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人  |    2026.04.23

「ないものは、自分でつくればいい」。家業のサポートとブランドオーナー、二つの顔を持つ私の選択

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ライフステージの変化や家族の事情で、キャリアチェンジをする女性は少なくありません。
東京から銚子へ移住し、夫の実家が営む農業の手伝いと育児をしながら、畑で育てた野菜やフルーツを使ったフードブランド「Dig in!!by…(ディグイン!!バイ…)」を立ち上げた笹本望美さん。
義実家の家業という環境の中で、妻が主体性を持った働き方を築いていくにはどのようなストーリーがあったのでしょうか。移住の決断やブランド立ち上げのきっかけについて、お話を伺いました。

片道2時間の通勤か、家族との時間か。銚子に根ざす覚悟を決めた瞬間

家族

━東京から銚子への移住の理由は何だったのでしょうか?

夫の実家が銚子で農業を営んでいて、いずれは夫が家業を継ぐことになっていました。いつ移住をするのか、タイミングの決め手となったのは、娘が生まれたことです。

当時、私は東京のジュエリーショップで店長をしていて、娘が生まれ育休をとっていました。もともと、夫も私も子育てをするなら、自然豊かな場所でしたいという気持ちがあり、それも移住の後押しとなりました。こちらに来て今年でおよそ7年になります。

━銚子に移住してからの生活は、どのように変わりましたか?

私にとって銚子は初めて住む場所で、友達もいませんでした。移住した当初は、まだ会話ができない幼い娘と2人でいる時間が長く、話し相手に飢えていましたね。

移住して2年間は育児に専念して、そのあと本格的に農業に携わるようになりました。
移住当初は、ごく当たり前にジュエリーの仕事に復帰するつもりでいましたし、夫も義理の両親も賛成してくれていました。

ただ、銚子から東京へ通勤するとなると、片道2時間かかります。通勤にこれだけの時間をかけて元の職場に復帰することが、今の私の本当の望みなのだろうか。そう考えたとき、その時間を家族と過ごす時間に充てたい気持ちが勝り、退職を決めました。

ある意味、銚子に根ざして暮らしていく覚悟が決まった瞬間でもあったと思います。最終的に農業への転身は、望まれたからではなく、私自身が決めたことなんです。

外から来た私だからこそできることを。ジュエリー業界の経験を糧に、ゼロからブランドを築く

━「Dig in!!by…」というブランドはどのように始まったのですか?

「Dig in!!by…」は、私たちが畑で育てた野菜や地元のフルーツを使ったフードブランドです。ブランド名には、食を楽しんでもらいたいという思いを込め、英語で「いただきます」という意味の「Dig in」を入れました。

このブランドでは、セミドライフルーツやお野菜の詰め合わせ「Dig in!!BOX」を販売しています。どちらも、もともとは私たち家族用に作って食べていたものでした。

セミドライフルーツは、半生状態なので、ドライフルーツよりも柔らかくて、果物の風味や果汁も感じられます。
娘が喜んで食べているのを見て、「これは大人も子供も美味しく食べられるおやつだ」と思ったんです。子供用の味付けに大人が合わせるわけでもなく、大人も子供も同じように満足できるおやつがあったら喜ばれるのでは、と考えたのが始まりでした。

銚子でそういう商品を見かけなかったので、商品化して販売してみるのはどうかと夫に相談したところ、「やってみたら」と背中を押してもらえました。
セミドライフルーツには、家業で育てたいちじくや、地元の農家さんが作った銚子メロンなど、生産者の顔が見えるものを選んでいます。

パッケージに入ったセミドライフルーツ。銚子メロンのセミドライフルーツも

Dig in!!BOXに入れているゼブラナスやハラペーニョなどの西洋野菜も、もともとは家族の食卓用に作っていたものです。家業の主力商品はキャベツや大根、お米ですが、西洋野菜は食材や料理に探求心旺盛な夫が、趣味の延長で育てていたものでした。

家族で食べきれない分を、詰め合わせてラッピングして友人にあげたら、それが喜ばれて。その際に「これを欲しいと思う人が他にもいると思う」と友人に言われたのが商品化のきっかけです。
西洋野菜は、スーパーにはあまり並んでいない珍しさがあるうえに、見た目も鮮やかで可愛らしいので、私自身も料理していて気分が上がります。同じように面白がってくれる人がいるのではないかと考えました。

Dig in BOX
西洋野菜を詰め合わせた「Dig in!!BOX」

━ 商品パッケージやInstagramでの発信など、どれも洗練されていて素敵ですね。商品開発などもお1人でされているのですか?

はい。商品開発からお客様への発送まで、基本的にすべて1人で行っています。
以前、ジュエリーの仕事で商品開発に携わっていたことがあり、ゼロからアイデアを形にしていく力は、その頃に鍛えられました。

現在は主にInstagramから注文を受け付けていますが、商品の背景や野菜の魅力が伝わるような発信を心がけています。

ジュエリーの仕事の前には、百貨店の化粧品売り場のバックオフィスを担当し、商品の魅力を伝える仕事もしていました。そのときに身につけた写真の見せ方や言葉の選び方が、今の発信にも活きています。

Instagram
InstagramでDig in!!by…の活動を発信。写真はいちじくのセミドライフルーツ。 

━家事育児やブランドにとお忙しい日々だと思いますが、1日の時間配分はどうされていますか?

朝、娘を学校へ送ったあとは、畑に出て家業をサポートしています。11時半ごろから夫と義理の両親の昼食を作り始め、皆で昼食をとったらまた畑に戻ります。夕方17時台には娘の習い事の送迎などがあり、夕食の準備から娘の就寝までが1番慌ただしい時間です。
商品の仕込みなど、Dig in!!by…にまつわる作業に取り掛かるのは、たいてい21時頃からですね。

週末はできるだけ家族の時間にしていますが、繁忙期には娘も連れて畑で作業することもあります。

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家族の昼食には、Dig in!!by…の野菜を使った料理を

━やはり、お忙しい日々なのですね。そうした生活の中で、望美さんにとってDig in!!by…の活動は、どのような位置づけなのでしょうか?

もっと、Dig in!!by…の活動に時間を割きたいと思うこともありますが、生活基盤は家業にあり、私もその一員として働いています。時間配分が悩ましいというのが正直なところです。それでも、自分が立ち上げたこのブランドを大事に育てていきたいと思っています。

義実家の家業は、キャベツや大根、お米といった、人々の食卓を支える「日々の糧」を作る大切な仕事です 。一方で、私が立ち上げたDig in!!by…が届けるのは、珍しい西洋野菜やセミドライフルーツといった、日常に彩りを添える「心の豊かさ」につながるものです。

家業が培ってきた土台があるからこそ、私はDig in!!by…に挑戦できます。地域にまだなかった新しい食の楽しみ方を提案することは、外から来た私だからこそできることだと気づきました。

Dig in!!by…は私の居場所であり、自己表現の場でもあります。大きく展開しているビジネスではありませんが、自分のアイデアを活かして表現できる世界があるのが大きな喜びです。

一歩踏み出してマルシェへ出店。地域とつながる「居場所」になった

━Dig in!!by…はマルシェにも積極的に出店されていますよね。どんなきっかけで出店したのですか?

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友人に誘われて、マルシェを見に行ったのがきっかけです。
「今度出てみたら」という友人の言葉を受けて、次の回で出店してみて、そこからは別のマルシェにもお声がけいただくことが増えました。
徐々にマルシェに来るお客様や出店者同士の人間関係も広がっていきました。

大きな流通に乗せるのとは違って、お客様の顔が見える場所で、自分が作った商品を直接お届けできるのが嬉しいですね。

そして、自分も地域の人とのつながりの中にいると思えるようになりました。話し相手がいなくて孤独感を抱えていた時期からは、想像できなかった日々を過ごしています。

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マルシェではDig in!!by…の野菜を使ったサンドイッチも登場

「ないものは自分でつくろう」という発想で世界を広げる

━ハーブのブーケを作るワークショップも開催されていましたが、それはなぜですか?

私自身が野菜と一緒にハーブを育てていくうちに、ハーブの魅力に惹かれていきました。
ハーブには香りのほか、花束にして見た目の可愛らしさを楽しんだり、飲み物やお料理に入れたりと、たくさんの楽しみ方があります。

そうした中で、実用とはまた別の「生活の豊かさを味わうこと」をテーマにした習い事が身近にないなと感じたんです。

セミドライフルーツのときと同じように、「ないものは自分でつくろう」という発想で、自らワークショップを開催することにしました。
おかげさまで、参加されたみなさまにはとても喜んでいただけました。

暮らしは変わっても、私は私のまま。過去のキャリアが今の私の色鮮やかな毎日につながった

━今の暮らしに思うことや、ご自身の心境に変化はありましたか?

娘にとって畑は遊び場でもあるようで、自分なりに遊びを生み出したり、ときには畑で昼寝をしたりなど、のびのびと成長していく姿を見て、本当にこの暮らしを選んでよかったと思っています。

農業は、想像していたよりもはるかに計画性や管理が必要な世界でした。特に家業の方は、大量生産のための効率が求められます。一方、Dig in!!by…が喜ばれるのは、手書きのタグのような温かみのある非効率な部分です。
家業があってこそ成り立つDig in!!by…ですし、夫や義理の両親が応援してくれているからこそできることでもあるので、家族には本当に感謝しています。

━今後、やってみたいことや計画していることはありますか?

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望美さんが手がけたディスプレイ

最近は、マルシェでの飾り付けをお客様に褒めていただいたり、飾り付けを見た方からお声がけいただいて、イベントのディスプレイを頼まれる機会が出てきました。思わぬところからお仕事につながったことが嬉しかったですし、私にとってわくわくするお仕事です。
今後は、ディスプレイ関連のご依頼も、増やしていけたら嬉しいです。

━今のお仕事は、過去のキャリアが活かされていることばかりですね。

そうですね。自分でも気づかないうちに、今の生活で「キャリアの伏線回収」をした気がします。実は、イタリアンのレストランで働いていたこともあるんですよ。Dig in!!by…の野菜を使った料理には、レストランでの経験が役に立っています。

イタリアンレストラン、化粧品、ジュエリー、農業とそれぞれの職業の関連性はなさそうに見えますが、今思えば、過去にやってきたこと全部が今につながっています。

━夫の実家というフィールドで妻がビジネスをもつというのは、なかなかハードルが高いことだと思いますが、その実行力はどこからくるのでしょうか。

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手書きのメッセージカード

私は多分、楽しいと思える方向に自分を向かわせるのが得意なのだと思います。ネガティブな発想が浮かぶ間もなく、思いついたアイデアを実行に移します。

自分のアイデアをかたちにするのが好きなのは昔からですね。だから今も「相変わらずな私」であって、暮らしは変わったけれど、私自身は変わっていない気がします。
移住したときは、孤独感でグレーに見えていた日々が、今ではカラフルになりました!

取材後記

かつて孤独感の中でグレーに見えていた望美さんの日々は、今、自ら生み出した新しい挑戦によってカラフルに彩られています 。彼女が商品に添える「Enjoy!! your colorful days」という言葉には、かつての自分と同じような状況にいる誰かの日常に彩りを届けたいという、望美さん自身の願いが込められているのかもしれません。

写真提供:笹本様

■プロフィール

笹本望美さん
東京・銀座でジュエリーショップの店長としての勤務を経て、出産を機に銚子に移住。2022年にフードブランド「Dig in!!by…」を立ち上げ、セミドライフルーツや野菜の詰め合わせ「Dig in!!BOX」などの商品を展開。銚子での暮らしや「Dig in!!by…」の活動についてInstagramで発信中。

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この記事を書いた人

小田 明子

群馬県太田市出身、東京在住のライター。東京や群馬をはじめ、関東圏を中心に、人の暮らしや仕事、その土地に根ざした営みを取材・執筆しています。 そこで暮らす人や、その土地で活動する人の言葉に耳を傾けながら、身近な地域の中にある魅力や物語を丁寧に伝えていきます。

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