長い間、開通が待ち望まれていたトンネル…。それが『上曽トンネル』です! 上曽は「あげそ」ではなく『うわそ』と読みます。
「上曽トンネル…? どこに開通したんですか?」
茨城県の桜川市の真壁(まかべ)地区と、石岡市の八郷(やさと)地区の間です。

この両地区は、八溝山地(南部は筑波山地)という南北に伸びる山々に隔てられてきました。有名な筑波山や加波山などの山がそびえており、峠を越えるしかなかったんです。特に、筑波山と加波山の間には「上曽峠」があって、峠道が真壁と八郷をつなぐ重要な交通路でした。しかし、雪が積もると交通ができなくなります。ずっと交通の難所だとされてきたのです。
2025年9月27日の午後3時、ついに上曽トンネルが開通し、供用が開始されました。この地域の住民の方の喜びや、いかばかりか…!
本記事では、その歴史と地理を紹介していきたい、と思います。
上曽トンネルの地理
まず、ざっと地理をおさらいしましょう。「西から東に」トンネルを抜けるイメージで行きます。
上曽トンネルの西の出入り口は桜川市です。

真壁の市街地のすぐ近く。トンネルの長さは3,538メートル。茨城県内「最長」のトンネル(開通時)とされています。トンネル内は基本、ずっとまっすぐに伸びていき、じきに、東に抜けます。東の出口は、石岡市の八郷地区。

…八郷地区は、いわゆる「八郷盆地」に当たります。つまり、周りを山に囲まれているのです。
盆地の西側は、この上曽トンネルが開通しました。
北側には「道祖神峠」や「板敷峠」という峠道が通っていて、笠間市の方向に行けます。

南側には「朝日峠」がありますが、こちらは2012年に「朝日トンネル」が開通済みです。土浦市やつくば市方面に抜けることができます。

東側には、石岡の市街地への道が伸びています。
「…四方八方を山に囲まれているんですか?」
いえ、比較的、盆地の東側は山が少なく、言わばアルファベットの『C』の形に似ています。西、北、南の三方を山に囲まれている…と言えましょう。南側に朝日トンネルが先にできて、このたび、西側に上曽トンネルが開通した…というわけです。
「八郷盆地とは、どのような盆地なのですか?」
鉄道に詳しい方なら、この盆地に「鉄道が走っていない」ことをご存じかもしれません。
というのも、八郷盆地には1912年に気象庁の地磁気観測所が移転してきて、観測の邪魔になってしまうために「鉄道を敷設することができなかった」のです。それまでは東京に置かれていたのですが、物理学者の寺田寅彦たちが、磁化しにくい花崗岩地帯で磁気的に安定しているこの地に移転させた…とも言われています。
鉄道が通らなかったため、八郷盆地では近代的な都市化が進んでいかず、穏やかな田園風景が広がることになりました。

いちご農家や果樹園も多く見られます。そう、手つかずの自然、という感じではなく、「自然と人間が共存している雰囲気」を豊かに感じられる盆地なのです。
上曽峠の歴史
「鉄道が通っていなかった…。上曽トンネルが開通する以前は、西と東の行き来は『上曽峠』などの峠道を越えていた…? でも、わざわざ峠を越していく用事が、そんなに頻繁にあったのでしょうか?」
ええ、大ありでした。というのも、鉄道も自動車も無い江戸時代までは、この峠を越して物資を運ぶことがとても重要な流通活動だったのです。
「…なぜ? 筑波山の南を迂回したり、笠間や水戸のあたりまで出て、北から迂回したりすれば良かったのでは?」
それを考えるには、昔の『水運』の重要性を考えなければなりません。昔は物資や人を運ぶのに水運、つまり海や湖、川を使うことが非常に重要でした。茨城県の代表的な湖、と言えばどこでしょうか?
「霞ヶ浦ですね」
太平洋から内陸、霞ヶ浦へと入り、湖岸の「高浜」という港まで運ばれた物資は、この地を流れる「恋瀬川」をさかのぼって、盆地の中心にある柿岡、さらに上曽の地まで運ばれていきました。そこから、人や馬などを使って、峠を越えて物資を運んでいったのです。柿岡や上曽の地には宿場が置かれていました。
「…どこに運んだんですか?」
現在の筑西市の中心、下館(しもだて)の街へ。さらに北西に進み、宇都宮の街へ…!
「なるほど! 上曽峠を越えることで、南北に迂回することなく、最短距離で八溝山地(筑波山地)を越えることができた。だから、峠越えをする人が多かったんですね!」
現在のように鉄道や自動車が使えれば、陸上での輸送も容易でしょう。多少の回り道をしてもいい。しかし昔は、陸上で物を運ぶことが今よりもはるかに大変なことだったのです。ゆえに、迂回して移動距離が遠くなるよりも、頑張って「峠を越えて」物資を運んでいた…。
ちなみに、上曽峠の近くにある山の名前をご存じですか?
「南の筑波山と北の加波山の中間だから、やはり『波』がつく山でしょうか?」
違います。その名もずばり「きのこ山」!

「ずいぶんかわいくて、美味しそうな名前ですね」
このきのこ山の頂上付近には、ハンググライダーやパラグライダーの離陸場が設置されています。そこから眺める眼下の風景は、もう、素晴らしい、の一言に尽きるのです。このほぼ真下に、上曽トンネルが通っています。

上曽トンネルの近くで観光を
では、この上曽トンネルの近くのおすすめスポットを、いくつか紹介していきましょう!
まず、このトンネルの近くには、美味しいお蕎麦屋さんが点在しています。というのも、西の桜川市側でも東の石岡市側でも蕎麦が栽培されているんです。

茨城県のブランドである『常陸秋そば』を提供するお店も多く見られます。八郷地区では「やさとそば街道」と呼ばれているそば処で、お蕎麦屋さん巡りも楽しそうですね!
次に、南の朝日トンネルと西の上曽トンネルの中間地点にある『いばらきフラワーパーク』。

八郷地区を代表する観光スポットです。見事なバラをはじめ、季節の花々が楽しめます。パークの前にある駐車場はとても広くて、ベンチで休憩することもできます。パンとコーヒーで一息つくのも良いですね!
他にも、トンネルを西に抜けたところにある真壁の街は「ひなまつり」で特に有名。

もちろん、筑波山は昔からの観光スポットです。その頂上付近から眺める伸びやかな関東平野の風景は、あなたに忘れることができない感動をもたらしてくれるでしょう。

さあ、いかがでしょう?
「上曽トンネル」を抜けて、八郷地区や真壁地区などを巡ってみたくなりましたか?
石岡の街をさらに東に進めば、茨城空港もあります。
南東の茨城空港、北西の宇都宮。その中間地点で開通した上曽トンネルは、茨城県内だけでなく、栃木県、日本中、ひいては世界に向けて魅力を開通させていくようなポテンシャルを秘めているように思うのです。
上曽トンネル
〒315-0157 茨城県石岡市上曽2476
◆公共交通機関:八郷盆地には鉄道が通っていないために、鉄道で行くことはできません。最寄りの駅は、JR常磐線の羽鳥駅です。バスで上曽トンネルに向かうのは難しい、と思われます。なお、いばらきフラワーパークには、羽鳥駅の南隣の石岡駅や、つくば駅からバスが出ています。
◆自動車:最寄りのインターは、常磐自動車道の石岡小美玉スマートインターです。インターを降りて八郷地区方面に西に向かい、柿岡の市街地を抜けて、フルーツラインを越えれば石岡市側の出入り口に着きます。桜川市側の出入り口は、真壁の市街地から、真壁消防署前の交差点を山に向かって東に進めばすぐに見えてきます。




