材で初めて訪れた際、19年の歳月を感じさせない清々しさに驚きました。常に手を入れ、更新し続ける奈々子さんの美意識が、この空間を保っているのだと実感します。

子供部屋を壊して始めた、たった一人のカフェ

この「大好き」が詰まった一軒家レストランの原点は、19年前にさかのぼります。

オーナーがここでカフェを開いたとき、この場所はまだ自宅の子供部屋でした。それ以前は専業主婦で、飲食の経験はゼロ。資金は近所のファーストフード店で3年間アルバイトをして貯めました。内装は大工仕事が得意なご主人と二人で、壁紙を剥がし珪藻土を塗り、自分たちの手で作り上げたそうです。

「いつか絶対ここで何かやりたいと思っていたんです。でも何をやるかは決めていなくて」

最初は週3日、一人で切り盛りするカフェでした。豆カレーやスープカレー、ハンバーグ定食を週替わりで出し、近隣のママたちの憩いの場になっていきます。

店名の「Snow goose」は、知人に教えてもらった白いミニバラの品種名。現在は「夢乙女」というピンクのバラが玄関のアーチを彩り、5月には満開の花が来客を迎えます。

息子との合流でイタリアンへ、そして高知への巣立ち

開業から約3年後、イタリア料理店で働いていた息子・恭平さんを呼び寄せたことが転機となりました。石窯を導入してピッツァを看板に据え、料理を全てイタリアンに一新。息子が厨房、母がホールという体制で、カフェから一軒家イタリアンへと生まれ変わります。

ご主人・和真さんと、息子・恭平さんの厨房での様子(画像提供:嶋田奈々子さん)

約4年前、恭平さんは家族とともに高知県香美市へ移住し、土佐山田町でナチュラルワインと季節料理のレストラン「ALO(アロ)」を夫婦で開業しました。「Snow goose」の常連客がわざわざ高知まで食べに行くこともあるそうで、親子の味の絆は距離を超えて確かにつながっています。

病を経たリノベーション、二人の再出発

息子の独立後はご夫婦二人の体制に。2024年に奈々子さんが病に倒れたことをきっかけに夜営業をやめ、ランチに専念することを決めました。

2026年1月からは2ヶ月間休業して全面リノベーションも敢行。高すぎたカウンターの椅子は低くして、子どもや高齢者も座れるようにし、アンティーク窓を再利用した観音開きの扉を新調しました。「あと何年仕事ができるか」を見据えた、覚悟の改装だったようです。

リニューアルオープンを待ちわびていた常連客が一斉に訪れてくれたときは、本当に嬉しかったそうです。

家族で作り上げてきたお店を、これからも

19年の間、店の柱には、常連の子どもたちの身長が刻まれてきました。かつてハイハイしていた赤ちゃんは成長し、やがて恋人を連れて来店するように。「そういう出会いと成長を見届けられるのは、この場所で店をやっている特権ですよね」と奈々子さんは微笑みます。

「身体が動く限り、このお店を続けたい」。

もともと飲食業とは全く異なる仕事をしていたご主人・和真さんも、19年の間にお客様と会うことが好きになったといいます。これまで衝突することもあったけれど、お店への思い入れは二人とも同じ。かつて一緒に厨房に立った息子・恭平さんの存在も含めて、家族で作り上げてきたからこその温もりが、この小さな一軒家には満ちています。

一人でも、友人とでも、家族とでも。路地裏の隠れ家で、オーナー・奈々子さんのこだわりに包まれながらいただく一皿は、きっとまた来たくなる味です。ぜひ一度、足を運んでみてください。

Snow goose(スノー グース)

営業時間:11時30分~14時30分
定休日 :水曜日/不定期で臨時休業あり
     ※Instagram で月次の営業カレンダーをお知らせしています。

Instagram:@snowgoose.nakabashi

アクセス

西武池袋線「中村橋駅」徒歩2分

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この記事を書いた人

大崎アイ

和歌山県那智勝浦町出身、東京在住。フリーランス。 地元の人が「ここはなにもない」と言う土地にこそ、その町ならではの個性や面白さがあると思っています。一人旅や短期滞在型のお手伝いを通して各地を訪れながら、景色や観光スポットだけでなく、そこで生きる人や個人商店、ローカルプロダクトの背景にある想いに目を向けています。

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