2025年の大阪・関西万博で大きな話題を呼んだ「イタリア館」。《ファルネーゼのアトラス》やレオナルド・ダ・ヴィンチの《アトランティコ手稿》を一目見たいと、多くの来場者が足を運びました。会期後半には入館に7、8時間待ちが当たり前になっていたのは記憶に新しいですよね。
イタリア館の展示品の一部が、万博閉幕後に大阪市立美術館で公開されたのが、特別展《アトラスの至宝展》です。本展はすでに終了していますが、内容が非常に充実しており「見逃した人にも伝えたい!」と感動する展覧会でした。
本記事では学芸員の資格を持ち、芸術鑑賞を趣味にしているわたしが、実際に鑑賞した立場から展示内容の魅力を振り返ります。「芸術鑑賞は格式が高そう……」と思っている人でも楽しめるように解説しますので一緒に楽しみましょう。
そして、最後には衝撃の大ニュース!あの名画が来日!2026年激アツの展覧会についてもご紹介しますので、ぜひ最後まで読んでいってくださいね。
大阪市立美術館での展示

2026年は日本とイタリアは国交樹立160年の節目を迎えます。これを祝して、特別展が開催されました。イタリア政府代表のマリオ・ヴァッターニ大使は「この展覧会は、万博会期中、イタリア館を温かく情熱的に迎えてくださった大阪の皆さまをはじめ、日本の方々への感謝の意味があります」とコメントしています。


万博での交流に続き、特別展という形で改めて友好を深めた本展。展覧会を企画してくれた大阪市立美術館には感謝しかありません。貴重な機会を逃してなるものか!と意気揚々とチケットを取りいざ出発!
大阪市立美術館
- 公式サイト:https://www.osaka-art-museum.jp/
- 開館時間:午前9時30分~午後5時(入館は午後4時30分まで)
- 休館日:月曜日(月曜日が祝日の場合は開館し、翌平日休館)
- 年末年始(12月28日~1月4日)
- 住所:大阪府大阪市天王寺区茶臼山町1-82(天王寺公園内)
- 電話番号:06-6771-4874
- 最寄り駅:各線 天王寺駅
ファルネーゼのアトラス

入ってすぐにイタリア館のムービーを視聴した後には、さっそく《ファルネーゼのアトラス》の展示が! 初めからクライマックスです。日本初公開の本作品は、高さ2メートル、重さ2tの大理石彫刻です。
ギリシャ神話に登場する巨人アトラスが、オリュンポスの神々との戦いに敗れ、罰として天球儀を支えている姿が表現されています。ご覧ください。ほとんど白目を剥いているアトラスのしんどそうな顔を……。手の血管から筋肉の隆起までとってもリアルで精巧に作られていますね。

注目すべきは、彼が抱える現存最古の天球儀に刻まれた星座です。描かれている星座は、実際の星の位置関係とほぼ一致しており、正確な天文学の知識に基づいて作られたことがうかがえる貴重な資料なのです。
せっかくなので友人と一緒に自分の星座はどこだろう?と探してみました。一周ぐるっと写真を取ってきたので、自分の星座を見つけてみてくださいね!






どの角度から見てもリアルな美しい造形でドキドキしてしまいますね。実はこの像、発掘当時は天球と胴体と顔の一部しか残っていなかったんです。手足などは発掘後の16世紀に補われた部分。その事実を知ってからもう一度像をみると……。

確かに、胴体と手足の色が違います!初見ではまったく気づかないくらいに綺麗に修復されていて、感心しました。知ってると知らないでは見え方が変わるのが、美術鑑賞の面白いところ。修復部分と現存部分の色調の違いを意識してみることで、彫刻の歴史を読み取ることができます。
古代ローマの人々が見上げていた星空を、現代の私たちが追体験できる。ロマンを感じさせる作品でした。
正義の旗

続いて展示されていたのは、ルネサンスを代表する画家であるペルジーノ作の《正義の旗》。ラファエロの師として知られる画家の作品で、イタリア国外での展示は万博が初でした。

本作はもともと、聖ベルナルディーノ信徒会が行列用の旗として依頼したもの。構図は二段にわかれており、上は天使たちと聖母子、下は祈りを捧げる聖人や信者たちです。
中でも目を引くのは、熾天使(してんし)と呼ばれている顔に羽が6枚生えている天使。天使には9つの階級があり、熾天使は神の玉座に一番近い最高位の天使なんです。天使と言えば、人間の背中に羽が生えているものが一般的なイメージですが、熾天使のような異質なものも存在するのには驚きでした。
伊東マンショの肖像画と再現服

展示には、日本史とも深く関わる作品も含まれていました。天正遣欧少年使節の1人、伊東マンショの肖像画の複製です。天正遣欧少年使節。学生の頃に習ったことがあるような、ないような?と必死に記憶を探りましたが正直覚えていませんでした……。
伊東マンショは16世紀にヨーロッパへ渡り、日本とイタリアを結んだ最初期の人物の1人です。天正遣欧少年使節の伊東マンショ。覚えて帰りましょう!
さらに、肖像画から当時着用していた服を再現したというユニークな展示が。なんでも、研究の一環としてリネンやシルク、コットンなどの天然素材に拘り、イタリアの職人が当時の裁縫技術を使って作成したそうです。単なる絵画展示にとどまらず、歴史研究の成果を視覚化した展示でもありました。

アトランティコ手稿
最後はこちら!皆さんご存じ万能の天才、レオナルド・ダ・ヴィンチの《アトランティコ手稿》です。《モナリザ》や《最後の晩餐》を描いたことで有名なダ・ヴィンチがどのくらい万能なのかというと……。
芸術・科学・数学・幾何学・天文学・動植物学・物理学・建築・土木・軍事技術・人体解剖学、その他多くの分野に精通しています。あまりの万能具合に開いた口がふさがりません。さらに今回の《アトランティコ手稿》はさらなる鬼才っぷりが見られました。
手記に記された文字は、草書体の鏡文字で書かれています。その理由については、発想を他人に盗まれないようにするためと言われています。右から左へ文字が書かれているのは、レオナルドがもともと左利きで、また正規の教育を受けずに直される機会もなかったからと言われています。
(キャプションより)

草書体の鏡文字で、メモを?驚きすぎて思考が止まりそうでした。天才はやることが違いますね……。イタリア語が読める人はぜひ天才っぷりをご覧ください。
第156紙葉 表『水を汲み上げ、ネジを切る装置』

第1112紙葉 表『巻き上げ機と油圧ポンプ』

芸術を浴びたひととき

特別展の展示作品は4つでしたが、内容の密度は非常に高い展覧会でした。「イタリア館の展示物がすごいらしいから観に行こう」くらいの軽い気持ちで来館した結果、古代彫刻、ルネサンス絵画、日本史、西洋科学史まで横断的に触れられて大満足です。
専門知識がなくても「なんとなく気になる」で訪れてみると、新しい発見がある。そんな美術展の楽しさを改めて実感させてくれる内容でした。
次に注目したい展覧会情報|今夏《真珠の耳飾りの少女》が来日!

特別展を見終わってホクホクしていたら、フライヤーコーナーに号外が。
なんと、誰もが知る名画、フェルメール作《真珠の耳飾りの少女》が2026年夏に来日決定!本作品は、オランダの黄金時代の美術を代表する画家の最高傑作のひとつで、マウリッツハイス美術館の至宝です。原則館外に貸し出されておらず、日本での公開は14年ぶり。
マウリッツハイス美術館のマルティネ・ゴッセリンク館長は「この《少女》の旅は、日本の皆さまに彼女を送り届けられる、おそらくは最後となるであろう特別な機会です」と公式サイトにコメントを寄せいてます。
開催概要(2026年2月現在)
- 主催:朝日新聞社、大阪中之島美術館、朝日放送テレビ
- 会期:2026/8/21~2026/9/27
- 会場:大阪中之島美術館
- 公式サイト:https://vermeer2026.exhibit.jp/
その他の詳細は2026年2月下旬ごろに公式サイトで発表予定。公式サイトでマルティネ・ゴッセリンク館長がおっしゃっている通り、今後《真珠の耳飾りの少女》が日本で公開される機会はないかもしれません。めったにない貴重な機会なので、絵画に詳しくない人も、ぜひご鑑賞を考えてみてくださいね。
芸術に触れる良いきっかけになるのはもちろんのこと、今回の《アトラスの至宝展》のように展覧会を企画してくださった方々の気持ちを知ることができる良い機会になると思います。




