
日本酒ができるまでのすべての工程を、自分の手で体験してみたい。
東大阪市の農業PR大使を務めるお笑い芸人・シャンプーハットてつじさんが立ち上げた「米から日本酒プロジェクト」。田おこしに始まり、完成した日本酒を味わうまでの過程を、たくさんの人と関わりながら共有する企画です。
“つくる”体験の一環として開催された、田植えイベントの様子を取材してきました。
「失敗せえへん人生はつまらん」――仲間と“つくる”挑戦

「40歳を過ぎて『大体こういうことをしたら結果はこうなるな』というのが分かってきたときに、失敗せえへん道ばっかり選んでつまんない人生で終わるのは嫌やな、と思ったんです。それなら今までやったことのない、人の助けが要るようなことをしてみようかと」
未知のこと、一人ではできないことにあえて挑戦しようと決めたとき、てつじさんの頭に浮かんだのは大好きな日本酒だったそうです。利き酒師の資格を持つてつじさんは「好きすぎて米から造ってみたくなったんです」と語り、田植えから稲刈り、精米、仕込み、搾り、瓶詰め、ラベル貼りまで、すべての工程を仲間とともに体験する「米から日本酒プロジェクト」を立ち上げました。

このプロジェクトは、日本酒を売ることではなく、造ることそのものが目的。みんなで造ったお酒をみんなで呑むまでが1シーズンとなっています。「米から日本酒を造る過程で、いろんな人と出会えたらいいなぁ」というてつじさんの想いのもと、毎年たくさんの人が日本酒造りに関わっています。
2019年にスタートしたプロジェクトは、クラウドファンディングを活用しながら酒造りのさまざまな「過程」をリターンとして提供してきました。今年からは一般向けの体験イベントとして、より多くの人が参加しやすい形で開催されています。
「米から日本酒」の第一歩、田植え体験

5月18日、東大阪市池島にある田んぼの前に、多くの参加者が集まりました。
田植え体験には、小さなお子さん連れのご家族からイベント常連のベテランまで、幅広い年代の方が参加。説明を受けたあと、グループごとに田んぼへと入っていきます。農業用の長靴を準備している人もいれば裸足の人もいて、各々自由なスタイルのようです。



日本酒造りに使用される酒米は、飯米と比べて稲穂の背が高い品種が多く、粒も比較的大きいのだそう。強風に煽られて倒れやすかったり、害虫がつきやすかったり、栽培が難しいと言われています。
そんな酒米作りを支えているのは、農業体験・支援・教育を通じて人と農をつなぐ取り組みを行っている「マイファーム」の上田さんと、東大阪市の農家・西田さんです。地域の縁も、このプロジェクトの大切な要素となっています。

「皆さんの楽しい声を、田んぼの微生物と稲に聴かせてください!」
いよいよ田植えがスタート。ボランティアスタッフが持つガイドを目印に、横一列になったグループが足並みを揃えながら苗を丁寧に植えていきます。



ご家族で参加されていた方に感想を伺ってみました。
「子どもはまだ小さいですけど、田植えなんてなかなか体験できないことですから。(お子さんに向かって)楽しかった? ――あ、めっちゃ頷いてますね」
「虫が好きな子なんで、田んぼのアメンボに大はしゃぎしてましたね」
お子さんだけでなく、ご両親のTシャツにもしっかりと泥ハネがついていました。「田植えを体験すると、その後の工程も見届けたくなってしまう」というのが、このプロジェクトの大きな魅力だといいます。


酒造りから広がる文化と縁
田植え体験のあとは、お待ちかねの昼食タイムです。
この日振る舞われたのは、カレーライスやレモンスカッシュ、惣菜パンなど。てつじさんは飲食ブースやキッチンカーにもイベントへ参加してもらい、お店のPRを積極的に行っているそうです。



人と人とのつながりを生むこのプロジェクトは、酒造りにとどまらず、活動の輪を少しずつ広げてきました。その一つが、「楽しく歴史、神社、街道を巡る」をコンセプトに活動している「歴神道(れきしんどう)」です。
「お米はお酒になるけど、藁は余っちゃうんですよ。何かに活用できないかということで『じゃあ、我々がしめ縄を作りましょう』と、ワークショップ企画が始まりました」

神社好き・歴史好きの方々で結成された歴神道は、稲藁アートを通じて日本の伝統文化を学び、伝えるために活動中。しめ縄作りのワークショップは、東大阪だけでなく、奈良、大阪市内、芦屋などでも開催しています。
今後の展望は
てつじさんは、完成した日本酒を商品ではなく「作品」と表現します。「今年の味はこうなりました、とみんなで確かめる感じですね。毎年味が違うんで。今年飲んで美味しかったお酒は、来年もう造れません」と語り、その年だけの作品としての面白さを感じているようです。

「一人ではできないからこそ、人が集まる。みんなでいろんな輪を作っていったらどんな形になるのか、それが楽しみです」
春の田植えを経て、秋には稲刈りイベントが予定されています。冬には日本酒が完成し一区切りとなりますが、このプロジェクトに明確なゴールは設けていないそうです。「いろんなことが起きたらいいなと思ってます」と笑うてつじさんの言葉どおり、「米から日本酒プロジェクト」には、予想もしない新しい出会いと思いもよらない面白さの可能性が広がっています。
てつじさんの情報
1994年、シャンプーハット結成。数々の賞レース受賞の経歴を持つ一方、ラーメン店のプロデュースや利き酒師としても活動。2021年に京都府綾部市の「あやべ地域交流大使」、2023年に大阪府東大阪市の「東大阪農業PR大使」に就任し、地域活性と情報発信に寄与されています。
Instagram:@miyatamenji
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