千葉県船橋市に、すてきなカフェがある。その名も「Cafe co soffritto(カフェコッソリ)」。心が少し疲れた人、話を聞いてもらいたい人、ただ静かにコーヒーを飲みたい人──そんな人達が立ち寄れる場所として2024年9月にオープンしました。
店を切り盛りするのは、心の病と長年向き合ってきた、店長の山中希望さんと副店長の川奈部大樹さん。 今回はその二人に店に込めた想いと、これまで歩んできた道のりを伺いました。
店名「コッソリ」に込められた想いやコンセプト

「カフェコッソリ」という店名には、山中さんの想いが込められています。
学生時代に精神疾患を抱えた経験をもつ山中さん。当時は病院に通っていたものの薬を処方されるだけで、状況は変わらない日々が続いていたといいます。
そんな中で山中さんが感じていたのは、「薬よりも、誰かにただ話を聞いてもらえる環境こそが必要なのではないか」という想いでした。
「自分の知らない人たちが行き来してて。 でも別に疎外感を感じるわけではなく、その空間の人になってる感じ。 そこで気軽に悩みを打ち明け、ちょうどいい距離感を保って話を聞いてくれる人がいて、そういう場所が欲しいな」
こっそり立ち寄れて、気持ちを吐き出せる。そんな「ふっと息をつける場所」への願いが、そのまま店名になっています。
そしてお店のコンセプトとなっているのが、イタリア料理の基本となる「ソフリット(香味野菜の料理のベース)」という考え方です。
「野菜って、個々で見ていったらそれしか味は出せないし引き出せないけど、いろんな野菜を組み合わせてあげることによって、どんな料理にでもなっていくんだな、って。それ、人間も一緒だなって思ったんです」
ひとりでは出せない味も、組み合わさることで無限の可能性に変わる。傷ついた人も、迷っている人も、それぞれが異なる個性や経験を持っています。人が集まり言葉を交わし、互いの存在を知ることで、ひとりでは気づけなかった新しい自分を発見できる。
「カフェコッソリ」は、そんな場所を目指しています。
山中さんと川奈部さんのこれまでの歩み

「カフェコッソリ」を運営する山中さんと川奈部さんは、心の悩みと向き合ってきた経験を持っています。
山中さんが心身の不調に襲われたのは、看護学部に通っていた大学生のときのことでした。
「大学2年の後半くらいの時期に突然、身体を動かすことができなくなったんです」
診断は自律神経失調症、適応障害、そしてうつ。医師から病気と告げられたとき、山中さんは自分の病気を受け入れられませんでした。実は山中さんは、幼少期から「マイナスの感情を出さない子」でした。いじめを受けてもポジティブに変換していたと言います。
「いじめられているっていうことは、私に興味があるってことだよね。すごい幸せじゃない?──みたいな感じでした」
周囲からは「仏」と呼ばれるほどの穏やかさ。しかしそれは、マイナスの感情に蓋をして自分を守るための、必死の手段でした。カウンセリングを受けて初めて気付いたと、山中さんは語りました。
そして27〜8歳のときから、少しずつ自分のマイナスの感情を受け入れられるようになっていき、抑え込んでいた感情が一気にあふれ出しました。
「悲しいし、怒りも湧くし、悔しいとか、いろんな感情がぶわーって出てきて、パニックになっちゃって」
長年閉じ込めてきた自分の感情と向き合ってきた経験こそが、山中さんが「ありのままの自分でいられる場所」を求めるようになった原点でした。
一方、副店長の川奈部さんが歩んできた道もまた、決して平坦ではありませんでした。きっかけは、小学校4年生のころ。
「人に教えたがる性格がちょっと行き過ぎちゃって、みんなからちょっと嫌われて。そこから人から怒られるのが怖くなったんです」
川奈部さんは人が怖くなり感情を表に出せなくなったことで、小学校・中学校・高校と自分をうまく表現できないまま過ごしました。
その後、大学へ進学しましたが、入学早々に電車に乗れなくなってしまいます。病院を受診したところ、「統合失調症」と診断されました。病気の影響で大学への通学が困難になり、退学を余儀なくされます。
その後、デイケアに通いながら回復に取り組み、別の大学に入り直して無事卒業を果たしました。卒業後は就職しましたが、しばらくの間は職場を転々とする時期が続いたそうです。
一番つらかった時期と、支えになったもの

「一番つらかった時はいつですか」という問いに、山中さんは少し考えてから、ゆっくり答えてくれました。
「ちゃんと自分の感情を認識してからだと思います。マイナスな感情が自分にもあるんだって気づいた時が、一番しんどかった」
長年「ポジティブ変換」で自分を守ってきたため、ネガティブな感情を受け入れるのが大変だったと言います。けれど、その山中さんを支えたのは「自分のお店を持ちたい」という夢でした。その夢があったからこそ、今の自分がいると山中さんは語ります。
一方、川奈部さんが最もつらかった時期は、人と関わることそのものができなくなった20歳前後だったと言います。電車に乗れず、大学にも通えず幻聴に怯えた日々。
そんな川奈部さんを少しずつ前へと押し出してくれたのが、ラテアートでした。一杯のカップに絵を描き、お客様に手渡したときの「ありがとう」「かわいい」という言葉。
「最初は仕事だからって描いてたんですけど、喜んでもらえるなって思ったら、楽しくなっちゃって」
人が怖くて仕方ありませんでしたが、人に喜ばれることで、もう一度自分を信じられるようになったそうです。
「無駄なことはないんだなっていうのは、今は思いますね」。苦しい時間をくぐり抜けてきた川奈部さんが語るからこそ、響いてくる言葉でした。
あの頃の自分へ、そして読者へ届けたい言葉

「あの頃の自分に、今かけてあげたい言葉は何ですか」と尋ねると山中さんは、しばらく目を伏せた後、こう言いました。
「頑張っててくれてありがとね、って。その時の自分なりに、自分のことを守ってた。守ってくれてたから今の自分がいる。安心してねって。今は楽になってるよ、って伝えてあげたいですね」
過去の自分にただ「ありがとう」と感謝する。その言葉に、長い時間をかけて自分自身と向き合い続けてきた山中さんの強さを感じました。
「我々は経験とか全部オープンに話してるんで。それを聞いた人が、自分も何かできるかもしれないとか、変わるかもしれないって思ってもらえたら嬉しいですね」
二人が目指しているのは、誰もがありのままの自分でいられる場所。これまでの経験を生かして誰かのために動き続ける二人の姿は「自分も前に進まないと」と思わせてくれます。
ぜひ、心が疲れたときやちょっと癒されたいとき、ふらりと立ち寄ってみてください。
店舗情報
「カフェコッソリ」
住所:千葉県船橋市高根台4-22-6
営業時間:10:00~18:00
定休日:月・火曜日
TEL:047-707-2230
アクセス:京成松戸線「高根木戸駅」から徒歩7分
京成松戸線「北習志野駅」から徒歩15分
メールアドレス:kokorokarada220@gmail.com
公式facebook:Facebook




