静岡県沼津市にある「自家焙煎珈琲屋 花野子」は、こだわり抜かれた一杯が楽しめる喫茶店です。オーナーの斎藤さんは脱サラ後、東京の名店「カフェ・バッハ」で修行を積み、豆の選別から焙煎、抽出まで一切妥協せず向き合ってきました。
「珈琲はただ飲むだけじゃない、時間を楽しむもの」そんな想いが詰まった一杯の魅力を、この記事でじっくりお届けします。
脱サラから始まった珈琲の道
斎藤さんが「花野子」を開業したのは、40歳を過ぎた頃でした。それまでの安定した会社員生活を手放し、新たな人生を珈琲と共に歩む覚悟を決めました。
「このまま定年を迎える人生でいいのか?」という問いが心の中に広がり、東京の名店『カフェ・バッハ』の門を叩いたそうです。1年間の修行では、技術や知識だけでなく、珈琲と真摯に向き合う姿勢を学びました。焙煎の温度、湿度、香り、味わい、すべてが繊細なバランスの上に成り立っていることを知ったといいます。
脱サラから始まった「花野子」は、単なる珈琲ショップではなく、斎藤さんの人生そのものが詰まった場所になりました。
花野子の珈琲に込めるこだわり
「オンリーワンでなければ意味がない」斎藤さんはその言葉を胸に、誰にも真似できない珈琲づくりを追求してきました。
豆の選別、焙煎、抽出、どの工程にも一切の妥協はありません。特に選別作業では、豆一粒一粒を確認し、色や形のわずかな違いを見極め、欠点豆を取り除くことを徹底しています。そして、焙煎後にも再びハンドピックを行い、最後まで品質を守り抜きます。その緻密な作業の積み重ねが、雑味のない深い味わいを生み出しています。
このこだわりの礎には、東京の名店「カフェ・バッハ」での修行があります。斎藤さんはそこで1年間、豆の選別から焙煎、抽出までを徹底的に学びました。珈琲は一見シンプルに見える飲み物ですが、温度、湿度、時間、そして豆の個性を見極める力がすべて味に影響することを実感したといいます。そして「オンリーワンであること」の重要性を教わり、その精神をそのまま「花野子」の珈琲づくりに活かしています。
「珈琲はただ飲むだけのものではなく、時間を楽しむもの。お客様には、ここで特別な時間を過ごしてほしい」と斎藤さんは語ります。その一杯には、職人としての誇りと情熱、そして学び続ける姿勢が込められています。
珈琲の品質は「一粒の選別」から始まる
花野子の珈琲は豆を選別するところから他のお店とは違います。生豆の状態で豆を仕入れて、焙煎前にハンドピックを行います。一粒一粒の色や形のわずかな違いを見極め、欠点豆を丁寧に取り除いています。
斎藤さんは修行中、豆の選別にも膨大な時間を費やしました。1年間にわたる修行期間では、毎日数時間、集中してこの作業を繰り返しました。
「初めは4時間かけても一度の選別が終わらなかった」と斎藤さんは振り返ります。それでも諦めることなく、毎日繰り返し続けることで、次第に目が慣れ、手が覚え、精度とスピードが向上していったそうです。
この繊細な作業が、雑味のない、透き通った味わいの珈琲を生み出す基盤になります。斎藤さんは「豆の選別は単なる作業ではなく、珈琲づくりの要です」と語ります。何よりも基本を大切にすること。それが「花野子」の珈琲づくりの根底にあります。
「生豆と焙煎が8割」—珈琲の味を決める職人技
「珈琲は生豆と焙煎までで8割が決まる」斎藤さんはその信念を胸に、日々焙煎を行っています。豆ごとに異なる個性を見極め、温度や湿度、時間を繊細にコントロールしながら、最適な状態へと焙煎します。焙煎は天候にも左右されるため、湿度や気温の変化にも細心の注意が必要だそうです。
すべての豆が均一な色合いに焼き上がるようにすることは簡単ではありません。焙煎中は豆の音、色、香りを頼りに、わずかな変化も見逃さず時間を調整します。少しでも焼き加減が違えば、珈琲全体の味わいに影響が出てしまうからです。
そして、焙煎後には必ずハンドピックを行い、再度欠点豆を取り除きます。この作業は単調に見えますが、職人の目と手が頼りです。
さらに、斎藤さんは「珈琲豆は生物であり鮮度が命だ」と話します。豆は焙煎後も呼吸し続けるため、焙煎後の管理も味を左右する重要な工程の一つです。新鮮な豆は香り高く、澄んだ味わいをもたらします。
この日々の積み重ねと繊細な技術が、「花野子」の一杯一杯にしっかりと息づいています。
一杯の珈琲が紡ぐ、特別な時間
「花野子」は単に珈琲を提供する場所ではありません。ここは時間を楽しむ場所です。
木の温もりを感じる店内、カウンター越しに聞こえる斎藤さんの温かな声。カウンター席にはいつも常連客が集い、斎藤さんとの会話を楽しみながら、ゆったりとした時間が流れています。そのやり取りには、初めて訪れた人でも自然と笑顔になれる、温かな空気が漂っています。
珈琲の味はいつ訪れても変わることなく、美味しさが保たれています。しかし、その時々で一番美味しい豆を仕入れているため、メニューは変わることがあります。季節やその時々の豆の個性を活かし、最高の一杯を届ける。その柔軟さこそが「花野子」の魅力です。
そして驚くのが珈琲の種類の多さです。常時20種類以上の珈琲が提供されています。メニュー表には珈琲の特徴が種類ごと一つひとつ丁寧に記載されていて、選ぶのが楽しくなります。
さらに「花野子」では、珈琲を注ぐカップにも特別なこだわりがあります。斎藤さんは、お客様一人ひとりのイメージに合わせてカップを選び、その一杯がより特別な時間になるよう心を込めています。「今日はどんなカップかな?」と期待しながら待つ時間も「花野子」での楽しみの一つです。
忙しい日常から少し離れ、ホッと一息つける空間。訪れるたびに変わらない美味しさと、新しい出会いが共存する。そんな特別な時間が「花野子」には広がっています。
100年先へ—「花野子」に込めた未来への想い
「花野子」は、斎藤さんにとって人生そのものです。日々珈琲と向き合い、豆一粒一粒に心を込めて向き合う姿勢は、次世代にもしっかりと受け継がれています。
「80歳までこのお店に立ち続けたいですね。そして、できればここでパタッと倒れて、そのまま人生を終えられたら最高です(笑)」と、斎藤さんは楽しそうに語ります。さらに「このお店を100年続く店にしたい」とも話します。それは単なる目標ではなく、珈琲づくりへの情熱とお客様への感謝、そして未来への強い意志を感じさせる言葉です。
その言葉には、仕事への熱意を超えた人生を賭けた愛情と覚悟がにじみます。「花野子」は、斎藤さんにとってただの珈琲店ではなく、生きる舞台そのもの。その想いは日々の一杯にしっかりと込められています。
これから先、次世代へバトンを渡す日が来るかもしれません。しかし、斎藤さんの想い、姿勢、そして「花野子」の味は、時代が変わっても決して揺らぐことなく、ここで生き続けるでしょう。
ぜひ一度、「花野子」の扉を開けて、斎藤さんが心を込めて淹れる特別な一杯を味わってみてください。きっと忘れられない時間が待っています。
店舗情報
自家焙煎珈琲屋 花野子
住所: 〒410-0875 静岡県沼津市今沢383-1
営業時間: 10:00~18:00
定休日: 無休
駐車場: あり
TEL: 055-969-2830
MAIL: info@cafe-kanoko.com