2月9日、語呂合わせで「肉の日」。
私はこの日、東京・日本橋で開かれたとある鹿児島県の試食会に足を運び、自分の中にあった鹿児島のイメージが、少しずつ書き換えられていくのを感じました。

——鹿児島といえば、桜島や黒豚。
そんなイメージを抱いている方も多いのかもしれません。
でも実は今、鹿児島は「和牛のオリンピック」とも呼ばれる全国和牛能力共進会で連覇を果たし、さらにお茶(荒茶)の生産量でも、長年首位だった静岡県を抜いて全国1位に輝いているのです。
知っているつもりで、実はほとんど知らなかった。
でも、なんで鹿児島なの?という疑問も同時に浮かんできます。
鹿児島の「本当の実力」が、料理の背景とともに、少しずつ輪郭を帯びていきました。
「向いていない」から始まった、鹿児島の強さ
なぜ鹿児島は、これほど多くの「日本一」を生み出しているのか。
その背景にあったのが、鹿児島特有の土壌「シラス台地」の存在です。
火山灰が堆積してできたこの土地は、水はけが非常によく、かつては稲作に不向きとされてきました。しかし、この“水がすぐ抜ける性質”こそが、お茶の根を健やかに育て、香りを際立たせる理想的な環境だったのです。
また、稲が育ちにくかった広大な台地は、大規模な畜産を行うためのフィールドへと姿を変えました。「米が作れない」という弱点を、和牛とお茶という強みに変えてきた鹿児島の歴史。現在では技術革新により、シラス台地での稲作も可能になっています。
日本の和牛、鹿児島仕込み
実は、日本各地で名を知られるブランド牛の多くも、ルーツを辿ると鹿児島生まれの子牛(素牛)であるケースが少なくありません。
鹿児島の繁殖雌牛(黒毛和種)の飼養頭数は約11万8千頭、肥育頭数は約14万3千頭と、いずれも全国1位。国内シェアはおよそ2割に達します。(鹿児島県肉用牛振興協議会資料より)
つまり、黒毛和種の“お母さん牛”も、“お肉になる牛”も全国最多。
日本の和牛の「5頭に1頭」は、鹿児島育ちという計算になります。長年、日本の和牛文化を量と質の両面から支えてきた存在——それが鹿児島でした。
その「影の立役者」として培ってきた技術と情熱を注ぎ込み、さらなる高みを目指して生まれたのが、今回いただいた「のざき牛」。
「誰が、どう育てたか」というプロセスにまで責任を持ち、納得のいく品質だけを届けたいという想いから、日本で初めて“個人名”を冠して誕生したブランド牛です。
日本橋の夜景と、鹿児島の「おいしい」を味わう
お料理をいただいたのは、日本橋のランドマーク「ユイト(YUITO)」のレストランフロア最上階にある「XEX(ゼックス)日本橋」。
オープンキッチンを備えた、都会的で洗練された空間が広がるイタリアンレストランです。

窓の外にはきらめく夜景。そんな非日常の舞台で、鹿児島の物語を“味わう”時間が始まりました。

1.鹿児島県産和牛(のざき牛)のラグーと新じゃが芋のニョッキ

ラグー(煮込み)に仕立てられたお肉は、フォークを入れただけでホロリとほどける繊細さ。サクサクのチーズや山菜の天ぷら、下にはもちもちのニョッキ。ひと皿の中で、味も食感もリズミカルに展開します。
実は鹿児島、じゃがいもの生産も盛ん。たとえばミネラル豊富な赤土で育つ「赤土バレイショ(品種:ニシユタカ)」は、ブランド芋としても知られています。
2.寒サワラのサルタート(ソテー)

ここでも、鹿児島ならではの技が。
このサワラには、調理前に桜島の火山灰を使った「灰干し」が施されています。
時に厄介者にもなる火山灰ですが、微細な粒子が魚の余分な水分や臭みを吸収し、旨みだけを閉じ込めてくれるのです。
表面は香ばしく、中はまるでお刺身のような“生感”。しっとりとした口当たりに、思わず驚かされました。
添えられたそら豆にも、鹿児島の底力が。
実はそら豆の生産量も全国1位。全国的には初夏のイメージが強い野菜ですが、温暖な鹿児島では12月から出荷が始まります。ひと足早く春を告げてくれる存在です。
3..鹿児島県産和牛(のざき牛)の盛り合わせ

高級イタリアンでありながら、思わず「ジャンキー」と言いたくなるほど、肉の旨みがストレートに広がります。スジなどの無駄は徹底的に取り除かれ、噛むことを忘れてしまうほどの柔らかさ。
添えられているのは、鹿児島の伝統野菜でもある「白なす」です。
戦前から親しまれてきた品種で、トロトロの食感が力強いのざき牛をやさしく包み込みます。
肉の余韻を、受け止める一杯「佐藤 黒」
至高ののざき牛を前に、ドリンクリストを眺めていた私の目に留まったのが、メニューに唯一載っていた焼酎——「佐藤 黒」。
かつて入手困難なプレミアム焼酎として名を馳せた一本です。霧島連山の清らかな水と黒麹仕込みによる、どっしりとしたコクが特徴。
お湯割りでいただくと、お湯の温かさが口に残る牛の脂をすっと溶かし、余韻を心地よく整えてくれます。
ワインが料理を華やかに引き立てるなら、焼酎は旨みを深いところで受け止めてくれる存在。同じ鹿児島にルーツを持つ者同士ならではの、静かな調和を感じました。
丁寧に淹れる、という贅沢
コースの最後を飾るのは、鹿児島が誇るお茶「かごしま茶」。
会場では、美味しい淹れ方についても教えてもらいました。
急須の場合は、最後の一滴までしっかり注ぎ切り、蓋を少しずらして蒸気を逃がすのがポイントです。このひと手間で、二煎目が驚くほど美味しくなるのだとか。
その大事なポイントを思い出しながら、後日、自宅でお土産のティーバッグを淹れてみました。丁寧に淹れた一杯は、心地よい苦みがありながら後味はすっきり。
お茶を淹れるという小さな所作だけで、
こんなにも満たされた時間が生まれるのかと実感しました。
普段、どれだけ適当に淹れていたかを思い知らされます(笑)。


鹿児島の底力を、五感で知る
「なぜ鹿児島なのか」という問いに、はっきりした一つの答えがあるわけではありません。
ただ、土地の個性を否定せず、向き合い続けてきたこと。
稲作に向かないと言われた場所で、お茶を育て、和牛を磨き、技術を積み重ねてきたこと。
その選択の積み重ねが、料理というかたちで自然と伝わってきました。
今、鹿児島県は「食の宝庫」として、その魅力を世界へ向けて発信しています。今回の料理で感じたような、土地の熱量やストーリーに惹かれた方は、ぜひ公式の動画やサイトも覗いてみてください。
▼「鹿児島黒牛」和牛日本一に輝く!(60秒Ver)
鹿児島県公式チャンネル
▼かごしま茶 品種茶 篇
公益社団法人鹿児島県茶業会議所



