
みなさんは、ご自身が住む町の魅力が他の地域に届いていると思いますか?
はい、と答えられる人はどのくらいいるでしょうか。
広島県の北西部に位置する北広島町も、土地に伝わる伝統芸能や思わず笑みがこぼれる美味しい食べ物など数々の宝を持ちながら、うまく発信できずにいました。
「一人でも多くの人に、北広島町の魅力を届けたい」
そこで立ち上がったのが、一般社団法人北広島町まちづくり会社はなえーる(以下、はなえーる)です。今回は、同団体の事務局長・沖中満春さんにお話を伺いながら、はなえーるの地域活性化の取り組みを追いかけます。
苦難の日々から始まった物語
2022年5月2日、はなえーるは北広島町によって設立されました。「はなえーる」という言葉は、広島弁で「始める」を意味する「はなえる」と「エール」を組み合わせた造語です。
北広島町の新たな取り組みを応援するため、地域商社・観光プロモーション会社・スポーツコミッションと3つの役割を持って誕生しました。
しかし、こうした地方創生事業の多くは、補助金頼りになっているのが現状です。自走できる仕組みづくりは、地方が抱える大きな課題の一つでしょう。実際、はなえーるも設立当初は、社内の役員や町民から「本当にやっていけるのか」と心配の声が上がる中で活動をスタートしました。
逆境の中、はなえーるは正面から収益化の難しさという課題に向き合いました。
そして現在、はなえーるのおもな収益の柱となっているのが、ふるさと納税のプロモーション事業です。北広島町の知られざる特産品を掘り起こし、多くの地域で販売することで自主財源を生み出しています。
しかし単に売上をあげるためではなく、この事業には「商品を通じて北広島町の魅力にも気づいてもらいたい」という、はなえーるの熱い思いが込められています。
地元企業と粘り強く対話を重ね、はなえーるは現在、北広島町で生まれた多くの返礼品を全国に向けて販売しています。出品したことがきっかけでじわじわと知名度が高まり、申込数が伸びた商品もあるのだとか。
愛する土地を元気にしたいという思いが、少しずつ実を結び始めたのです。
軽トラに情熱を詰め込む
はなえーるの挑戦の場は、その後町外にも広がりました。
イベントに出店すると聞くと、イベントブースに特産品やグッズが広げられている絵が浮かぶ人がほとんどでしょう。
しかし、はなえーるが町外に出店するときの様子は、一風変わっています。それは、軽トラックの荷台に特産品を並べていること。このユニークな取り組みは、どのように始まったのでしょうか?
「北広島町は自動車メーカーのダイハツ工業株式会社と業務提携を結んでいます。軽トラックを使っての出店も、ダイハツさんからお話をいただきました」
現在出店先は、広島市安佐南区の西風新都をはじめとした広島県内各地に広がっています。
軽トラの荷台に並ぶのは、アマゴの塩焼き・芸北サーモン・りんごジュース・ポークジャーキー・野菜など北広島町の食がぎゅっと詰まったラインナップです。
「一番よく売れるのは、野菜です。北広島のきれいな空気の中で育った新鮮な野菜は、多くの人に喜んでいただいています。その次は、2025年8~12月に開催された『OK!!広島“推し食”グランプリ』で決勝まで駒を進めた芸北サーモンと、ポークジャーキー。土地の特性を生かしたものが好評だと、とても嬉しいものです」と沖中さんは笑顔で話します。

軽トラックを使い、各地で営業するスタイルは2022年から始まったもの。徐々にリピーターも増えて、出店するたびに賑わいを見せています。
食と伝統芸能で魅せる
広島市内では、食と伝統芸能を融合したイベント「北広島レストラン」が、2025年1月と8月に開催されました。
北広島レストランでは、町で作られた食材をふんだんに使い、ビュッフェ形式で来場者をもてなします。

「料理の品数は、あえて厳選して少なくしています。お客様に満足いただけるよう、料理人と密にコミュニケーションを取りながらメニューを考えています」と沖中さんは話します。量より質にこだわるのは、北広島町そのものの価値を、存分に噛みしめてもらいたいからにほかなりません。
レストランの席数は、50席ほど。決して多くありませんが、そのぶん来場者一人ひとりの顔がしっかりと見えます。
北広島町の伝統芸能である神楽が始まると、空気は一変します。神々しい面や衣装を纏った演者がステージ上で華麗に舞う光景が、すべての人の時間を止めます。
数分前まで提供された料理に舌鼓をうち、会話を楽しんでいたはずの人々が場を支配する圧倒的な熱に、箸を動かすのも忘れて釘付けになるのです。
北広島町の住人にとって、神楽は子どもの頃から慣れ親しんだものなのだそう。しかし、町外の人からすると「太古の昔から受け継がれてきた伝統が、今目の前で繰り広げられている」と、思わず息を呑むのでしょう。
北広島レストランは、大地の恵みをふんだんに使った料理と、代々伝わる神楽が交差する唯一無二の空間です。食べて、見て、感じる。他では味わえない体験が、来場者全員の心に刻まれます。次回開催は、2026年11月の予定です。
小さな空間で繰り広げられる物語が「北広島町をもっと知りたい」という気持ちに結びついてくれたら……。はなえーるが、北広島レストランに込めた願いです。
小さな一歩が北広島町の未来を変える
沖中さんは「設立当初思い描いていた未来図は、50%くらい実現できたと思う。しかし、地域商社としての取り組みのみならず、今後は観光業にも力を入れていきたい」と話します。
町内外での活動を通じて少しずつ、しかし確実に、北広島町を知る人が増えてきました。一歩一歩、出会う人との絆を大切にしながら、これからもはなえーるの挑戦は続いていきます。
企業情報
会社名 一般社団法人北広島町まちづくり会社はなえーる
住所 広島県山県郡北広島町有田1234番地 北広島町まちづくりセンター内
企業HP https://hanayell.jp/



