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もの・こと  |    2026.07.12

創立80年の鯉淵学園が問う、日本の農業の未来|茨城県水戸市

茨城県水戸市の郊外、東京ドーム約8個分という広大な敷地をもつ鯉淵(こいぶち)学園農業栄養専門学校。2025年に創立80周年を迎えた歴史ある鯉淵学園は、戦後日本の食を支えるべく誕生し、多くの農業に携わる人材を輩出してきました。しかし時代の変化とともに学園は今、大きな転換期を迎えています。

今回は、森啓一理事長と常井孝之理事の二人に、学園の歴史から日本農業の未来までお話を伺いました。農業の危機がすぐそこまで迫っている今、私たちが知っておくべき「食と農業の現状」をお伝えします。 

歴史を誇る鯉淵学園は「農業の東大」と呼ばれていた


鯉淵学園は「農業の東大」とまで呼ばれ、定員100名程度に対して3,000名を超える応募が殺到した時代がありました。それほどまでに、鯉淵学園は日本でも有数の歴史ある農業専門学校として歩み続けています。 

鯉淵学園はかつて、学生と教師が寝食を共にする全寮制で、朝5時に起床し皇居の方角に向かって建てられた神社の前で祈りを捧げることから一日が始まりました。「鍬(くわ)一本で土と触れ合うこと」を何よりも大切にし、農業に励む若者たちの姿が、鯉淵学園の日常でした。 

この教育の根底には、満蒙開拓(満州に農民を移住させた国の政策)の地で家族や仲間を失い、命からがら帰還した先人たちの思いがありました。

鯉淵学園創立の原点は戦後復興


学園のルーツは戦時下の日本にまで遡ります。

「この学校は以前、満蒙開拓の幹部訓練所と指導員養成所だったんです。当時、日本は満州国(現在の中国東北部) を持っていて、そこに指導員や幹部として送り出す人材をこの地で育てていました」。

1938〜1945年までの約7年間、ここで研修を受けた人は約1万5千人。数ヶ月〜1年の訓練を経て、満州へと旅立っていきました。しかし、終戦が彼らの運命を一変させます。

「日本が負けて、ソ連が攻め入ってきたんです。指導員や幹部という立場上、家族や若い農業従事者たちを守らなければいけなかった。でも、限界がありました。家族を失い、シベリアに連れて行かれた人もいて、全体の3分の1ほどが亡くなったといわれています」。

命からがら日本に帰還した約1万人弱が、再びこの鯉淵の地に戻ってきたそうです。

「彼らは、家族や若者たちを守れなかったという自責の念にとらわれました。二度と戦争を起こしてはいけない、そして焼け野原になった日本を、農業を通じて自分たちの手で復興させるんだと。その想いから始まったのが、鯉淵学園なんです」

農業で日本を再生させると誓った強い思い。その志が、今も鯉淵学園の教育の原点となっています。

存続の危機に瀕した鯉淵学園と私財を投じた森理事長の決断

日本の復興を支えてきた鯉淵学園ですが、近年は厳しい経営状況に直面しているそうです。

「もともとは農水省傘下の学校で、毎年補助金が入っていました。でも民主党政権の事業仕分けで、それがカットされてしまったんです」。

以来、学校運営は困難を極めました。この危機に対し、自らの人生をかけて立ち向かっているのが、森理事長です。IT企業の社長としての顔を持ちながら、学園の再建に力を注いでいます。 

「それでも、この学校を絶やすわけにはいかない。先人たちの思いがありますから」と理事長の力強い言葉がありました。

日本農業が迎えた、崖っぷちの現状 

日本農業の衰退は進んでおり、日本の危機が迫っていると理事長は警鐘をならします。

「日本の食料自給率は38%と言われていますが、実態はもっと深刻です。鶏のヒナに至っては100%輸入。つまり、卵の自給すら本当は危ういんです」。

日本は海外輸入に大きく依存しており、さらにもう一つの危機も指摘されています。

「青森のリンゴ農家のような、誰もが知る有名産地でも、後継者がいなくなっているんです。産地そのものが消滅しかねない状況です」

担い手を失った農地は、今や埼玉県一つ分にも相当するほどの面積が「耕作放棄地」となっています。そしてその土地は、単に放置されるだけでなく、今、別の深刻な問題がでてきています。 

「外国に買われた国土は、約2700ヘクタールにも及びます。和歌山県では9つある水資源のうち、7つが中国資本に押さえられている。さらに、外国人が農地をフェンスで囲んで中を見えなくして、産業廃棄物の集積場や中古車パーツの輸出拠点にしているケースもあるんです」。

私たちが知らないところで、日本農業を支える土地が失われ、衰退が加速していることに、強い危機感を抱かずにはいられません。 

あと数年がリミット|日本農業に突きつけられた課題

では、なぜここまで日本の農業は衰退しているのか。それは、担い手の高齢化です。

「農業従事者の平均年齢は69歳。米農家に至っては73歳です。あと5年、長くても10年で、多くの方が現役を退くでしょう。今、本気で手を打たなければ、日本の農業は崩壊します」。理事長の言葉には、切迫感が漂っていました。

また、親世代が「儲からないからやめなさい」と止めてしまうのも大きな壁となっています。 

さらに国の施策についても、常井理事は疑問を投げかけます。

「安全保障の観点で言えば、アメリカからミサイルや戦闘機を買う前に、まず食料自給率100%を目指すべきなんです。食の安全保障がなければ、国は守れません」。

武器よりも、まず食。日本の課題はそこにあると、二人は強調します。

鯉淵学園の今後の取り組み

「これからの鯉淵学園は、農業教育だけでなく、失われた教育そのものを取り戻す場にしたい。ドローンや農業機械の資格取得はもちろん、AIやIT技術もどんどん取り入れていきます」。

伝統を守りながらも、最先端技術を融合させる。それが新しい鯉淵学園の姿と森理事長は語っていました。さらに、卒業生が活躍できる環境も整えているとのことです。

「大手企業と連携して、学生や卒業生が育てた農産物を全量買い取っていただく仕組みも作っています。安心して農業に飛び込んでもらえる環境を整えているんです」。

稼げない、厳しいといった負のイメージを払拭し、若者が生活していける基盤を整えること。理事長の言葉からは、日本の農業を取り戻そうとする決意が伝わってきました。 

その一方で、どれほど手厚い支援体制を整えても、その情報が必要な人に届かなければ意味がありません。そこで常井理事は、情報発信の強化にも力を注いでいます。 

「実は国の補助金制度はかなり充実していて、新規就農者には年間150万円の支援が出るんです。でも、制度が複雑で知られていない。だから動画などでわかりやすく伝えて、農業を志す人や応援団を増やしていきたい」。

鯉淵学園の取り組みは、日本農業の未来を設計する壮大なプロジェクトへと広がっています。

これからは農業で資産家になれる時代へ

森理事長は、世間のイメージとは真逆の「農業の可能性」を語っています。 

「農業は、一次産業の中のブルーオーシャン(競合が少ない市場)なんですよ。20代、30代の若い人たちが今、農業に参入すれば、5年後、10年後には広大な土地を持つ資産家になれる可能性があります。農業は決して儲からない仕事ではない。むしろ、これほど面白くて夢のある仕事はないということを、ぜひ知ってほしいですね」。

常井理事は私たち消費者ができる役割について、こう呼びかけます。

「自分で農業をやらなくてもいいんです。応援団になればいい。例えば、サブスクで農産物を買うとか、生産者を支える仕組みに参加するとか。そうした一人一人の支えが、若者が農業に飛び込める環境を作るのです」。

日本は、食料自給率38%という数字が示す以上に、深刻な危機を抱えています。そんな中、鯉淵学園の森理事長と常井理事は、自らの私財を投じてでも、この国の食と農業を守ろうと力を尽くしています。

私は、自分自身の利益よりも日本の未来を優先して行動する二人の姿に、胸が熱くなりました。日本の農業に一人ひとりが関心を持つこと。それが、未来を変える第一歩だと、この取材を通じて強く感じました。

鯉淵学園農業栄養専門学校

所在地:茨城県水戸市鯉淵町5965
TEL:029-259-2811
公式サイト:https://www.koibuchi.ac.jp/ 

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この記事を書いた人

田畑 幸康

千葉県船橋市で2人の子育てに奮闘中の元保育士ライターです。 我が子の育児はまさに試行錯誤の毎日。「これでいいのかな?」と悩むことも少なくありません。 そんな私のリアルな経験談と保育士目線を交えながら、千葉県に特化した子育て情報を発信します。少しでも皆様のお力になれたら嬉しいです!

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